33.結界
ルヴィニと共に、城のとある部屋に向かう。
警備の人間がこちらをちらちらと見ている。
「こっちだよ」
「お待ちください! 勝手に入られては、困ります!」
警備の人間が部屋に入るのを止めようとするが、ルヴィニが懐から紙を取り出して、相手に見せる。
「スマラクト殿下の許可は貰ってるよ」
「しかし、この部屋には……」
「きみが邪魔をして、責任取れるの?」
ルヴィニの不機嫌そうな一睨みに、びくっと肩をゆらした。それでも部屋に入れないようにと体を潜り込ませて、阻止をしようとしている。
警備の人間に触れた瞬間、ルヴィニの周囲が魔力で揺れた気がした。
じっとルヴィニを見ると手で気にするなと合図をする。気のせいではない?
裁判が始まる時間まではまだ余裕があるけど、ゆっくりと許可を取り直すほどの時間はない。
やはり、強行突破しかないのか。
ルヴィニを止めるべきか悩むが、中から声が聞こえる。
「良いのだ。その者達を中へ……以降は誰も入れるでない」
ゆったりと。でも威厳のある声が中から聞こえた。
その声に、ルヴィニは少し眉間に眉を寄せた後、無言で部屋に入る。
「お邪魔します?」
「うむ」
中には、何だかすごく立派な中華風の服装を着ているおじさんがいた。
あの警備をしていた武官はこの人がいるから部屋に入るのを阻止しようとしたのかな。
「ミオ。この上の部屋で裁判が行われるから。範囲に入るように広めに結界を張ってくれる?」
「えっ、その、いいの?」
ちらっと座っているおそらく偉い人。
ルヴィニはこの人を知っているみたいだけど、良い感情を持っていなそうと雰囲気でわかる
そんな人の前で、私が力を使っていいのだろうかと悩む。
ちらちらとルヴィニを見るけど、こくりと頷きが返ってきた。
「ルヴィニ。私の結界は私より魔力がある人だと、破壊できるけど大丈夫?」
「問題ないよ。結界の強度はきみが、記憶を保持して戻った時点で把握してるからね。この作戦の要は、この上の部屋……裁判が開かれている部屋にいる連中も同じように記憶を保持させる」
スマラクト殿下から聞いた、転生少女、ノア。
彼女の危険な能力を、身をもって体験させることで、目を覚まさせるという。
元から好意を抱かせているだけで、魔力で完全な支配はしていないため、好意ではない別の感情を抱かせて、支配から解き放つらしい。
あの、逆行する瞬間の気持ち悪さ。さらに繰り返される時間。
何度も体験すれば、100年の恋も冷めるだろう。
「ミオ。何回繰り返すかはわからない。10回を目安に、結界の広さと強度を保つように計算してね」
にこにことすごい要求した。
最低10回。ノアに取り込まれた人達が、起きている現象がノアのせいだと気づき、ノアを見限るまで繰り返しを行う。
魔力量の管理をしっかりと行う必要がある。汗で滑らないように杖を握る手に力が入った。
「ルヴィニ。それって、私中心じゃなくて、裁判開かれる部屋の中心で結界を張った方がよくない?」
「きみが魔獣閉じ込めた結界と自分を守る結界、性能違ったと思ったけど? 場所固定はどうなるの?」
「え? 違うの?」
同じものだと思っていたんだけど?
展開した効果が中からの攻撃に耐えるのか、外からの攻撃に耐えるのかという違いだと思っていた。
「今、能力の検証をする時間は無いから、自分を中心に張ってくれる?」
「わかった」
聖杖を取り出して、魔力を込め、結界を展開する。
「うん、広さは申し分ないね。どれくらい続けられる?」
ゲームと違って、MPが数値でわかる便利仕様はない。あくまで、自分の感覚を信じるなら――足りない。
結界の広さについては、広さによって消費量が違う。
昨日、自分の周りにだけ展開した時に比べ、広い分だけ魔力を消費した気がする。
具体的には、半径1メートルくらいの円で張るのに対し、10メートルの円を張るのだと、10倍の消費をしたイメージになる。
「長い時間は厳しいかもしれない」
「結界を展開している間、消費してる?」
「うん、まあ、最初にそれなりに消費して、あとは維持にほんの少しずつ減ってく。ただ、時間が長くなるとこう……辛くなっていく感じ」
昨日も最初は平気だったのに、夕方ごろから維持が疲れるようになったと思う。
そんなに長時間にはならないだろうけど、この消費量を繰り返すなら、厳しい。
ただ、張った後の継続消費は広くても変わらないようだから、安心した。
「ルヴィニ……」
「何回できそう?」
私が少し困ったように名前を呼ぶと、わかっているというように笑った。
「8回……いや、7回とかかな。1時間以上かかるなら、もっと少ないかも」
それまでに決着がついてほしい。
でも、裁判がどう進むのかもわからない。
大事なのは、カライスちゃんが無事に疑いが晴れること。
次に、アイオ様の身柄を確保して、取り戻してほしい。
「ふむ。回復のためのポーションを用意させるか?」
「いや、こちらであるからいいよ」
おじさんの好意をにべもなくルヴィニが断った。
ただ、予想をしていたのかおじさんも苦笑しつつ、「座らぬか?」と誘ってきた。
結界を張った疲労もあるので、部屋に用意されていたテーブルの方に向かい、椅子に座る。
ルヴィニはわざとらしく、ため息をついてから、私の隣に座った。
「なぜ、ここに?」
「息子が世話になっているな」
ルヴィニの眉間に大きな川が3本できた。
うん、ものすごく不快だったらしい。
なんだろう? 会話する気がないような返しだったからかな。
いかつい表情でにこりともしていないおじさんで、どうしていいかもわからない。
「名を、聞いてもいいだろうか?」
私の方を見て、名前を聞いてきた。
ルヴィニが私の名前を呼んでいたから知っているだろうけど。きちんと名乗らせたいということかな。
「はぁ……ミオ。この人はこの国の王ね」
「え? しっ、失礼しました。ミオと申します。ご尊顔を拝見でき、光栄でございます」
風王!? なんで? いや、だから威厳があるのか。
慌てて椅子から立ち上がり、挨拶をしつつ、頭を下げる。
「楽にしてくれ」と言われて、再び座るがどうしていいかわからなくて、挙動不審になる。
「なぜ、ここにいるのか、説明をお願いしても?」
「儂が再び、あの小娘に惑わされる訳にはいかぬ。裁判に参加は出来ぬ。だが、儂だけ体験せぬままではいられぬ。ここなら、安全とスマラクトが言うのでな」
「あいつ……」
「仲が良いのだな。知らなかった」
「それはそうでしょ。あなた、全くスマラクトと接してこなかったでしょ」
どうやら殿下との親子関係は良くないらしい。王と神子候補という関係もあり、かなり距離があるという。
それなのに、計画を全て教えて、ここに待機させていることに、ルヴィニは納得していない。
「だいたい……」
「ルヴィニ!」
ルヴィニが何か言おうとした瞬間に、違和感に襲われる。
平衡感覚が狂うように足元がぐらつき、目の前が暗くなった。
目を開くと、裁判が始まる前の時間に戻っている。
1回目が終わった……だけど、まだ続いていく。




