第13話 また、この街で
8月3日。
結局、僕たち4人は千歳にいた。
飛行機を降りた瞬間の、あの少し乾いた空気。
このメンバーなら、もう楽しい。
「初北海道はミネさんだけでしょ」
「そうだよ、何か?」
「今からキョロキョロしてたら、3日もたないって。ていうか、お腹すいた。旅行なのに、なんで9時着なのよ」
「時間がもったいないだろ。旅行ってのはな、だいたい午後着だ。あれが一番もったいない」
言い切る顔が、無駄に誇らしい。
「一理ある気もするけど、僕スケジュール聞いてない。フリー?とうこさん聞いてる?」
「ホテルのことしか聞かれてないよ。みきのも聞いてないって云うし」
「任しとけって言われたのよ」
「初心者に任せたのか」
話はとりあえず食べながら、ということになり、ラウンジで、北海道感もないものを各々が食べる。
その中で、ミネギシさんが唐突に宣言する。
「最初はレンタカー借りて回るかと思った。でも3日じゃ足りない。だから今回は・・・札幌を極める!」
みんな、とっくに極めてるよ、とは言えないので。
「おおーっ!」
男2人が浮いた。
誰か、重力を思い出させてほしい。
「いいんじゃない。外も涼しいし。でも昼間からお酒はなしでいきましょう」
えっ、という小さな声。
「・・・まあ、そうだよねっ!。夜だよね」
みなの目が細くなる。
「ほんとだろうな」
「ゆーき、安心しろ。とーこの店だけ行くわけじゃないし、泊まりは例のいわくつきの中島公園のホテルにした」
それだけはやめてほしかった。
「よし、2人の聖地、札幌へ行くべさ」
語法と用法の違いって、何だっけ。
快速エアポートで35分。
駅に降り立つと、時間が少しだけ巻き戻る。
観光なんて一度もしなかった街なのに、懐かしい。
横を見ると、とうこさんが、ほんの一瞬だけ、泣きそうな顔をしていた。
「とーこ、大通公園って近いのか?」
「地下道で10分くらい」
「じゃ、キャリー預けて行くか」
「うん、身軽にねっ」
まさか、もうトーキビ?
「地下道っていうから怖い通路かと思ったけど、町じゃん」
「雪が降るし、もっと南に行くと、ほんとの町みたいよ」
「ほう。」
「ミネさん、もっとゆっくり歩いていいよ。こっちの人は、誰からも追われてないから」
「確かにせかせかしてないな。気に入った」
ああ、トーキビのワゴンだ。
「ミネギシさん、トーキビ、」
「ゆーき、あせるな。まずあれに上がってみようぜ」
「違うし。お腹いっぱいで食べたくないし」
「そういえば私、札幌に何年もいたけど、1回も上がったことないな」
「そういえばあたしもだなあ。ノッポンみたいのいないのかな」
「いたぞ。ん?テレビ父さん・・・ああ・・、とーこ、あの山にあるのは?」
「スキーのジャンプ台よ」
「あれがか?」
「大倉山、90m」
「おお、テレビで見たことある。抗力、揚力と重力の戦いだよな。でも、いろんなとこ行ったけど、こんなに整然と碁盤の目のような街、マジでびっくりだ」
「確かに、上から見ると分かりやすいわね。住んでいたころは、信号を見ながら、前後左右が分りやすかっただけで。あ、ここを建て替える話があるって、誰かが云ってたの。完成したらスカイツリーを超えるって」
「超えたい目的がわからん。ま、では試しにあそこ行こうぜ」
ん?行き当ったりばったりしたり?
タクシーで大倉山。タクシーなんだ。
「これ、上がれるらしい」
4人、縦列で無言のリフト。
「ミネさんっ、ものすごく高くない?ちょっと怖いよ」
「おうよ。でも、こっから飛び出していくんだ。多分、着地まで10秒もないだろ。すごいぞ、このスポーツ」
たしかに。
飛んだ気になるシミュレーターから出てくると、
「すごい、すごすぎるし、無理。とーこ、行ってこい!」
僕をちらっと見ながら、
「とーこ、行きまーす!」
この人、白い顔も持っているんだ。
「他のスポーツとは全く違う。数紗で決まる。すごすぎるね。びっくりした。すごい。ビョーで決まる人生があるんだな」
「ビョーで決まるのは、あくまでものすごく練習した結果でしょ」
「ただいま」
「顔色、白いっていうより、青いんだけど、とーこ、しっかり!」
「多分、やられてしまった」
ほんとうに、とてもやられている。
「方向感覚が。あと、落ちるのが早いから、着地できなかった」
落ちていくんだ。2mくらいの幅の台にしか見えなかったけど。
「あたしは高所恐怖症だからやめとく」
だから、台、だって。
「50年経っても使われてる。こういうのこそ、オリンピックのレガシーなんじゃねえか。感動した。よし、次はどこ行く?」
云ってることだけは、最も正しい。
「ここから近くなら、私、円山動物園は行ったことない」
「行こうぜ。行動展示だろ?」
そこは、違う。
動物の前ではミネギシさんもさすがに静かに振る舞い。
「なんかさ、動物が近いんだけど」
「確かに近い」
ぐるっと一回り。
「満喫した、修学旅行みたい。あたしお腹すいたし、やっぱ夜はジンギスカンかなあ」
羊を見た後にやめれ。
てことで、ススキノへ。




