第三十七話 決着
弘次郎は鞭の様に唸り頭を叩き割らんとするナルヴァの二本の尻尾を捌き、弾き、いなし、受け流し、紙一重で躱し続ける。あたったらまずは無事にいられないため迂闊なことはできず、なかなか攻めに転じることができないでいた。
「隆元流十ノ太刀 飛燕」
弘次郎は振るわれ尻尾を後ろへ飛んで避け、半円状の斬撃をナルヴァへ飛ばす。放たれた半円状の斬撃は、ナルヴァの二本の尻尾を大きく弾き、少なくない隙を作り出した。
弘次郎がそんな隙を見逃すはずなく、隆元流歩法 音無でナルヴァへ急接近する。先程まで弘次郎がいた地面を、尻尾が粉砕した。
「ちっ、隆元流歩法 虚蹴」
ナルヴァの頭へ斬撃を叩き込もうとした弘次郎は、ナルヴァの口へ集まる光を見て、虚空を蹴って射線上から外れる。
数瞬後にナルヴァの口から光の光線が迸り、すぐそばの地面を穿った。
「なんつー威力だよ」
地面へ着地しながら、弘次郎は穿たれた大穴を見て悪態をつく。攻め切れねぇな。どうするか。こいつの攻撃自体はなんともねぇが、皮膚の硬さが厄介だ。せめてその皮膚を切り裂く威力が欲しい。はぁ、これだけは使いたくなかったんだがな。仕方がねぇ。
「隆元流十一ノ太刀 一閃」
大太刀を納刀し、迫り来る二本の尻尾を冷静に見つめる。そして、大太刀を抜き放った。二本の銀閃が煌めき、二本の尻尾を根本から切り飛ばす。長い尻尾は宙を舞い、地面へ落ちた。
「グォォォォォォォォォォン!!」
尻尾を切り飛ばされた痛みからナルヴァは大きな咆哮を上げる。所詮は知能のない獣か。拮抗した実力を持つ物同士の戦闘では、先に隙を見せた方が負けることをわかっちゃいねぇ。
「隆元流歩法 音無」
咆哮を上げ続けるナルヴァへ音を立てずに肉迫すると、大太刀を上段に構えた。
「隆元流十二ノ太刀 孤月」
銀閃がナルヴァの頭から尻まで煌めき、数瞬遅れてナルヴァの体が斜めにズレた。ずれたところから赤い血が噴き出し、二つに別れた体は地面へ倒れ伏す。ナルヴァは切られたことすら気づかないまま、絶命した。
「ふぅ」
弘次郎は一息吐くと大太刀にべったりついた血を拭い、納刀する。さて、片付いたわけだが、この後始末どうすんだ?ま、後ろから近づく気配に任せりゃいいか。
「エレナ、終わったぞ」
エレナが隠れているであろう岩に、弘次郎は出来るだけ優しく声を掛ける。数秒後、エレナは岩からひょこんと顔を覗かせた。
大丈夫そうか。
「それじゃ、俺はいくからな」
「えっ!?せめてお礼を!」
「礼なんかいらねぇよ。強者と戦えた、それで満足だ」
それだけ言うと弘次郎は踵を返し、狐族の女性が待っている桟橋へ向かった。
そんな弘次郎の後ろ姿を、エレナは熱っぽい視線で眺めていた。




