第三十八話 接触
弘次郎はエレナと分かれたあと、船着場への道をゆったりと歩いていた。考えることはナルヴァとの戦闘。相手の攻撃力と手数が多い攻撃、それから異常な防御力に攻めきれないでいた。何とか倒せたからいいものの、苦戦をしいられていたことには変わりない。もっとしっかりしねぇとな、と心に決める。
「隆元流一ノ太刀 残響!」
考え事をしていた弘次郎の背中にゾワゾワとした悪寒が走り、振り向きざまに残響を放つ。三十五の斬撃が樹々を次々と切り倒す。切り倒せる数が五増えてるが、そんなことはどうでもいい。
問題は、残響をもろに食らっても微笑んでいる青髪のお前さんだ。
「はじめまして、と言った方がいいかしら?」
白色のスカートをちょんっと摘み、青髪の女性は優雅に一礼する。弘次郎は青髪の女性の一挙手一投足を逃さんと見据えていた。
「私は黒の神と人間達から崇められています。以後、お見知り置きを」
対峙してわかる濃密な死の予感。史上最強とも言われた剣士であっても、背中に嫌な汗をかかずにはいられなかった。
こいつぁやべぇな。俺でも勝てる気がしねぇ。
「んで?黒の神とやらが俺に何のようだ?」
最大現に警戒しながら問う弘次郎を見て、黒の神はクスッと嗤う。笑うのでは無く、嗤った。
「いえ、史上最強と言われても人間。たかが人間が本当にナルヴァを倒したものですから、会って見たくなっただけですよ」
「その言い方だと、まるでナルヴァを誰かが動かしたようじゃねぇか」
すっと目を細めた弘次郎の言葉に、黒の神はまた嗤った。
「私じゃありませんが、血の神がやったんじゃないかしら」
ギリギリッと持ち手が軋むほどに大太刀を握り締める。さも他人事のように言ってるが、ナルヴァが街を蹂躙している様子をお前さんも楽しんで見ていたことは容易にわかる。止めようとしなかったのが何よりの証拠だ。こいつは、逃がしちゃいけねぇ。
「隆元流十二ノ太刀 孤月」
一瞬で五mの距離を詰め、黒の神の頭めがけて大太刀を振り下ろす。銀線が半円を描きながら地面を両断した。
「危ないじゃないですか。乙女になんてことするのですか?」
「お前さんが乙女だ?笑わせるなよ」
どっからどう見ても化け物だろうが、とは口に出さない。出した瞬間死ぬことはわかっていた。
「あら?時間ですね。それでは、また」
黒の神がそう言葉にした瞬間、一陣の風が吹く。風が止んだ時には、黒の神の姿は消えていた。




