第十四話 酒場
「コウさんの女たらし、鬼畜、最低、天然ジゴロ」
「なんだよさっきから。ってか、お前さんはそんな性格だったか?」
弘次郎達はミヌスから報酬を受け取ったあと日が沈む大通りをこれといった目的を決めないまま、ぶらぶらと歩いていた。
「そういえばコウさん、今日の宿はどうするか決めました?」
「あ…………」
ルリィの問いに、弘次郎は口を半開きにしたまま立ち止まる。そんな弘次郎にルリィは呆れたようにジト目を向ける。
「すまんな、まだ決めてなかったわ。んじゃ、酒場でもいくか」
「なんで酒場なんですか?」
「……一番情報が集まるのは、酒場だろ?」
当たり前のように言い放つ弘次郎に、ルリィは溜め息をつくしかなかった。
酒場についた弘次郎達は、奥から出てきた店員に案内され、席についた。弘次郎はエールを頼み、ルリィ達三人はピカルジュースを頼んでいた。
「マスター、なんかいい話の種ってのはねぇか?」
弘次郎はエールを運んで来た男にそう声をかけた。が、男は弘次郎を一瞥しただけで、興味を失ったように目を逸らした。
「くっくっ。そうだよな」
運ばれて来たエールを一口煽った弘次郎はそう笑うと、テーブルの上に銀貨を一つ小袋から取り出し、男の近くに置いた。
「かっかっか、話がわかるじゃねえか。ちょっと待ってろ」
銀貨を見た男はさっきまでの憮然とした表情を引っ込めると、銀貨を手に取り一度カウンターに向かった。そして、手にジョッキと紙束を持って来ると、弘次郎の近くに腰掛けた。
「最近のガキどもはなんでも手に入ると勘違いしているようでな、情報を寄越せだかなんだか偉そうにしやがって」
「対して実力もないくせに、だろう?」
「やっぱりあんたは話がわかる。俺はガレンだ」
「弘次郎、比嘉沙汰 弘次郎だ。お互いに苦労人打な」
互いにエールを飲み交わす弘次郎を見て、ルリィは再び嘆息する。
「そうそう、話の種っつったな。んじゃま、これを見てくれや。最近変な事件が起こっててな」
弘次郎はジョッキを傾けながら勧められた紙束を手に取り、読み始める。ルリィはやはり少し気になったようで、ガラス製のカップを置いた。
「変な事件、ですか?」
「お?嬢ちゃん興味があるのかい。娼館があるのは知ってるだろ?そこに働いてる娼婦が、夜な夜な不審な人物に強姦されるっつー事件がここ最近多発してんだよ。元々ここは娼館の数が他の都市と比べて多かったり、娼婦の質が良くてな。そのせいか時々こんな事件が起こってたりしたんだが、一月前くらいからは急に多くなり始めてんだ。ちょうど一月前くらいから新しく設立された餓狼騎士団ってのがあるんだが、時期が変に重なってるせいでこいつらの仕業じゃねえかって政治に関わっているやつらは思ってる見てぇだぜ。そういう俺もそう睨んでるだかな」
弘次郎が手にとった資料には、かなり詳しいことが書かれていた。この都市にある娼館の数。襲われた娼婦が働いていた娼館の名前。娼館に働いている娼婦の名簿。その約80%が15〜20歳だと言うこと。そして、襲われた娼婦は全て15〜16歳で、どれも見目麗しい少女が狙われていたということ。なるほど、これは妙だな。この短期間でこれだけの娼婦が襲われること自体普通じゃあり得ねえ。とするとまず疑うべきは餓狼騎士団だ。しっかしまあ餓狼、ね。飢えた狼とは言うじゃねえか。昔から狼ってのは送り狼やら俗語的な意味合いで使われることは多かったが、この餓狼騎士の場合はさしずめ女性に飢えた狼って捉えるのが正確だろう。だが……
「おいおいこんなもんを余所者の俺に見せていいのか?ガレン」
「余所者だからこそだ。今はちとややこしくなっててな。この都市に住む俺たちは表立って動けなくなってんだ。だからって犯人を捕まえてくれってわけじゃねぇんだが、ま、気にかけてもらうだけで結構だ」
「そうか。それでもう一つ聞きたいんだが、ガレン、お前さんはただの酒場のマスターってわけでもねえんだろう?」
「かっかっかっか。これだけやりゃあ流石にバレるか」
ガレンは愉快そうに笑うと、弘次郎を見た。こういうことに疎い奴でも隠そうともしないで貴重な資料を見せられたとあっちゃ、いくらなんでも気づくだろうさ。
「俺はこの国の上層部に居座っているやつに伝手があんだ。そのせいで国で負えない依頼や問題やらが俺の元へ転がり込んで来てな。そのたびにこなしてるんだが、これはちと状況が違うんだよ」
「伝手があるってくらいでここまでの資料がガレンに回ってこねぇと思うんだが、まあいい。触れられたくない話題なんだろうしな」
「助かるぜ。お詫びと言っちゃなんだが、宿をまだ探していないようだったらここに泊まってくれや。俺のオススメだ」
そう言って一枚の紙を弘次郎に差し出す。その紙には、『悠々放来亭』と書いてあった。
「エルカルといいお前さんといい、なんでもかんでも紙で渡しゃあいいと思ってねぇか?」
「ま、口で伝えるのも面倒だしな。紙で渡すのが一番なんだよ。第一、聞いた方も忘れないだろ?」
悪びれた様子もないガレンに弘次郎は僅かに嘆息しつつ、エールを飲み干す。ったく、確かにその通りだから反論出来やしねえよ。
「…………それじゃ、俺たちはもう行くとするか。ガレン、邪魔したな」
「いいってもんよ。その資料はやるよ。どうせ予備だ。それから、道中気をつけてな!」
全員が飲み干したのを確認した弘次郎は、資料を着流しの内側に入れ、金を払って外へ出る。
「良かったですね、宿が決まって」
「そうだな」
若干棘があるルリィの言葉を聞き流しながら足を進める弘次郎だった。




