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18/22

第18話 変わらないもの

 最終日。

 7時集合。


 早すぎる朝の光が、カーテンの隙間から刺さる。

 飲みすぎだって。


「昨日はすごかったな、アイドルのライブかと思ったぞ。疲れてるだろうから、9時出発とする」

「なぜそれを、メールで言えない?」

 コーヒーを飲み、無言のまま、それぞれが足を引きずるように部屋へ戻る。

 祭りの翌朝みたいだ。楽しかった証拠の疲労。



「飛行機、6時台じゃん。どこ行くの?」

「3時までには空港に着く必要がある。で、この後は、バス」


「バス?」

「バス、最高ね」

「だから、そこじゃない。あのさ、行き先、寝る前に決めてんじゃ?」

「結果オーライ」

 確かに、ここまで全部オーライ。

 悔しいけど。



 バスは中心部を抜け、だんだん山へ。

「あのう、どこへ連れていこうとしているのかしら?」

「行けば分かる、でしょっ」

「ここ、なに?」

「下りてみようぜ」


 湿った空気。木の匂い。

「あー、もういやされそう」

「平和の滝。市内に滝」

「確かに、リフレッシュできそうね」

「だろ?」

 分かりました。


 4人、ばらばらに散る。

 滝へ近づいていく女子。

 石を選びながら、登り始める背中。


 とうこさんは少し離れた場所で、目を閉じている。

 眠っているのか。

 それとも、音を浴びているのか。


 水の落ちる音は、すべてを均す。

 怒りも、焦りも、昨日のざわめきも。


 ぼうっと2時間。

「ここ、夜は出るらしいぞ」

 台無し。



「あー疲れた。ミネさん、お昼はどーするの?」

 本音が出る頃合い。

「お?忘れてた。優美に聞こうか?」

 もう、誰も驚かない。


「良ければだけど、前に食べた店でもいい?」

「いいっ!行こ」


 バス。

 乗り継いでも、バス。

 振り回される3人。

 でも、誰も降りない。



「ここ?あ、スープカレーって書いてる。食べてみたかったんだよねっ」

 運ばれてきた皿。

 ゴロゴロじゃない。

 シャバシャバ。

 でも、湯気の向こうから香辛料のいい香りが立ち上る。

 これが、スープカレー。


「昔、札幌でインドカレーが大流行した時、地元の人達が何か新しいものをって考えたらしいの」

「賢いもんだな。でも、カレーから離れてない。これ見てみろ、夏で良かったろ。トマト、ズッキーニ、ピーマン、野菜まみれだ」

「野菜だらけ、ね」


「普通のカレーより香辛料の種類が多い気がする」

 ゆっくり食べながら、とうこさんが云う。

「あなた、今度家で作ってみるね」

「待ってます」とみきの。

「さらっと云うな」


「何でも入ってて、何でもおいしいんだ。あたしの心みたいじゃん」

「スープカレーを人に例える人も初めてだけど、確かに、何が入っているか分からないヤミ具合は似てるな」

「ヤミつきになっちゃうじゃん」

「そのヤミじゃない!」



 急かされて、3時前には空港へ。

「荷物は、持ってった方がいいだろうな」

「だからさ、テキトーに云うのやめてくんない?この重いの持って歩けと?」

「みきの、ミネギシさんは外さないと思うわ」

 弟子が云う。


「まあ、上がってみようぜ」

「あたしは展望デッキとか行かないよ」

 違った。

 温泉。

 空港の中を、浴衣姿の人が普通に歩いている。

「じゃあ、風呂に入って、40分後に大広間集合な。いったん解散!」

 最後まで、抜かりない。


 大広間。

 浴衣で、昼間のビール。

「みきのよ、最終日だから昼間のビールを許す」

 目がキラキラ。


「でも、最初はどうなるかと思ったけど、すごい。こんな旅行はこれまで1回もなかったわ。先生ありがとう、絶対に忘れない。いつもドキドキして、計画のない旅行が楽しいことが分かった」

「そーよ、昼間から飲めるなんて!」

「そこじゃない!」

 笑いが起きる。


「僕も最初は不安しかなかったけど、終わってみれば『札幌など制覇旅』は完璧だったね。自分のこともちゃっかり進めながら」

「それは運命だ」

「運命、か」

 軽く云うなっ。


「幸せだねっ。帰りたくないなあ。あ、まさか2人で抜け駆けして来ないように」

「その手があったか」

 やがて飛行機は飛ぶ。日常に戻る。

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