ひいらぎのひとひら1 epi.25 まだ、ここにいる
その後。
あたしもゆーきも、同じ2人を失ったわけで。
久しぶりに札幌へ来て、店へ。
サインが、「柊」に変わってる。ゆーみの思いが分る。
「お久しぶり」
「みきのさん!ごぶさたしてます。来るって云っといてくれれば、準備したのに」
「そういうゆーみが好きなんだよね。」と、カウンターに。
生が出され、席につく。
「みきの、久しぶりだな」
「うん。てか、ここで何やってんの」
「3か月前にこっちに来た」
「何で?」
「みほのいた土地、柊子がいた街に来たくなった」
「そっか。で、何か見つかった?」
「何も。でも隠やかに生きてる。美唄の墓にも行ったよ」
「ありがと。喜んでると思う」
少しずつ、一歩ずつね。
「で、聞いていいのか迷うけど。あなたたちは?」
「ありません!そんな事になったら、柊子さんどころかあの人に殺されます」
「じゃあ、ゆーきは何やってるの?」
「素材を聞いて料理を考えてるみたいです」
「とーこ?」
「いや、どんな事を考えてたのかなって」
修行? まだ引きずって?
「ずっとこっちにいるつもり?」
「しばらくいて、帰ろうと思ってる」
「そっか。気の済むまでいたらいいよ」
「ありがとう」
「東京でミネさんと待ってるからね。絶対だよ。あ、ゆーみ、ミネさんが会いたくて会いたくてって、いつも云ってる」
「私も会いたいです。式も挙げたいしって」
この2人のことは、放っておいても、なるようになるよね。
「じゃあ、2人ともまたね」
「うん、またね」
ゆーみが、店の外まで出てきた。
振り返ったとき、ドアのサインが目に入る。
「柊」
その文字を見た瞬間、胸の奥がきゅっと締めつけられて、思わず涙が出た。
ゆーきじゃあるまいし。
こんなところで。
「ゆーみ、これ、ありがとね」
ゆーみを抱きしめる。ギュッと。
ゆーみの体は、思っていたよりずっと細くて、そして、少しだけ震えていた。
「いまだに哀しいです」
ぽつりと、言葉が落ちる。
「胸が張り裂けそうになるくらい、ものすごく哀しい」
ゆーみの声は、静かだった。
でも、その静けさの奥に、どうしようもない波が押し寄せている。
「気持ちを何とかしなきゃ苦しい」
少し息を吸って、
「やりきれないんです」
それから、ほんのわずか間をおいて、
「でも、前を」
ゆーみは、そう云った。
きっとこの子は、店のカウンターに立ちながら、お客さんの笑顔を見ながら、グラスを磨きながら、何度も、何度も、この言葉を自分に言い聞かせてきたんだろう。
柊子のいない店で。
柊子の名前が残る店で。
柊子の空気が、まだ消えない店で。
毎日。
頭をなでてあげる。子供みたいに、そっと。
とーこが選んだ子だ、と思う。
「その強さを、悪いけどゆーきにも分けてあげてね」
ゆーみは、少しだけ笑った。
「承知しました」
その言い方が、柊子に似ていた。
ゆーみが、店のサインを見上げた
あの人の名前。
あの人の店。
あの人が、まだここにいる証。
泣きそうな顔をしているのに、それでも背筋を伸ばして立っている。
きっとこの子は、これからもこの店を守りながら、何度も同じ夜を越えていく。
哀しさを抱えたまま、それでも、前を向いて。
あたしの何倍も強い。もしかするとゆーきよりもだ。
「みきのさんは、結希さんに話したいことがあって来たんじゃないんですか?」
「ん?特にないよ」
久々の美唄でお墓参り。
みほ、ただいま。ゆーきは変わってなかったよ。
お姉ちゃん、ありがと。
さあ、東京へ帰ろう。静寂のない街へ。
人には、思いもよらない事が時々起こる。
それが抗えないものなら、静かに受け止めればいいんだよね。
そして、自分に小さなプライドを抱いて、出会えたー人ひとりを抱きしめて、生き抜いていくんだ。
ゆーきだって、あたしだって。
何を抱えてでも、少しでも前へ、を身を持って教えてくれたよね、とーこ。




