双子によるアリス講義2
二人分のもの言いたげな視線を受けながらダムが口を開く。私たちを見る彼の瞳はきらめいていた。
「説明をしよう。「アリス」に置かれた状況を説明することはこの世界の住人に課せられた数少ない義務だからな」
それにとダムはウィンクをした。
「何より「アリス」自体が非常に珍しい。全てを知って君たちがどのような反応をするのかどう行動するのかボクは非常に興味がある」
片割れの言葉にディーがやれやれと肩を竦めていた。
「相変らず悪趣味なところに興味を持つのね。弟」
ディーの口ぶりからしてダムのこんな言動は珍しいものではないらしい。
「悪趣味とは酷いぞ。妹よ」
よよと憂いを帯びた表情を浮かべるダム。だけど今までの言動を見ている限りそんな顔されてもうそ臭感じられてならない。
出逢って間もない私がそう思うぐらいだから双子であるディーの対応はかなり冷淡だった。
「うさんくさいわ。弟」
バッサリという効果音まで聞こえてきそうなほど盛大にディーはダムを切って捨てた。
冷たい視線に晒すことまでオプション付きだ。
こ、この双子って・・・・・・・。
(服作っていたときと明らかに雰囲気違うんですけど)
どこがどうとは言えないけど、だけど確かに二人の雰囲気が違う。
熱が冷めたというか・・・暴走が収まったというか・・・・むしろ余計に性質が悪くなっているというか・・・・・。
「あ~~~~ゴホンッ!」
ダムがおもむろに咳払いをする。
「話を元に戻そう」
そう言うとするりと私の隣に腰を下ろす。・・・・何故、私の隣?
「うぁ!!ち、ちょっとダム!顔、顔が・・・・・近い!」
「ちょ!お前、何をやって・・・・・」
隣に座るなり行き成り有り得ない距離まで近寄ってきたダムを手で必死に押しのける。
「弟・・・・」
低く地を這うようなディーの言葉と同時にダムが急速に離れる。
「馬鹿なことをする暇はないの。弟」
右手一本でダムを私から引き離したディーは猫の首根っこを持つみたいにダムを私から一番遠いソファーに座らせると自分は私の真正面に座った。
「ふぅ・・・馬鹿でゴメンナサイ」
「い、いえ・・・・」
無表情なディーなのにその時の言葉だけにはやけに感情が篭もっていたように感じたのは私の気のせい?
「あ・・・えっと・・・」
私を助けるために立ち上がっていた秋田は行き場を無くしていた。そんな秋田を相変らず感情の読めない目でディーが見詰める。
「座ったら?」
「あ、ああ・・」
ディーに促され私の隣に座る秋田。一応話し合いの状況は整った。
ディーがゆっくりと私たちを見る。
「まずは・・・貴方たちがこの世界に来る破目になった状況を離して頂戴」
ディーの言葉に私たちはポツリポツリと自分たちが体験したことを彼女に話した。私たちが話し終えるまでディーは口を挟ます(ダムにも挟ませず)最後まで聞いていた。
「・・・・でウサギに大穴に蹴り落とされて気付いたたら森のなかよ」
最後はもう白ウサギに対する愚痴を握りこぶしで力説している状態だった私の隣で秋田もうんうんと頷いていた。
「・・・・・・白ウサギか・・・・やっかいね・・・」
何故だろう。ディーの無表情が少しだけ崩れている。
どこがどうというのも難しいのだけど・・・しいて挙げると苦虫を噛んだような顔。
その顔のままディーは眉間の皺を解している。
「っていうかなんで彼は異世界に出没した挙げ句にそこの住人をこっちに落としているんだろうねぇ~~~」
爽やかに楽しげにダムは笑う。
そんなダムをディーが軽く睨む。
「そんなの今の段階で分かるわけないわ。弟」
「っうかそう簡単に行き来できるのか?」
秋田の至極もっとも質問に性別以外そっくりな外見をもつ双子は顔を見合わせ同時に肩を竦ませた。
「「そんな芸当ができるのは白ウサギだけ」」
しみじみと声を揃える双子に今度は私と秋田が顔を見合わせる。
「えっと・・・白ウサギってそんな大層な奴なの?」
「「様々な意味で大層」」
「だよ」「よ」と語尾は違うが同じことを同じタイミングで言う双子。
っていうか様々な意味って・・・・なによ。
「まぁ、白ウサギのことは今は置いておくわ。貴女たちはもう気付いているだろうけどここは貴女たちにとっては別の世界。ワンダーランドと私たちが呼ぶ世界」
「君達の世界とは違う常識で成り立つ世界」
詠うように双子が言葉を交互に紡いでいく。
ディーが口にした「ワンダーランド」という言葉に一瞬、あの不快な頭の痺れがくるかと思ったけど今度は何も起きなかったので私はホッと詰めていた息を吐いた。
私の溜息に隣に座る秋田だけが気付いたようでそっとこちらを窺う。
それに軽く笑いかけると私は話しに意識を戻した。
「貴女たちのように別の世界から迷い込んできた人や物を私たちは総称として「アリス」と呼んでいるわ」
「それでさっきダムがオレ達を「アリス」と呼んだんだな」
「そ~ゆうことだよ」
「・・・・今は少し別の意味も持ってきたけど・・・」
「え?」
ぽつりと呟いたディーの言葉に引っかかりを覚え思わず聞き返した私にだけどディーは答えを返すこともなく話を続けた。
「貴女たちが一番知りたいことを教えてあげるわ。「元の世界に帰れるのか?」答えは「イエス」。「帰る」だけなら帰れる」
「本当か!?」
ディーの言葉に私も秋田も驚きを隠せない。いや。別の世界に来たという展開ってそう簡単に帰れないっていうのがセオリーだから・・・。
ディーの「帰れる」という言葉はうれしい。かなりうれしい。すごくうれしい。
だが、その感動に水を差す男が一人。
「人の話は最後まで聞くものだよ?「帰れるだけは帰れる」。つまり、だ。君たちの望む形で帰れるわけじやないんだよ」
にやにやと面白いものを見ているかのように笑いながらそんなことをいうダムの瞳は完璧に私たちの反応を試していた。
それに気付いたのか秋田が目を細め凶悪な視線でダムを睨み返す。
「どういう意味だ」
搾り出された声は低く凶悪さを隠さない。
「言葉のままの意味、だよ?」
「・・・・・・・」
隣で秋田がぐっと拳を握り締めたのが分かった。
恐ろしいまでの圧迫感に気付いてないわけではないだろうにこの事態を招いた張本人は笑いながらそれらを軽く流している。
彼が秋田の反応を楽しんでいるのは明白だ。
このままダムがなにか不用意なことを一言でも発すれば秋田は激昂する。絶対にダムに殴りかかってしまう。
「君達の「日常」は崩れ去った。元にはもう、戻すことは出来ない」
「っ!てめぇ!」
「駄目っ!」
殴りかかろうと立ち上がりかけた秋田の腕に私は全力で縋りつく。
「黙りなさい。弟」
ディーの声が聞こえた。次いで形容詞しがたい鈍い音が辺りに響き渡り気かつくとダムが目を回しながら床に撃沈していた。
それを秋田と私は思わず無言で見詰める。
「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」
「トゥイードル・ディー三十三の隠し技の一つ。メジャー投げ。主に遠距離の相手を沈黙させることに使う」
彼女の手にあるメジャーから察するにヨーヨーの原理でダムの後頭部に当てて黙らせたってこと?
ぐるぐるとそんなことを考えていると不意に不機嫌そうな声が頭の上から聞こえてきた。
「おい。いい加減離れろ」
「えっ?」
顔を上げると何故かそっぽを向いた秋田の姿。そして私は彼の腕にしがみ付いたままなのに気づいてあわてて手を放した。
「ご、ごめん」
うぁ~~~恥ずかしい。
なんとなく居心地が悪くうつむいてしまう私。
耳が少し赤い気がするなぁ・・・・男の子にしがみ付くなんてそうそうないから。
「非常に第三者が居ずらい桃色っぽい空気を撒き散らしているところ悪いのだけど話、続けてもいいかしら?」
冷めたディーの視線に何故だか居心地が物凄く悪かった。




