第二十八話 師匠
「はぁ〜」
夜中、俺はふと目が覚めた。ルリィ達は馬車の中で寝ている。俺は警戒のために外で野営をしていた。体を回し、体をほぐす。
肌を撫でる風が高くなった体温を冷ましていく。
俺には剣士の道を歩もうと思ったきっかけを与えてくれた女性がいる。名前は凪火菜野と言った。
俺は元々孤児だった。孤児といってもそんなにこ綺麗なものなんかじゃない。風呂なんかまともに入れず、金も無いため宿にも泊まれない。ろくに飯も食えず、ごみだめをあさって食いつなぐ。そんな日々を送っていた。
そんな俺を周りの大人はごみを見るような目で見ていた。
だが、ある女性は違った。燃えるような赤い髪。同じく赤い瞳。三度笠を目深めにかぶった端正な顔立ち。美しい女性だった。だが、背中には二mはある大太刀を背負っていた。
俺を見た途端唇を噛み締め……
「あんた達は何をやっているんだ!こんなに小さい子供が懸命に生きようとしているのに、なんで助けようとしない!なんでごみを見るような目で見るんだ!ごみはあんた達だよ!」
周りの大人にそう怒鳴った。
そして、垢だらけで汚い俺の体を優しく抱きしめた。自分の服が汚れるのを厭わずに。
その後俺はその女性、凪火菜野に引き取られた。
俺は高潔で、誇り高く、一度決めたら曲げない、筋の通った凪火菜野に憧れを抱いた。そして、凪火菜野が誇りとしている剣士になろうと思った。
そのことを凪火菜野に話したら悲しそうに顔を歪め、「剣士を目指すことには何も言わない。だけどね、人の心を忘れちゃいけないよ。人の心を忘れた人間は、人の皮をかぶったナニかさ」と言った。そのことばは、幼いなりにも俺の心に響いた。
その言葉を聞いた時から、俺は凪火菜野を師事した。
朝の三十キロの走り込みに、昼からの刀の素振り。そして夜からの師匠との打ち合い。それを毎日繰り返した。
「今思い出しても、美しい女性だったな」
性格は豪快だったが。そういや、掃除も料理も俺がやっていたな。
久々に愉快な気分になりながら、皮袋に入ったエールを煽った。




