37.次の目的
ここから対神殿での動きになる。神殿の実情をカライスちゃんに確認する。
ただ、カライスちゃんも大した情報を持っている訳ではない。
神子側と分断工作を行っていたことは間違いない。
だけど、カライスちゃんが巧みに誘導されただけ。12歳であることを考えれば、信じてしまっても仕方ない。
「思ったよりも、人数が多いけどね」
「大の大人がよってたかって、子どもを騙す時点でアウトでしょ。腐りきってるね」
「それなりの地位がある人が指示をしているのか、その人数が邪龍教団に所属してるのか……どう思う?」
「どっちもじゃない? 本当に地下通路があるならだけど」
にんまりと笑うルヴィニの脇をつんと突く。
今のところ、神殿地下から教団に続いている。これは私が存在すると言ってるだけで、証拠はない。
でも、間違いなくある。そうでないと、“赤い石”や“呪詛の種”がすでに存在するはずがない。
早いところ、調査をしたい。だけど、風王や殿下の助力があっても難しい。
無理やりに暴くとなると、戦力も必要。
結果、簡単には動けないまま時が過ぎる。
夜になって、サフィロスが顔を出した。
「え? あっ」
「いい子だから、静かに。――秘密な?」
「は、はいっ」
部屋に入るなり、カライスちゃんが目を丸くして驚いていた。
サフィロスが近付いて、何か耳打ちをするとこくこくと頷いて、「お茶をいれてきます」と去ってしまった。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
「カライスちゃんも、急にどうしたんだろう? まだ、お茶あるのに」
「さあな。私のを用意してくれるんじゃないか? それにルヴィニが追いかけたし、大丈夫だ」
「あっ、本当だ」
よく見たら、ルヴィニもいなくなってる。全然気付かなかった。
ルヴィニは気配消して動くと、足音とかもしない。背後に忍び寄られて驚くことも多い。
「ミオ。すまんが、今のうちに、これを付けるの手伝ってくれ」
「腕輪? 取るのも付けるのも自分じゃ出来ないなら、付けなきゃいいのに」
「まあ、一応な。一度、この石を持ってくれ」
サフィロスの右腕に金の腕輪を装着し、空いている窪みに大きな水晶のような透明な石を嵌めるらしい。
石に触れると、いきなり眩暈に襲われ、ふらつく。体の奥から何かが吸われたような感覚だった。
「あっ」
「おっと、すまん。大丈夫か?」
倒れそうになる私をサフィロスが体を支え、石を持つ私の手ごとサフィロスの手が包み込んだ。
男の人の手だなと思う。同時に、ひんやりと冷たい海の底のような静かで落ち着いているのに、重く、どこか息苦しさを感じる。
これはサフィロスの魔力だ。そんなことが頭をチラついた瞬間、今度は逆に何かが流れ込んできて温かさに変わった。
「これ、なに?」
「吸魔晶。魔力を吸い取る石だな。……ついでに、吸った分を補填した」
「先に言っておいてよ」
魔力を吸われた後、サフィロスが魔力を注ぎ込んだ。結果、変な感覚に陥ったらしい。
わざわざ魔力を吸い上げる、自分では外さない枷を嵌めている。同じ腕輪をつけているルヴィニも同じか。
もう一度身に付けるためには、私の魔力が必要だったなら仕方ない。
だけど、説明は必須でしょ。
「“σφραγισμένο(封印)”」
「あれ、透明だったのが少し青くなってる?」
「ああ。そのうち、ミオに渡したのと変わらない水の魔石になる」
なるほど。色が違うのはサフィロスは水、ルヴィニは火なんだ。
石の色が違う理由を漸く理解した。
サフィロスが私から離れ、椅子に座り直した瞬間に声がかかった。
「終わった?」
「ああ、すまんな」
ルヴィニが顔を出すと、サフィロスが右腕の腕輪をルヴィニに見せる。
ルヴィニはカライスちゃんに腕輪のことを見せないようにする見張りだったらしい。
二人とも、唇に指を当てて、黙っておくようにという仕草をした。
その後、すぐにカライスちゃんもお茶を持って戻ってきた。
う~ん。何だかんだと、秘密が色々と多い。
私に対しても言わないことがあるだろうし、カライスちゃんにも言わないこと多い。
それでも、それなりに信頼されてるとは思うくらいには、彼らを理解し始めている。
「それで、今後だけど、どうする?」
改めて、話をするために椅子に座る。
ただ、サフィロスが来たので椅子が足りない。ルヴィニは私の横で立つことにしたようだ。
「アイオが人質に取られてるから、大きな動きはし辛いな」
「はっ!? なんで、アイオ様が!?」
がばっと椅子から立ち上がる。
サフィロスに飛びついて問いただそうとしたけど、首の後ろの部分をルヴィニに捕まれてできなかった。
「アイオは!? 無事!?」
「ああ、二人とも落ち着いてくれ」
ただ、私はルヴィニが止めたけど、カライスちゃんがサフィロスに飛びついていたので、結果は変わらなかったかもしれない。
話を聞くと、裁判の中でアイオ様が水の神子様を襲い、怪我を負わせた。
神子様への危害ということで、風の神殿が身柄を求め、王宮で拘束されている。
「アイオが襲ってきたの、私じゃん! 神子様じゃないのに、なんで神子に危害を加えたってことで拘束されるの!?」
カライスちゃんの言葉に、私もうんうんと頷くしかない。
その場にはいなかったけど、アイオ様を拘束する理由がわからない。
今度こそ、アイオ様を真っ当に出会い、話が出来るかもと、ちょっと期待していた。
どうやら、また出会いはお預け。
カライスちゃんとは仲良くなった。
前回と違って、今度こそと考えていただけに、がっくりと肩を落とす。
それでも、ここで無理して動くことは出来ない。勝手な行動をすれば、こちらが追い詰められる可能性もある。落ち着こうと、一度深呼吸をして、サフィロスを見る。
「あっちの難癖だ。実際、あの御使いの命令で、ジェイドが風の神子を襲ってるからな。あちらと同じで、御使いに操られて神子を襲ったという体裁で同じ罪としたいらしいな」
「ジェイドの罪をうやむやにしたいから、アイオ様も拘束した?」
「そういうことでしょ。あと、自分達が追い詰められてるからじゃない?」
神殿側はカライスちゃんの姉である水の神官の殺害に関与の疑い、さらに、無罪の人間をでっち上げで処刑しようとするなど、負の部分が大きい。
確かに、ここでアイオ様とジェイドを盾に、何とか体勢を立て直したいのか。
「まあ、風の神子の意思も入っているんだろうな」
サフィロスが一瞬、暗く、侮蔑の瞳で囁いた。
すぐに、いつもの笑顔に戻したけど。カライスちゃんをちらっと見ると気付いていない。
「母親として?」
「さあ、どうかな。元々神殿にいいなりの人でもあるからね~」
ルヴィニも馬鹿にしたように風の神子様を評した。
指示したのは風の神子様の可能性もあり得るのか。
神子様と事を荒立てたい訳ではないけど、足止めをされるのも困るけれど。
我が子可愛さはわかるが、時と場合にもよるだろう。二人が呆れてしまう気持ちも少しわかる。
「ミオ。神殿と何処までやりあう?」
楽しそうに私に意見を求めるルヴィニは徹底抗戦を希望しているのがわかる。
「完全に叩き潰すと風の国の民からもいい感情を向けられないでしょ」
ルヴィニは私の言葉にあからさまに肩を竦めた。物理で攻め込みたかったようだ。
サフィロスは沈黙したまま、目を細めて笑みを浮かべる。
見惚れてしまいそうなほど神秘的で引き込まれる表情なのに、なぜか、蛇に睨まれた蛙の姿が目に浮かんだ。
捕食者のそれだ。獲物を追い詰め、いたぶる。逃げ場なんてない。
ぶるっと体を震わせると、ルヴィニがぽんぽんと頭を叩いて頷いている。
なんだろう。サフィロスはすでにいつもの顔に戻っているけど、私の勘違いでない。
排除はするけど、完膚なきまでに叩き潰すまではしないと提案したけど――ルヴィニとは違う方法で完膚なきまでに潰されることが確定した気がする。
何だか、敵ながらに同情してしまうが――神殿側とこのままではいられないのも事実。
徹底抗戦だ。




