第二十一話 新米冒険者の指導終了
「グウォォォォ!」
殺戮巨猿はかなりの速度で接近する弘次郎を視界に捉え左手に持っていた木の棍棒を弘次郎に向かって振り下ろす。弘次郎は慌てることなくその優れた動体視力で冷静に振り下ろされる棍棒を見つめ、右手で弾く。弾かれた棍棒は地面を抉り、殺戮巨猿の体は左が開くように体制を崩した。
「なんて無茶苦茶なっ!」
災害級の一撃を素手で弾くなど荒唐無稽な光景を見て、男は冷や汗を浮かべて驚愕する。別にそんなに驚くことでもねぇだろうよ。このくらい三十超えりゃ誰でも出来る。というより、いつも武器が傍にあるとは限らねぇんだ。素手でこの程度のヌルい攻撃弾けなくてどうする。
「隆元流四ノ太刀 虎突」
体制を崩した殺戮巨猿の懐に飛び込んだ弘次郎は心臓があると思われる左胸に狙いを定めると大太刀を抜き、虎突で左胸を貫いた。
「グウォォォォォォォォッ!」
どうやら心臓は別の所にあったようで、殺戮巨猿は血反吐を吐きながら咆哮を上げた。
「隆元流四ノ太刀派生技 虎閃」
弘次郎はそんな事態にも慌てることなく、次の技を放つ。隆元流四ノ太刀派生技 虎閃は、虎突で相手が絶命しなかった場合に備え、虎突で刺した武器をそのまま横に凪ぐ技。
殺戮巨猿は体を胸から真一文字に断ち切られ、絶命した。殺戮巨猿の上半身は地面へと倒れ、鈍い音を響かせる。そして、下半身はしばらく紫色の血を辺りに降らせた後、力無く地面へと倒れ伏した。なんとまあ呆気ねぇもんだ。ま、日ノ本の兵士よりは手応えが有ったが。
「終わったが、これからどうすんだ?」
大太刀に付着した紫色の血を拭い終え、鞘へ仕舞い終えた弘次郎は、弘次郎と殺戮巨猿との戦いを見て未だに唖然とする冒険者達とミフェリア達に話し掛ける。あれだけ派手に殺戮巨猿を殺したというのに、弘次郎の体には返り血一滴もついていない。
「は、ははっ。やべぇよ、強ぇよ。コウジロウさん」
どこをどう見ても異常な弘次郎に、男は乾いた笑いを漏らすことしかできなかった。
あの後つつがなく指導が終わり、弘次郎は報酬を貰いに冒険者ギルドへと訪れていた。
「えぇと、はい、これが報酬の白金貨二枚と、銀貨十五枚になります」
「対したことしてねぇのに偉く報酬が高いな」
弘次郎がしたことといえば、天狗になりかけていた未熟な冒険者達の鼻を折ってやっただけた。弘次郎としてはそれ程のことをしたつもりは無くとも、ギルド側としてはかなりありがたい事なのだった。
「本来の報酬は白金貨一枚なのですが、殺戮巨猿一体と飢餓巨猿三体、合わせて銀貨十五枚。そして、冒険者全員の命を救って貰ったお礼として白金貨一枚を加算してます」
冒険者全員の命がたったの白金貨一枚、ね。まあ実力もねぇのに天狗になっている未熟どもにはギルドも迷惑してたってことか。
「なら是非もねぇな。貰っとこうか」
金が少なくて困ることは有ってもあり過ぎて困ることは無いねぇからな。




