36.裁判を終えて
結界を張ること6回。
その間、上の裁判で何が起きているかはわからないけど、繰り返し結界を張り続けた。
途中で、この部屋に入ろうとしてくる人もいたようだけど、王様が自らここに入るなと命じたため、邪魔をされることもなくなった。
なんとなくだけど、この部屋の外で待機している護衛は一緒に逆行している。けど、城に中には逆行に気付いていない人もいる。
本当に、私の結界の範囲は一緒に記憶を持ち越しているようだった。
6度目に入り、次の逆行が起こらないため、長いなと思い始めた頃に、スマラクト殿下がやってきた。
「……終わったぞ。あれは逃走した」
「は? 逃がしたの?」
スマラクト殿下の報告に、ルヴィニが呆れたように返している。
どうやら、導き手様を名乗るノアという少女は逃亡し、これ以上は時間逆行が起きない。
カライスちゃんの無罪が確定、さらに別の問題が生じたことで、裁判は終了した。
「どうして逃がしたの?」
「逃走や逆行が出来ないよう杖を奪ったはずが、手元に戻り、それを使って姿を消した」
「取り上げても無駄って、伝えたはずだけどね。魔力封じ優先って言わなかった?」
私や彼女の杖は念じれば手元に戻ってくるため、奪ったところで無駄。
それは、前にルヴィニにも伝えてあったけど、現場には伝わっていなかった。
報告を聞いて、肩を落とした。
空間転移を使用し、遠くに逃がしてしまったとなると、追いかけることは難しい。
彼女の能力は、危険。ここで逃がしたなら、また、立ちふさがってくる。
今回はジェイドとアイオ様は逃れたけど……犠牲者が出る可能性は今後もある。
幸いにも、神子クラスの魔力だと抵抗できるようだけど。
魔力が低い人達の方が多いから、数の暴力でくるなら勝ち目がない。
目的は同じはずなんだけど。
彼女に任せることができない。そう、本人を見て思った。
ここは私達にとってはゲームの元となった世界で、現実世界として受け入れることは難しい。
だけど、この世界で生きている人達も、同じように生きている存在。
それを当然のように操り、自分の都合のいいようにしか考えない。
同じ立場、世界を救うために投じられた存在だからこそ、嫌悪がある――再び、彼女に会う時も、敵だろう。
むしろ、これから彼女と邪龍教団との三つ巴の戦いになる。
「ミオ? 聞いてる?」
「えっ? あ、いや、ごめん。考え事してた」
目の前をルヴィニの手が動いている。
覗き込んでいるルヴィニに、「ごめん」と謝って、向き直った。
「逃走した先、どこだかわかる?」
「う~ん。5年前だと、光の大陸に住んでるはずだけど、詳細までは……」
主人公の過去はそんなに語られていないから、居場所とかはわからない。
ルヴィニとスマラクト殿下が眉間に皺を寄せている。
そこまで情報があるわけではないんだよね。
「しかたない。サフィロスは何て?」
「……何もない」
「じゃあ、放置するしかないね」
「そうか……」
スマラクト殿下は簡単にだけど、裁判で何が起きたかを、説明してくれた。
結論として、ノアが魅了により、風の国を掌握することは防げた。
ノアの魅了による洗脳、自分の都合のいいように時間を巻き戻すことは把握したため、この国で導き手様を崇めることは無いという結論は出たらしい。
さらに、ノアを持ち上げたのが神殿の人間だったから、なし崩しで神殿の権威を削げる。
最低限の勝利は確保できたけど、大局的な成果は得られていない。
脅威を把握しただけでもある。
「改めて、感謝する。お前の助力で風の国は救われた」
「いえ、力になれてよかったです」
スマラクト殿下が、頭を下げてきたので、慌てて、頭を上げるように言う。
堅苦しいお礼をされるとどう接していいか、困る。
「これからはスマラと。敬語も不要だ」
「いや、それはちょっと……」
「そうそう。スマラ、無茶言って困らせないでくれる?」
ルヴィニが私の後ろから抱き絞めてきた。庇ってくれてるのかとじっとしていたけど、これ違う。
絶対に悪い顔して挑発してるよね。
スマラクト殿下の顔がどんどん凶悪になっている。
「お、おちついてください」
「……わかった。無理にとは言わん」
うん。急に言われてもね。王子だし、他の人の目もあるから、呼び捨てとか無理だった。
「今後の対策は考える必要がある」
「そう、ですね」
たまたま、時間逆行は結界を張ることで記憶を保持できただけで、操る系のスキルには何も出来ていない。空間転移も防げていない。
結界内なら、私以外が魔法使えないとかなら最強なんだけどな。
「ミオとあれの魔力に差がなかったから上手くいったけどね。あっちも対策を練ってくる可能性はあるだろうしね」
「対策としては早いうちに、神器を回収した方がいいかな」
私の言葉に、風王、殿下が反応し、こちらを凝視してくる。
「あ、いえ、風の神器ではないです。すみません」
私が考えたのは水の神器の方だった。
流石に、風の国の至宝を勝手に奪うようなことはしない。
「そこが疑問なんだけど、各国の管理する神器に結界なんて機能あるの? 聞いたことないんだけど」
「え? ないの? 似たようなことできそうじゃない?」
「僕が知るわけないでしょ」
いや、あるものだと思い込んでいた。
あれはゲームの仕様上ってことで、実際は浄化した土地に結界を張っているわけではなかったけど、結界自体は重宝している。
神子様なら、似たようなことも出来そうだと思う。
「ミオ。まさか、結界の能力が偶然手に入れた能力とか言わないよね?」
少し圧のある笑顔でルヴィニが近付いてきた。
「まって、一応、理由もあるんだよ。そもそも、私、彼女の能力を知らされてここに来たわけじゃないから。あっちも私の存在は知らないはずだし。たまたまでも切り札に成り得たんだから、悪いことじゃないよ」
ノアが時間逆行とか、人を操る系のスキルとか、予想外だった。
偶然でも、対抗できる術を持っていたのは運がいいと思う。
いや、もしかしたら、あの神様が気を利かせてくれた可能性もある。
どう考えても、ノアの空間転移・時間逆行というチートスキルに対して、地図、浄化(+結界)、聖獣召喚はしょぼい。
対抗手段となるように、ゲームの能力ということにして、くっつけてくれたのかも。
それに、私が選んだスキルも悪いスキルではないと思ってる。
正直、ラスボスである邪龍を倒す分には、不足はないと思っている。
イレギュラーなノアという転生ヒロインがいるからこそ、戦力に不安がある。
これでドンパチやり合うのは、結構不利。今回みたいに不意打ちで逆行を逆手に取るというのも、毎回は難しいだろう。
ノアの能力を暴くには役に立ったけど、私がいない時はどうするのか。
神子様が生きていれば何とかなるという考えは甘いかもしれない。
「ふ~ん。ミオの存在、知らないっていうのはこっちの切り札に成り得るけどね」
「そうかな」
「水の神器の場所、把握してるの?」
「してる……私も、彼女も――風の神器もだけど」
私が頷くと、ルヴィニはにっと笑った。
何か思いついたらしい。
「まあいいや。次の対策はまた話し合おう。スマラもそれでいい?」
「……ああ」
ここでお開きにするらしい。
いつまでも、王の時間を無駄にするわけにもいかない。
「父上。色々と問題が起きております。神殿の動きも含め、早急に対処をお願いできますか」
「うむ。……スマラクト、ミオ殿、ルヴィニ殿。導き手を名乗り、風の国を掌握しようとした者をよく撃退してくれた。礼を言う。後ほど褒美も用意するが、先に神殿に対し、手を打たなくてはならぬようだ。また、お主たちとは機会を設けよう」
「お力になれましたなら幸いです」
「この機会に神殿の発言力をなんとかしてくれるかな? 水側としては、困ってるんだよね。怪しい教団と共闘しているみたいだからね」
私が風王に頭を下げて挨拶する。
しかし、それだけで終わらせる気はなかったルヴィニが爆弾を投げた。
「ルヴィニ」
「あれの対策だけを考えて、放置できる余裕はないでしょ」
「うん、そうだけどさ」
これで解決、ではない。
まだ、首都・ショウドウにやってきた目的は全く果たせていない。
風の神殿の件も暴く必要がある。ただ、これについては裁判で追及する足掛かりを得ているらしく、殿下がなんとかしれくれるようだけど。
「時間が出来たら、顔を出す」
「別にいいよ。すぐには動けないから」
「えっと……スマラ殿下。お疲れさまでした」
ぺこりと頭を下げると、手で口を隠していたけど、笑っていた。
結構、厳しい顔ばかりの殿下だけど、少しは気を許してもらったみたいだ。
ルヴィニと共に、部屋を出て、カライスちゃんを迎えに行き、城から出る。
まだ、何も終わっていない。神子様を救う。
そして、同じ目的を持つノア。人を操ることを前提として動く彼女と相容れることはない。力をつけなくては、自分の目指す未来につなげるために。
頑張っていこう!




