第二十九話 死骸龍
師匠の事を思い出してから三日。ようやくレナス村へ到着した。村人達は村外れにいる死骸龍の不安からか、弘次郎達を手厚く持て成した。なんとしてでも狩って欲しいのだろう。その日はレナス村の空き家で一晩明かし、翌日に弘次郎達は村外れへ向かった。
「元はここに泉があったと聞いたが、今じゃ見る影もねぇな」
村外れには綺麗な泉が湧き出ていたと村人から聞いたのだが、死骸龍の影響か、今では紫色に変色しており、見る影もない。
「どうします?死骸龍はこの中にいるらしいですが…………」
水の中にいるのならば手の打ち用がないという風にダリアが弘次郎に問う。弘次郎は首をゴキゴキッと鳴らし、大太刀を振り上げた。
「んなもん、こうすりゃいいだろう」
大太刀に魔力を通した弘次郎はそう答え、振り下ろした。大太刀が泉に触れる直前、泉が割れた。割れた泉の先に腐りかけた死骸龍の姿が見え、泉を割った魔力が乗った斬撃が死骸龍の右翼を切り取った。
痛覚は無いものの、右翼を切り取られた感覚を感じ取った死骸龍は、割れた泉からその巨躯を現した。
三mはあるその巨大な体。右翼を切り取られているため飛べず、泉の端にしがみつき、その巨躯を陸へと上げる。
大きいためか収まらなかった尻尾が泉からはみ出、周りの木々を薙ぎ倒した。
「なるほど。聞いた通り普通の刀じゃ効果ねぇみてぇだな」
「ならなんで試したんですか?」
「聞いた事を鵜呑みにして行動する馬鹿がいるかよ」
「それもそうですね」
ルリィとの軽口を交わし、弘次郎は大太刀をパキンと納刀する。
「我の名は比嘉沙汰 弘次郎。凪火菜野の名前を受け継ぎし者。我が呼び声に答え、その刀身を空蝉へ現せ
ーーーー大太刀・禍津ノ嵌」
虚空へと手を伸ばした弘次郎はそう呟き、一つの大太刀を手にする。その大太刀は、懐かしき師匠の愛刀、禍津ノ嵌。この世無き物を断ち切る刀だ。
「懐かしいな。あの悪夢以来だ」
ポツリと零した行動するの背中には哀愁が浮かぶが、次に紡いだ言葉の後には消えていた。
「死骸龍とは、落魄が始まっても魔石により魂の拡散が始まらず、そのままとどまった龍のことを言う。ならば、その魂と魄の繋がりを断ち切ればいい。簡単な事だ」
白鞘に収まった刀を抜き放つ。銀色の刀身が暗雲から漏れる光を反射し、キラキラと輝く。
「さぁて、一仕事するとするか」
弘次郎は二mはある大太刀を右手に持ち、悠然と構えた。




