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隻眼隻腕の剣士  作者: 柊 紗那
第三章 貿易都市ガリーニャ
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第二十話 新米冒険者の指導

新米冒険者の指導を行う依頼は『飢餓巨猿(ハングリーエイプ)』の討伐。飢餓巨猿(ハングリーエイプ)のランクは上級となっており、新米冒険者といっても束でかかれば楽に討伐できるちょうどいい魔物となっている。ちなみに、飢餓巨猿(ハングリーエイプ)はどんなに食べても満腹になることはなく常時空腹で、空腹のためいつも怒り狂っているめちゃくちゃな魔物だ。飢餓巨猿(ハングリーエイプ)はエルフラ荒野のみに存在する、いわば固定生息型の魔物となっている。


「整列しろ!これから飢餓巨猿(ハングリーエイプ)の討伐を行う!上級だからと言って気を抜くなよ!それから、今回は特別教師として冒険者ランク判別不可能の冒険者を連れてきている。コウジロウさんだ」


軽く紹介をされ、俺は二十八人の新米冒険者の前に立つ。ま、注意することは一つだけでいいか。


「俺から言うことはただ一つ。『決めつけるな』、だ。今回ならば、依頼が『飢餓巨猿(ハングリーエイプ)の討伐』だからと言って、飢餓巨猿(ハングリーエイプ)とだけしか遭遇するとは限らねえってことだ。飢餓巨猿(ハングリーエイプ)の変異種である殺戮巨猿(キラーエイプ)と遭遇する確率だって十分に存在する。その時に飢餓巨猿(ハングリーエイプ)とだけしか遭遇しないと決めつけて行動した場合、いざ殺戮巨猿(キラーエイプ)と遭遇した時に困惑してなにも出来なくなる。逃走することも出来ずにただ死んで行くだろう。俺はそんな奴らを何百人も目にしてきた。だから決して決めつけて行動するな。俺から言えることはこれだけだ」


そう、俺は何百人も目にしてきた。敵軍が百もいないと決めつけて死んだやつ。敵は五人だと決めつけて死んだやつ。敵は火縄銃を持っていないと決めつけて死んだやつ。そんな奴らを。目の前でそんな奴らが死ぬのを見たからと言ってなにも思うことは無いが、やはり目の前で死なれるのは後味が悪い。死ぬのが力のない者ならば尚更だ。

ちなみになぜ俺が飢餓巨猿(ハングリーエイプ)の変異種が殺戮巨猿(キラーエイプ)だと知っているかと言うと、それは魔物図鑑を見たからだ。たとえ格下との戦いだろうと、情報収集を怠った場合死ぬ可能性も十分ある。ある偉人が言ってるように、戦いで一番重要なのは情報だ。


「よし、コウジロウさんから忠告を頂いたところで、そろそろ進むぞ!」


男の一声により、若干緩んでいた新米冒険者達の空気が再び張り詰められると、それを確認したミフェリアと男が先導していく。俺は一応警戒のために最後尾を歩いている。

ふむ、見た感じ俺の忠告を真ともに受けた奴らは少ねぇな。まあ真ともに受けてねぇ奴らは後で痛い目を見ることになるだろうが。大体俺の索敵範囲は10km前後。その中に飢餓巨猿(ハングリーエイプ)らしき魔力の塊が三つと、殺戮巨猿(キラーエイプ)らしき魔力の塊一つがこちらに接近してきている。と言っても俺はそのことを告げるつもりは毛頭ない。『まずは手を差し伸べろ。手を叩かれたのなら、その手で殴りつけても構わん。だが、周りの人間はお前が殴りつけた所しか見ようとしない』。これは俺がかつて師事した女性が口うるさく言っていた言葉だ。俺は忠告と言う名の手をを差し伸べた。だが、こいつらはその手を叩いて無視をした。故に俺は告げるつもりは毛頭ない。なぜなら叩いた方が悪いのだから。


しばらく歩く俺達の前に、茶色の毛に覆われた二mほどの猿三匹と、紫色の毛で覆われた三mほどの猿一匹が現れた。

その四匹を目にした新米冒険者の反応は、面白いくらいに綺麗に二つに分かれていた。


「ひ、ひいっ!なんでここに殺戮巨猿(キラーエイプ)が!?」

「なんでだよ!飢餓巨猿(ハングリーエイプ)しかいないんじゃなかったのかよ!」

「し、死にたくねえよぉ!」

「嫌ぁ!だれか助けてぇ!」


俺の差し伸べた手を叩き覚悟をしてなかったため、殺戮巨猿(キラーエイプ)を目にして半狂乱に騒ぎ立てる冒険者達と、


「コウさんの言う通りだ!皆武器を構えろ!」

「死にたくない、俺は死にたくないから戦うんだ!」

「負けてたまるもんですか!」


俺の差し伸べた手を掴んだ、殺戮巨猿(キラーエイプ)を目にしても正気を保っている冒険者の二つに。どちらが死んでどちらが生き残るかは目に見えている。


「ちっ、どうするミフェリア」


「あんたと私じゃ手に負えないよ」


上級の飢餓巨猿(ハングリーエイプ)三匹と災害級の一匹は、国災級の冒険者二人でもきついようだ。


「隆元流歩法 瞬蹴」


「なっ!?」


「いつの間に!?」


瞬蹴で最後尾から一気に飢餓巨猿(ハングリーエイプ)の前に躍り出る。いきなり前に躍り出た弘次郎を見て、ミフェリアと男は戦慄する。いくら高ランク冒険者だからと言って、あの距離を足音も立てずに一瞬で移動できる冒険者の数はかなり少ない。目に見えぬ速度で移動するとなればその中でも一握りだ。


「隆元流一ノ太刀 残響」


弘次郎はそのまま大太刀を抜いて残響を放ち、飢餓巨猿(ハングリーエイプ)三匹の首を断ち切る。そして、数瞬のあいだに仲間が三匹も殺されて困惑する殺戮巨猿(キラーエイプ)を見据えた。


「よく見とけよ、未熟の冒険者達。これから判別不可能の虐殺が始まるぞ」


男の震えた言葉に、新米冒険者達も食い入るように弘次郎を見る。そして、弘次郎は殺戮巨猿(キラーエイプ)に向かって地を蹴った。



























固定生息型=限られた区域にのみ生息する。


広域生息型=広い範囲に渡って生息する。







飢餓巨猿(ハングリーエイプ)

ランク:上級

備考:

どんなに食べても満腹になることはなく、ひたすらに食べ物を求める巨大な猿。二mほどの体躯に、ゴワゴワとした茶色の剛毛に覆われた魔物。上級の中でも比較的筋力が高く、その辺の木ならば簡単にへし折れる程。そのかわり動きは鈍い。もし出会った場合、食べ物を渡せば見逃してくれる可能性も。






殺戮巨猿(キラーエイプ)

ランク:災害級

備考:

飢餓巨猿(ハングリーエイプ)の上位互換。飢餓巨猿(ハングリーエイプ)と同じく常時空腹となっているが、食べ物を食べると一応空腹は満たされる。一度満腹になると今度は自分の命が尽きるまで殺戮を繰り返す。三mほどの体躯に、ゴワゴワとした紫色の剛毛に覆われた魔物。


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