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双子によるアリス講義~前口上~

 『忘れないで・・・・』

 

 声だけが囁く。忘れないでと繰り返し私に頼む。思い出さないといけない。そう思う。だけどそう思うのと同じぐらいの強く思う。忘れさせて欲しい。

 声が寂しそうに陰る。


 『忘れてしまうの・・・・?』


 ズキリと胸が痛む。


 「私は・・・・」


 声に意識を合わせようとすると頭の奥が痺れていく。逆に逸らそうとすると胸が痛くなる。罪悪感にも似た感情に私は知らない内に眉を潜めその場に蹲った。

 視界が定まらない。

 知らないはずの光景と今、現実に見ている光景が混じりあいどちらが現で幻か理解できなかった。


 (知らない・・・・こんな記憶・・・・「私」は知らない!!)


 お茶会も車も伸ばされた手も私は知らない。知らないのに!


 「なんで・・・・浮んでくるのよ・・・・・」


 断片的。まったく系列たってない光景が浮んできて私はどうにかなってしまいそうだった。


 「・・い・・・リン!」


 乱暴に肩を揺さぶられはっとする。顔を上げると心配そうな顔の秋田がいた。


 「どうした。顔が真っ青だぞ」


 「あ・・・わ、た・・」


 震える手で秋田の腕を摑む。息が苦しくて目を閉じる。

 言葉上手く出てこない。


 「あ、きた・・・」


 息が上手く吸えない。どうすればいいのか何を考えればいいのか何もわからなくなる。

 摑んだ秋田の腕だけが私には確かなものに感じられた。


 「わた、し・・」


 「無理して喋るな!」


 うわ言のように何か喋ろうとしてその度に止まる。そして止まる度に息苦しさが増していった。

 忘れてはいけない・・・だけど・・・・忘れたままでいたい。

 相反する二つの想い。


 「・・・・・・・っ!」


 心が二つに割れそうだ。そう思ったその時―。


 「落ち着きなさい」


 静かな声と共にひんやりとした手が私の額に触れた。その手の冷たさが知らない光景が消え、現実が少しつつ私に戻ってくる。


 「心を落ち着けて。ゆっくりと息を吸うの。そうゆっくりと」


 声に導かれるように頭の痺れがゆっくりと消えて鮮明になっていく視界に倒れかけた私の肩を支え、心配そうな顔をしている秋田と無表情に私の額に手を添えているディーの姿が映った。

 彼らの姿を認識すると同時にディーが私の顔を覗きこむ。


 「もう大丈夫ね」


 確認するようなディーの言葉に頷くと額に添えられていた手がお供なく離れていく。

 先ほどまでの不調が嘘のように私はいつもどおりに戻っていた。

 離れたディーの代わりに今度は秋田の心配そうな顔がのぞきこんでくる。


 「平気か?」


 本当に心配そうに聞いてくる。出会った当初じゃ考えられない顔だ。


 (ってか私たちって出会って一日も経ってないんだよね・・・・)


 なんだか長い時間一緒にいるみたいに感じていた。


 (なんか・・・・可笑しい・・・)


 ふふっと笑う私に秋田が怪訝そう眉を潜めたので慌てて笑いを引っ込めた。


 「平気だよ。大丈夫」


 そう答えると秋田はホッとしたように強張っていた顔を緩める・・・がすぐにしかめっ面になり軽く私の頭を叩く真似をした。


 「ば~~か。驚かせんなよ」


 「馬鹿って・・・ひど・・・・」


 心配させたのは本当だからなんとなくバツが悪く感じて拗ねたような言い方になってしまう。


 「心配させて悪かったって思うけど・・・・」


 駄目だ。なにを言っても言い訳じみてくる。

 こにょこにょと口の中で呟く私の肩にずしりとした重みが加わる。


 (・・・え?)


 目をやれば肩には手。視線を上げていくとそれまで静かだったダムが私の肩に手を置きながら興味深そうに私と秋田を見比べている。

 見上げた顔は酷く楽しそう。例えるなら新しい遊びに夢中な子供のようだ。


 「ダム?」


 声をかけるとダムはニッコリと笑ってくる。一体何があったのか酷く上機嫌に見えた。


 「君達は「アリス」だったのだな」


 「「は?」」


 聞き慣れない単語に私と秋田の声が見事に重なる。その場の視線が一気に発言者であるダムに集中する。ディーははぁ~~と仕方がなさそうに片割れの言動を見守っている。


・・・アリスって・・・・私と秋田のこと?


 頭の中に頭にリボンをつけてフリフリレースのエプロンドレスに身を包んだ自分と秋田の姿が瞬間的に浮かび上がりそうになり直前で叩き壊す。

 仮にも女である私はともかく秋田はやばい。破壊力があり過ぎる。

 そんな光景想像の中だけとはいえ映像化したくない。

 ちらりと秋田の方を見ると「なんだよ」と返される。まさか脳内で貴方のアリス姿を想像しちゃってつい見ていましたなんて言えないので「なんでもない」と視線をダムに戻す。

 秋田は釈然としない顔をしていたが私の些細な違和感よりダムの言葉の方が気になるらしく彼も視線を戻す。

 二人分のもの言いたげな視線にもダムは軽く微笑んで見せた。ディーの方はといえば殆ど表情を変えずに私たちを見守っているだけだった。

 

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