第二十二話 名前の重み
「訓練所って使えるか?」
「ええ、使えますよ。但し一時間銀貨一枚必要になりますけど」
新米冒険者の指導を終え、今度はあの二人を指導するために冒険者ギルドへやって来ていた。なぜ冒険者ギルドにいるかというと、指導するためには勿論広い場所に出なければならず、屋内はもちろん外でやると言うわけにも行かない。どうしたものかと悩んでいる弘次郎に、黒髪のポニーテールの奴隷が助言をし、弘次郎はそれに従ったというわけだ。訓練所というのはもともと冒険者を目指す者たちに、冒険者のいろはを教えるところであり、お金を払っていれば基本的になにをしても良いため、腕ならしに利用する冒険者も少なくは無い。
「一時間にしてはかなり高いな。なにか理由とかあるのか?」
「はい。まずこのギルドの訓練所は、他ギルドの訓練所と比べて比較的設備がいいと言うことと、武器を用意しなくともこちらで貸し出せるということの二つが主な理由となっています。ちなみにこの銀貨一枚には武器貸出料も含まれています」
成る程な。そういうことなら納得だ。下手に足元見られて高い金要求されたらかなわないと思ってのことだったが、杞憂だったか。
「了解。それじゃ一応三時間で頼む」
延長する可能性も考え、弘次郎は三時間、銀貨三枚を受付嬢に手渡した。銀貨三枚を受け取った受付嬢は枚数を確かめ、口を開く。
「承りました。ではこれを。許可書です。そして訓練所はこちらになります」
受付嬢は弘次郎にギルドカードと同じように銀製のカードを渡し、カウンターのすぐ隣に設置されている扉を差す。
「さてお前さんら、行くぞ」
「はいっ!」
妙に張り切る四人を引き連れ、弘次郎は扉を開けて木張りの通路を進む。檜に似た木が使われているようで、嗅いでいて気が安らぐ香りがあたりに漂う。
ふむ、やっぱり檜(以後檜とする)はいいな。いずれ拠点を持つことになるだろうから、そんときは檜を使うか。と弘次郎が呑気に考えている間に、既に訓練所の入り口に到着していた。
許可書を提示し、扉を開け訓練所の中へはいる。
「ほぁ〜」
「凄いですね」
「すごい……です」
扉の先には、門と同く堅固に固められたグロムナイト製の壁に施された見るものを圧倒する精巧な装飾。
本当にこの街の技術力の高さには驚かされるな。どうなってんだか。
「さて、お前さんら。武器を選んで来い。何でもいいから手にとって少し振るってから一番手に馴染む武器をな」
「「「「はいっ!」」」」
さて、ルリィ達はなにを選んでくるか楽しみだな。
「意外なものを選んだな、お前さんら」
武器は三十分程度で選び終わり、ルリィ達は弘次郎の前に並ぶ。弘次郎はルリィ達の手に持つ武器を見て、思わず頭を抱えた。
ルリィは短剣と弘次郎の想像通りの武器だが、その後が悪い。黒髪の奴隷は完全に身の丈を超えた長さの青龍偃月刀を肩に担いでいるし、アルビノの奴隷は同じく身の丈を超えた長さのトゥ・ハンド・ソードを肩に担いでいた。どちらも斬るというより叩き斬るといった武器だ。というか、青龍偃月刀なんてものどこにあったよ。本当にこの世界は不思議じゃねぇか。
「ま、まあとにかく。……そういやお前さんらの名前を知らねぇな。なんて言うんだ?」
「私達は奴隷です。奴隷はご主人様に付けてもらう物なので、弘次郎様が付けてください」
「俺かよ。いや、わかった」
そう言って弘次郎は黒髪のポニーテールの奴隷を見る。やっぱり特徴的なのは黒髪と黒目だよな。そういや、この街に確かダリアっつー黒い花があったな。別名黒蝶、だっけか。結構綺麗だったから、それにするか。真剣に悩む弘次郎を見て、黒髪のポニーテールの奴隷は嬉しそうに弘次郎を見て微笑む。
「お前さんは、ダリア。それでいいか?」
「ダリア。……はいっ」
弘次郎の決めた名前に、ダリアは歓喜の涙を流して喜んだ。
「いや、泣くほどのもんじゃねぇだろうよ。どうした?」
「いえ、奴隷商人の馬車の中で先輩達に聞いたんです。奴隷の名前は適当に決めれるって。適当に決められた名前で一生を過ごすって。でも、弘次郎様はこんなに真剣に悩んでくれました。そしてダリアなんて素敵な名前も。それが嬉しいんです」
奴隷商人はミヌスのことで、先輩達ってのはダリア達より先に奴隷になっていた奴らのことか。
「おいおい、一生名乗ってく名前を俺なんかに決めさせて良いのか?」
"一生名乗る名前"と聞き、流石の弘次郎も焦りながらダリア達に問う。ダリア達はなにを当たり前のことを聞いてるの?とでも言いたそうな顔で首を傾げた。いや済まん、俺が悪かった。
気を取り直して弘次郎はアルビノの奴隷を見つめる。こいつも特徴的なのは白い髪だろう。ダリアの隣に確か白い花でカルミアってのがあったよな。こいつらには悪りぃが、俺にはこれくらいしか思いつかねえ。
「お前さんはカルミア。でどうだ?」
「カル……ミア。ありがとう……ございます」
カルミアもダリアと同じく弘次郎に付けてもらった名前に歓喜の涙を流して喜び、「一生名乗っていく名前にしては迂闊過ぎたか」と少し後悔する弘次郎だった。




