第三十五話 急走
弘次郎とエレナはあれから馬車で近くの港町まで走り、港町の船着場に立っていた。船着場からは遠くに大きな大陸が見える。
「あそこか?」
「はい」
弘次郎は確認の意を込め、エレナへ尋ねる。エレナは頷きながらも今にも泣き出してしまいそうな顔をしていた。
「そんな顔すんな。天災級ごときに負けるほど、やわじゃねぇよ」
「あっ」
弘次郎はゴツゴツとした無骨な手で、しゅんとしているエレナの頭を軽く叩くようにして撫でた。
「安心しろ、とまでは言わねぇ。だが、今からそんな顔してと仕方がねぇだろ。前向いて胸張ってろ」
「は、はい!」
よしよし、持ち直したな。それにしても、そんなに強いんかね、そのナルヴァってやつは。東大陸にも天災級程度ならいるだろう。なのにわざわざ南大陸まで救援を求めるってことは、どういうことだ?
「あ、来ましたよ、コウさん」
「ん?あぁ」
ふと顔を上げると、一つの小船が船着場に停まっていた。東大陸行きの船は今はねえってわけか。ま、それも当然か。
「エレナ、早く乗って!判別不可能の化け物も!」
小船の窓から狐族の女性が顔を出し、そうエレナと弘次郎に呼びかける。弘次郎とエレナは急いで小船へ乗り込んだ。
「飛ばしていくよ!しっかり捕まってな!!」
狐族の女性は弘次郎達にそう伝えると、小船を走らせた。風を切り、水を切り、小船は猛スピードで東大陸へ向かう。
小船に乗って四時間後、東大陸に辿り着いた。
「コウさん!此方です!」
小船から飛び降りたエレナは、弘次郎を呼んで走り出す。人間とは比べ程にもならない脚力で、エレナはあっという間に船着場から見えなくなった。
「コウさん、速いんですね」
「これくらい何ともねぇよ」
弘次郎は何ともないような顔で、エレナに並走する。
弘次郎とエレナは言葉を交わしながら、煙を上げている街へ急いだ。




