34.結界②
時間が裁判の開始前に戻った。
予想通り。戻る時間、起点が変わった。
これで、次も同じ時間であれば、彼女の能力は、ゲームでのセーブ&ロードで間違いない。
「ミオ、いける?」
「うん」
「今のは……なんだ?」
「そこは説明してないの?」
「えっと、導き手様の能力の一つです。結界を張ったら、ご説明します」
先程よりも時間がないので、急いで結界を張り直す。
「あれ?」
「どうかした?」
「ううん……なんでもない」
結界を張る負担がさっきよりも少ない。
自分の周りだけの時よりは負担はあるけど、それでも10倍が3倍くらいに減った気がする。
じっと杖を見ると、きらっと青い石が光った。
サフィロスのくれた魔石? なんとなく、その石が魔力を軽減してくれたように感じる。
「お待たせしてすみません」
「よい。それで、なぜ時間が巻き戻る?」
少なくとも、この場にいる風王は記憶を持ちこしていることは確認できた。
驚いている風王のテーブルに向かい、席に座って、説明をすることにする。
「どこから、説明すればいいのか……」
「あの少女は本当に導き手であるか?」
私が説明に困っていると、風王から質問された。
ノアという少女。
名前については、ゲームの主人公のデフォルト名ではない。
5歳までは、デフォルト名を使っていたのかもしれないけど、今は、私と同じように現実世界の名前を使っている可能性はある。
顔は、主人公の面影はある。
本来なら現在12歳である彼女が15,6歳に見える。
サフィロスの話では、時間逆行の術者はそのままの時を重ねるという。だから、年齢が合わないのはまだいい。
ゲームでは17歳。明らかに、17歳の見た目に近いのだけど、それでも拭いきれない違和感。
人格が違うから浮かべる表情が違うということなのか。
姉妹とかが似ているという感じで、同一人物には見えない。
「魔力があっても時間逆行をする能力なんて、普通はありえないでしょう。その能力を持つ時点で、神から力を与えられた導き手と考えてはいかがですか?」
ゲームでは、主人公は空間転移を覚えるのだけど。
それだって、キーアイテムの入手といくつかのイベント。条件があった。
時間の流れについては、神の力でないとあり得ないだろう。
ただ、彼女の場合、見た目の年齢を考えると累計で3~4年も多くの時間を逆行していることになる。
それだけの成果があるのか……正直、わからない。
「導き手は同じ杖を持っています。彼女が持っていることはスマラクト殿下も確認しているようなので、間違いはないかと」
「では、お主は何者だ?」
喉の奥がひりついてくる。
私は何者か。
ルヴィニにも問われたことを思い出す。
私はノアと同じく、導き手様と名乗れるのだろうか?
――否。目的はあるし、神に使わされた人間ではあるけど。
この世界にいる時間は、ミッションを熟すための限られた時間。
ルヴィニ達をずっと見守り、共に行動できるわけじゃない。
「……難しいですね。世界を救う導き手様という肩書にふさわしい力をもつのはあちらです。……ただ、私もまた世界を救うことを目的としています」
私の場合、地図&大辞典以外は、神子様達なら同等かそれ以上の能力を持つことになる。
杖・聖獣を入手すればいいだけの話だ。
ただ、ゲームの仕様を考え、この能力でも知識を活かせば救えると考えていた――ノアの能力を知るまでは。
ぽんっと肩に手が置かれ、俯きそうだった顔を上げる。
「切り札ではあるけどね。あちらの時間逆行を万人に気付かせることができるとう点ではね」
「ルヴィニ、それはフォローなの?」
ルヴィニはにっと笑った。その顔に、サフィロスの顔が『君が鍵だ』といった顔が重なる。
あの時点で、この計画があったのだろう。私なら出来ると、そう、信じて任せてくれている。
「それで、魔力の減りは?」
「思ったよりはない。でも、こんなに短時間で戻すとなると、繰り返す数も多くならない?」
「数回繰り返せば、目も覚めるでしょ。だいたい、無理矢理、好感度を上げられていても無駄だよ。神子の威圧に耐えられるはずがない」
ルヴィニが楽しそうに笑っている。悪戯が成功した子どものような表情である。
「威圧?」
「そう。好意を植え付けるのも、恐怖を植え付けるのも……魔力によって行っている。こういう場合、魔力が高い方の能力が残る。結果は見えてるよ……しかも、解き放ってるからね」
ルヴィニから意味深な視線を送られたけど、首を傾げた。
私に何かあるの? と思ったら、ぐいぐいと頬を引っ張られた。一体、なんだろう?
「まあ、いいや。ミオ、きみの認識もあっちが導き手なの?」
「だって、神が彼女を選び、世界を救うことを望み、それが難しいと判断し、後から私を送ったわけだから。あっちが正規でしょ」
私の発言に、王もルヴィニも難しい顔をする。
時間逆行、空間転移、もう一つはまだ確定していないけど、おそらく人を操る系。
かなり厄介な能力3つを持ち、それでも世界を救えない判定をされているノア。
「そもそもだけどさ、力が強い神子が死んだ状態で、邪龍が復活するんだよ。その流れを阻止する必要があって、動いてるけど……実際、あっちもカライスちゃんを先に犯人として検挙させてるでしょ?」
そう。
私だって、自分の推しのためだけに、このミッションを選んではいない。
世界の命運、ここで決まるかもしれないと思ってるから選んだ。
「水の神子様の生死が与える影響は大きい。ただ、それで、カライスちゃんを消せばいいって考えは短絡的ってだけで」
この裁判をあちらの望む形で終わらせないとして、その後の流れが問題だと思う。
彼女は知識を持っている割には、なぜ、こんな手段を選んでいるのか。
ジェイドやアイオ様を手札に加えようと動いていることからも、世界を救う気ではいる。
私の言葉にルヴィニは少し考える素振りをする。
カライスちゃんが自称犯人であるという認識は、私も彼女も情報では一致している。
可能かどうかを検討した時に、私は無理と判断して、裏を探っただけでもある。
「あれの目的を探る必要がある?」
「それを彼女が語ってくれるならいいけどね……私やルヴィニのように協力関係を結んでるかな? だって、感情無視して、暗示かけたり、骨抜きにしている。自分だけの考えで、相手に意志を認めてない」
自分で自己完結するなら、上手くいかないことをぼやいても、目的をぽろぽろと口に出すとは思えない。
「儂に協力できることはあるか?」
私とルヴィニの会話に入り込むように、王が遮った。
真剣な目をしている。王であれば、出来ることは多い。
「神殿と神子の動き次第じゃない? スマラクトもどうするかわからないしね」
ルヴィニは、風王に期待することは何もないらしい。
神殿も神子も止められないくせにと嘲るような態度がある。
「もし、スマラクト殿下への想いがあるなら、健康に気を配った方がいいと思います」
私の言葉に王ははっとした表情で私を見る。
「儂は……どうなったのだ?」
それは、私も導き手であり、未来を知っているということを前提にした問だった。
「私が阻止したい未来、水の神子様が死ぬと、風の大陸に送られる魔力が足りなくなり、風の神子様は魔力が足りず倒れます。その後、風の大陸は壊滅的な影響を受けます」
「……そのようなことが?」
「私が知るのは5年後です。その時の王は貴方ではありませんでした」
ストーリーの分岐で風の大陸か土の大陸か、選ぶ。
風の大陸ルートを選ばなかったら、滅び確定。
風を選んだとしても、ジェイドストーリーのいくつかのイベントを成功しておかないと滅びる。
「先日の水の神官と護衛は全滅したのに、風の神殿の案内役は生きて事実を隠蔽。今、水の神官見習いを処刑しようとするのも風の神殿です。……王。水の神子の死は、風の国がもたらしたことでは?」
現時点で、どこまで世界が変わっているかはわからない。
わかることは、私がまだここにいる。暗殺は防がれていない。
王がするべきこと。
それは風の神殿の動きを止めさせる。神殿にいる教団関係者をいぶりだす。
他にも、やれることは沢山あるだろう。
ここで、しっかりと釘を刺して、有利になるように動いてほしい。
ショックを受けている風王に、さらに追い打ちをかける。
「……スマラクト殿下も神子となることはなく、死にます」
静かに聞いていた王が、ぐわっと目を見開き、ダンっとテーブルを叩いた。
それで良いのか?
そう問うように、じっと王の目を見る。
「そうか……そのような未来にするわけにはいかんな」
王は私の視線を受け入れ、ゆっくりと頷き、言葉を返した。
でも、ふと思う。
第三王子という肩書だったから、王が変わったならその肩書ではないのでは? なにか変だ。
「ミオ。考えてるところに悪いけど、まただよ」
「あっ……」
また、平衡感覚が狂い、視界が歪み始める。
二度目が終わる。
魔力は、大丈夫。まだ、繰り返せる。




