第15話 消えなかった時間
常連さんが3人、来店。
「ママ?ママーーっ!」
とうこさんが、ボックスへ。
静かで、楽しそうな席。
優美さんが云う。
「ここ、メニューないんです。お客様が聞くと、柊子さんが考えて作ってたので」
「食材見てから決めるんだよな」
「ですです」
「ゆうきさんはどうですか?」
「何でもおいしいから、お任せしてる」
「柊子さん、幸せですね」
優美さんが、一瞬だけ言葉を選ばなかった。
「優美さんが継いでくれなかったら、結婚できなかったと思います」
「どういうことですか?」
「店をどうするかで、決断できなかったはずだから」
優美さんが静かに云う。
「会社員でした。でも柊子さんに相談されて、その場で引き受けて辞めました」
迷いがない。
「商品より、人と直接関わる方が面白いかなって」
すごいな。
本当に。
とうこさんが戻る。
「写真、切らなくて良かったって真顔で言われた」
優美さん、爆笑。
笑顔が、まぶしい。
「ゆーき、その目?」
「何?違うから」
「ふーん」
「では、みきのさんの目は?」
「え?なになに?あたしの目?」
「いえ、なんでもありません」
店の空気が、やわらかい。
ここには、少しゆっくり時間が流れている。
とうこさんがいた時間も、今の時間も。
カウンターに並ぶ4つのグラスの泡が、
静かに消えていくのを見ていた。
結局、初日からさんざん飲んだ。
「そろそろホテルへ・・・」
と、言いかけたところで、みきのが止まる。
「あれ、スーツケースは・・・。もう、ミネさん、なんで札幌駅にっ」
沈黙。
とうこさんが、静かに云う。
「・・・お行きなさい」
男2人、地下鉄で1駅、回収の旅へ。
「タクシーでよかったんじゃないか?」
「生きてこの島を出たければ、やめておきなさい。 それより、もしかして優美さんのこと・・・」
「んな訳ないだろっ!」
早い。
否定が早い。
「女子の荷物って、なんでこんなに重いんだ」
はぐらかした。
本気だ。
これは面倒な予感しかしない。
いったん店へ戻り、4人で中島公園方面へ荷物を引きずる。
「ゆーきはさ、そのホテルに何か月も潜伏してたってこと?」
「云い方が」
「当初は逃亡犯かも、って思ってたの。話すの怖かったな」
冗談に聞こえない。
「とーこも泊まったことあるの?」
「そんな関係じゃなかったし。私のマンション近かったけど」
「まったくそんな雰囲気じゃなかったよね。取り調べる刑事みたいだった」
「ただ、この人が東京へ帰る前にね・・・」
「前に?」
「一度、気持ちがニアミスしたかも・・・」
ミスがニア?
ミネギシさんが強制終了。
「話広げるな。今日は部屋飲みなし。明日は早いぞ。7時までに朝食会場集合」
「なになに?」
「焼きトーキビだろう?」
忘れてない。
誰が7時からとうきびを焼く。
部屋に入ると、とうこさんが袋を出す。
「これ、優美ちゃんから」
「なに?」
「ん、北海道限定のチューハイね」
「お土産?」
「たぶん、出張のお客さんに渡してるのかもね」
「もらうと部屋で飲みたくなる。で、あの店以外行かない。次も行く」
「そこまで計算してる子じゃないけど・・・でも、気遣いは本当にすごい」
「やられたね」
缶を開ける音が小さく響く。
「そういえば、店でのミネギシさん、ちょっと変じゃなかった?」
「正直、ああいう人だとは思わなかった」
「何かが始まった気がする」
「始まってしまったのね・・・なにが?」
「愛が」
「優美ちゃんに?」
「うん」
とうこさんが少し笑う。
「それはどうかしら。年齢も環境も違うのよ」
人のことは、言ってはいけない。
自分たちだって、簡単じゃなかったのだから。




