39.風の神子
翌朝、サフィロスとルヴィニは下調べに出掛けると言い出した。
二人で出掛ける方が、荒事に対処できるということでカライスちゃんと留守番となった。
「じゃあ、ルヴィニ。これ、渡しておくね」
杖をルヴィニに手渡す。
どこを探るのかわからないけど。町の外からも神殿内部、又は教団への地下通路が存在していること。
ルヴィニに地図を見せたことがあるから、渡しておけば便利だろう。
「いいの? 身を守るのに必要でしょ?」
「うん。でも、念じればすぐに手元にもどる。ルヴィニも私がピンチだってわかるでしょ?」
「なるほどね。借りとくよ」
私の杖をルヴィニに渡すとじっと私を観察するような視線のサフィロスと目があった。むすっとした表情に首を傾げる。
「サフィロス?」
「ずるい! ルヴィニだけずるいぞ」
サフィロスは、話し合いの場とかだと冷静で先を見据えたような態度なのに、何気ない会話だと子どもっぽく振舞うことがある。
結構、ギャップがあるのだけど、私よりもカライスちゃんがそれに慣れずに、毎回、驚愕の表情をしている。
「いや、だって……一本しかないから」
「そうそう。僕が使わせてもらうからね」
ルヴィニが楽しそうだ。見せびらかすように杖を持ち替えている。
「私の力で強化しただろう! 少しくらい、使わせてくれてもいいはずだ」
「あ、うん。たしかに? いや、まあ、二人で仲良く使ってくれればいいんだけど」
サフィロスの言葉に、ルヴィニが杖についている青い石を指ではじいた。
じろっとこちらを見てくるので、首を振って否定しておく。
ルヴィニのにっこりした笑顔の裏に暗黒オーラが見えたのは気のせいだろう。
「ごめん、サフィロス。今度、お礼するから」
貸し出しはルヴィニで我慢して欲しいという意志を込めて、サフィロスを見つめると「仕方ない」と折れてくれた。
「いってらっしゃい」
二人を見送り、やることを考える。
今のところ、急いで何かすることも無い。
カライスちゃんと宿でゆっくりしていると来客が現れた。
「……あいつらは?」
「出かけました」
スマラ殿下が、私とカライスちゃんだけしかいないことを確認して、肩を落とした。
「王がお呼びだ」
「いないですよ?」
「あの二人ではない」
じっと私に視線を送る殿下。
「ん? 私?」
自分に指を向けると、殿下がこくりと頷く。
「あいつらがいて、止めると思ったんだがな」
殿下にとっても予想外らしい。
私を呼び出しても、ルヴィニ達がついて来るだろうと予測していたら、二人ともいない。
一人で応じることになってしまうのか。
しかし、彼らの行く先も聞いていない。無理に探し出して、下調べの邪魔をするのもまずい。
「陛下だけですか?」
「いや……父王、兄王太子、風の神子、俺、そして――ジェイドだ」
ジェイド……アイオ様と同じように捕らえられているんじゃないのか。
その場に、私を呼び出す理由。いい予感がしない。
「神殿側の人間はいないってことです?」
「……」
黙って、真剣な瞳でこちらを見ている。
否定も肯定も無い。
ジェイドか神子様、どちらかから情報が神殿に流れるとみなそう。
表向きにはいなくても、裏で流される。
「父王がお前と話したいというのが神子の耳に入ったそうだ」
「私だけ?」
「臣下の手前、ルヴィニの態度は問題が生じるからな」
昨日のルヴィニとの様子を見る限り、友人の父親として接してる感じだった。明らかに、王に対してではない。
不敬罪とかの問題にならないと確信しての態度ではあった。確かに、他に人がいると問題だろう。
「わかりました。カライスちゃん、ちょっと行ってくるね」
「大丈夫です?」
カライスちゃんが不安そうに私と殿下をちらちらと見ている。
二人がいない間に、私が出掛けるのは心配らしい。
「多分ね。アイオ様のことも気になるから、聞いてくるよ」
「わかったけど、無茶したら駄目だからね!」
カライスちゃんに留守番を頼んで、王宮へと向かう。
王宮に入る前に殿下に確認をする。
「ちなみに、私の正体については?」
「わからん。……すまんな」
「いいですけど……いい結果は期待しないでくださいね」
私に対する情報をどこまで得ているのか、不明。
私自身は水の側に立っているけど、何の権限もない。
話をしたところで、水側の意思を確認することは出来ない。引き止めるのも無理だろう。
「火に油注ぐだけだと思うんですけどね」
「同感だ」
あ、殿下も同じことを考えていた。
ルヴィニは後から知ったら怒るだろう。多分。
ただ、アイオ様の件ですでに怒っている。私一人追加しても、変わらないと言えば変わらない。
王城で案内をされたのは広い会議室のような机が四角に並べられている部屋だった。
正面には風王と王太子。
向かって右側にスマラクト殿下、左側に風の神子エメロード様と、その隣にジェイドがいる。
私側は一人。5,6人は座れそうなほどの広さがある。ど真ん中に座るのは居心地が悪い。
外のドアの前には護衛が置かれているが、部屋には6人だけ。
この人数なら、もっと小さな部屋でもいい。
格式が高そうな部屋だから、威厳を示すためだろうけど。
「ミオ殿。よく来てくれた」
「陛下の御目通りできましたこと、光栄でございます」
「どうか楽にしてくれ。突然呼び出してしまい、すまぬな」
和やかとは言えない雰囲気に包まれながら、この微妙な配置について考える。
殿下と神子様がばちばちににらみ合う位置に座っている。
互いの立場が異なるという配置なのだろう、多分。
「……」
「……」
呼び出した王も、私も無言のまま。
いや、王はなんとなく困った表情だ。おそらく、この呼び出しも、ルヴィニ達がいないことも本意ではないのだろう。
殿下は腕を組んで、深く腰をかけて、目を瞑っている。あれは私にゆだねるという意味でいいのか、どうなのか。
ジェイドと神子様を視界にいれたくないようにも感じる。
誰も口を開くことなく、しばし、時が流れる。
「陛下。お話がないのであれば失礼してもよろしいでしょうか?」
「何か、急ぎの用があったか?」
「はい。ルヴィニとサフィロスが出掛けている間に出てきましたので。彼らが心配してるかと」
「うむ、さようか」
何も無いなら帰らせてほしい。
時間が経てば、彼らが乗り込んでくるという意図は伝わっているだろうけど、王の歯切れが悪い。
「そなたの知ることを妾にも提供して欲しくてのう」
漸く、私を呼んだ目的を口にしたのは、風の神子様。
私が彼女の方に視線を向けると、ジェイドが睨んできた。
「風王陛下。私は水側の人間です。風の神子様に尋問を受ける謂れはないと思いますが――まさか、このために呼び出したのでしょうか?」
当然のように情報を差し出すと思われては困る。
私は水側の人間であり、すでに協力関係は破綻寸前である。剣呑な雰囲気で、求めに応じない構えを見せておく。
少なくとも、風の神子様とは初対面であり、こちらは被害を受けた側だ。
ルヴィニ達の意に反して、風側に靡くような態度を取るわけにはいかない。




