第三十話 宴会
禍津ノ嵌を構えた弘次郎を、死骸龍は唸り声を上げて睨みつけ、弘次郎を潰そうと腕を振り上げる。本能的に禍津ノ嵌の危険性を感じ取ったようだ。
「ルリィ、ダリア、カルミア。少し離れてろ」
「「「はい」」」
三人に声を掛けた弘次郎は、死骸龍の振り上げられた腕を後ろにではなく懐へ飛び込んで避ける。振り下ろされた腕は地を叩き、地鳴りを引き起こし、地に亀裂を入れた。
弘次郎は飛び込んだ勢いそのままに禍津ノ嵌を振り上げる。
死骸龍の腹から頭まで銀閃が煌めき、一瞬遅れて死骸龍の体を両断した。二つへ分かれた死骸龍の体は、そのまま地へ倒れ伏した。
「陸災級も相手になりませんか」
禍津ノ嵌を納刀した弘次郎を見て、ルリィは密かに頭を抱えていた。
死骸龍を片付けた弘次郎達は村人が開いた宴会に参加していた。村人達は死骸龍を討伐した弘次郎にいたく感謝し、ぜひにと酒を差し出した。
弘次郎はどちらかというと酒を嗜むが、それはあくまでも嗜む程度。酒豪のように飲むほどではない。
だが、好意で用意してくれた酒を拒むのも気が引け、進められるがままに飲んでいた。
「かはっ、つら」
やはり弘次郎はそこまで酒に強いわけではなく、醜態を晒す前に離脱し、夜風を浴びて火照った身体を冷ましていた。好意なのはいいが、あの酒度が高ぇよ。危うく酔っ払うところだった。
「…………」
弘次郎は無言で離脱した宴会場の方を見る。主賓がいなくなっても宴会場は騒がしく、今日は恐らく朝まで飲んでいることだろう。よくもまぁ飽きずにやってられるよなっと弘次郎は苦笑する。
「コウさん、一杯やりませんか?」
「あ?」
声がした方をみると、頬を上気させたダリアが一升瓶と杯二つを持って立っていた。しょうがねえ、付き合うか。
酒が汲まれた杯を手に取り、夜空を肴に杯を傾ける。
「どうですか?比較的度が低いお酒を持ってきたのですが」
「ああ、ちょうどいい」
確かに飲んだ酒は度が低く、酒にあまり強くない弘次郎でも安心して飲める程度だった。
「コウさん、コウさんの師匠ってどんな人だったんですか?」
杯に口をつけたダリアは、そう弘次郎に尋ねた。弘次郎は少し目を見開き、師匠について語り始めた。
「そうだな、とにかく豪快な人だった。料理もできず、洗濯もできず、家事がなにもできなかったが、俺よりも強かった」
「コウさんよりも、ですか?」
「ああ、俺よりもだ」
弘次郎よりも強い師匠がいたと聞き、ダリアは驚いた表情を浮かべる。
「今はもういないがな」
「ご、ごめんなさい。無神経でした」
「気にするな。もう昔の話だ」
もうわけなさそうに謝るダリアを、弘次郎は宥める。
それからは話をすることもなく、静かに杯を傾けていた。




