第十五話 『悠々放来亭』
「なんつーか、あんまり近づきたくない宿だな」
「そうですか?おしゃれでいいと思いますけど」
紙に書いてあった『悠々放来亭』を探すことおよそ三十分。弘次郎達は看板にデカデカと悠々放来亭』と書かれた宿の前に立ち止まっていた。外装も内装もおしゃれで男性にも女性にも受けている宿なのだが、自称素朴な男の弘次郎は少々気後れするらしい。あくまでも自称にすぎないが。
「さっ、ぼさっとしてないで入りましょうよ」
「あっ、おい!引っ張るなって」
そんな弘次郎に痺れを切らしたのか、ルリィが弘次郎の右腕を片手で胸に抱えて引っ張って行く。そして、もう片方の手で扉を押し開けた。
「いらっしゃーーあらやだ、そっちの趣味の人?」
「どうして俺は行く手先々で不本意な言われをされんだ?」
扉のすぐ先にあるカウンターの中にいた、亜麻色の髪を軽くウェーブさせた女性が、見た目がまだ幼い少女と奴隷の二人をみて、目を細めながら弘次郎をからかう。
「冗談よ。そうね、何部屋必要かしら?」
「一応二「一部屋でお願いします」…………」
「えっと、食事はどうするの?うちは一応三食付きなんだけど」
ルリィに遮られた弘次郎を見て、若干戸惑いながらも女性は弘次郎達に問う。
「んじゃ、よろしく頼んでもいいか?」
「ええ。っと、大事なことを聞き忘れてたわ。お風呂はどうするの?」
「お風呂があるんですか!?お願いします!」
女性の口からお風呂という言葉が出てきた瞬間、ルリィは女性との距離を一瞬で詰め、切実な面持ちで懇願する。
「わ、かりました。お部屋のサイズはどうします?うちでは一部屋にベッド四つが最高なんですけど……」
「ああ、それで一週間分頼む」
「あ、はい。一日、三食付きでお風呂付き、それから一部屋にベッド四つで銀貨3枚ですので、七日分で銀貨21枚です」
多少ルリィに気圧されながらも、女性は弘次郎に一週間分の値段を提示する。弘次郎は小袋から銀貨を21枚取り出すと、カウンターの上に置いた。
「食事は何時にお部屋にお持ちすればいいですか?」
「あー、どうするか。一応朝は八時、昼は一時、夕は七時で頼むわ」
「お風呂はどうします?」
「おまか「朝の六時と夕の六時でお願いします!」…………だ、そうだ」
再び遮られた弘次郎を見て、女性は呆気にとられる。
「こちらがお部屋の鍵となっております。ごゆるりとお過ごしくださいませ」
弘次郎に鍵を渡すと、手を太ももに当て綺麗な一礼を見せた。
「奴隷の私達がこんないい部屋に泊まってもよろしいのでしょうか」
指定された部屋の前に立ち止まり、解錠して中に入る。落ち着いた若草色を基調にしたカベに、木張りのぬくもりのある床。おしゃれな内装と、高級感が溢れていた。
「奴隷がどこに泊まって何を食べるってのは俺が決めることだ。お前さんらは俺達と同じところに泊まって同じもんを食えばいい。なにも気にすんな」
弘次郎は恐縮した奴隷を特に気にかけることもなくベッドに腰掛けながら、奴隷の二人に声を掛ける。奴隷の二人は弘次郎にぺこりと頭を下げると、それぞれのベッドへ声を掛けた。
さて、今日の夜でもこの街をうろついてみるか。
ボンヤリと天井を眺めながら考える弘次郎だった。




