26.ショウドウ2の2
私の決意に対し、ルヴィニは少し困ったように眉を上げて、こめかみを掻いた。
「冗談だよ。別に、どっちが本物でもいいよ。僕と目的が一致している導き手様はきみでしょ?」
「え? うん」
「結果が全てだけど、まだその結果は出てないでしょ。頑張ってるのは理解してるよ」
視線はルヴィニから逸らされ、軽く額を小突かれた。
いつもの皮肉めいた表情ではなく、柔らかな笑顔。どうやら本気にするなということらしい。
一度、目を瞑り、心を落ち着かせる。
成果はなくても、少しずつでも進んでいる。
それを見て、ルヴィニは私を認めてくれている。
少しだけ心が軽くなった。
やるべきことをやる。相手が自分が思うように事を進めるなら、こちらも何度でも抵抗すればいい。
「それで、相手の目的はきみと違うと判断していいの?」
「私も彼女も、世界を救うことが目的であることは同じはず。やり方はそれぞれに任されてる」
ルヴィニが指を唇に当てて、何かを考えている。
何か、気になることがあったのだろうか?
「やり方はそれぞれに任せる。なら、もう一人の方ときみが同じやり方なら、きみが来る意味はないよね? 何が違うと思う?」
私と彼女の、世界を救う行程の違いか。
考えたことは無かった。どちらかの動きであっても、結果として救えればいいから敵ではないと考えていたけど、間違いかもしれない。
相手の目的次第では、敵対してもおかしくない。
現に、今。こちらの行動を阻害する動きを相手はしている。
「水の神子様を救うか、否か」
まず、水の神子様が死ななければ、他の神子様達が死ぬことはない。
だけど、この違いはかなり大きい。
何故なら、攻略対象の出番が無くなることを意味する。
攻略対象が好きな場合、この道が世界を救うのに確実だろうと選ばない。
「どうしてそう思うの?」
「世界を救う神子様は誰になるか……5年後の未来で神子として立っている人が変わる」
神様は私がアイオ様を推していることが私を選んだ決め手のような言い方だった。
攻略対象が神子となる必要はないとも言った。
暗殺を阻止すれば、カライスちゃんや隠しキャラが水の神子となる道は消える。
同じように、他の神子が変わる可能性は高い。
「ふ~ん? それで」
「彼女は7年前の時点で、私と同等の記憶は持っていた。私と違って準備期間は12年ある中で、何もしてなかったとは考えられない。なのに、神様からは無理と判断された理由があるはず」
「待って。7年前って言ったら、10歳前後の子どもに何ができる?」
「違う。彼女はカライスちゃんと同い年だよ、今、12歳。当時は5歳だよ」
5歳の時点で、人格が変わったと聞いた。
だから、今、12歳だから彼女が改変を開始して7年。
ルヴィニの言う通り、5歳の子ども何ができるか?
確かに、子どもの姿では、やれることも限られている可能性はある。
そのせいで、成果が見えないということ? まだ、5年あるのに?
いや、でも、5年前に来ることを決めたのは私だ。
私に話を持ち掛けた時点で、神様は結果を知っていた可能性もある。
「何言ってるの? どう見ても、15,6歳だったでしょ」
年齢がかみ合わない。それは私も思う。いや、顔も……もっと、乙女ゲームの主人公らしい可愛い顔だった。
あんなに醜悪な顔でカライスちゃんを見るような子ではない。中身が違うにしても、顔つきだって底意地が悪そうに見えた。
一致しているのは声。だけど、声はそうそう変わるものでもない。
「まあ、あり得ないことじゃないな」
「え? サフィロス?」
「久しぶりだな、ミオ」
手を開いて嬉しそうな笑顔で近づいてきた。
少し戸惑ったあとに、同じように手を開いて、抱き着いておく。
「サフィロス、どうしたの?」
「慌ててカライスが駆け込んできて、事情を聞いて走ってきたんだ。無事でよかった」
どうやら、ちゃんとカライスちゃんは辿り着いたらしい。
現状、動き方が定まらないため、宿で待機しているという。
「いい加減離れなよ」
ルヴィニに腕をグイっと引っ張られて、サフィロスと離れた。
視線をサフィロスに向けるとその後ろにもう一人いた。
不機嫌そうなオーラを放つ人が私を睨んでいる。
「それはなんだ?」
「可愛いだろう? ミオ、俺の友人だ」
「あ、えっと、ミオです。初めまして、スマラクト殿下」
眉間に皺を寄せて、不機嫌な顔でこちらを見ているスマラクト殿下。サフィロスの後ろに隠れようとしたが、その前に押し出されてしまった。
頭を下げると、じろっと睨まれ、盛大に眉間に皺が寄っている。
風の国の王子であり、風の国の神子候補。
ゲームでは風の神子になるキャラを庇い、必ず死ぬキャラでもある。
中華風の服を身に付け、肩には大きな鷹のような鳥を乗せている。
「水の神子様の暗殺を阻止するために動いており、協力者のルヴィニに同行しています」
私の言葉にさらに眉間の皺が大きく、人を射殺せそうな目つきでこちらを睨んでくる。足に力をいれ、一歩前に出て、握手を求める。
怖がっていたら、進めない。
「よろしくお願いします」
「……ああ」
一応納得したのか、こくりと頷きが返ってきた。
握手をした手の平は固く、腰にさしている剣は飾りではないと理解した。向けられないよう、しっかりと信頼関係を作らないといけない。
用意されていた椅子に全員が腰を掛け、改めて、対策会議が始まる。
「それで、あり得ないことじゃないってどういうこと?」
サフィロスに向かって、ルヴィニが問う。
私もそれに続くように頷くと、にこにこと楽しそうにサフィロスが説明する。
「何、簡単なことだ。術者を中心に時間が戻るなら、術者だけはそのままの時間を過ごしたことになる。それなら歳を取っていてもおかしくはないだろ」
「ああ、そういうこと? 自分の過去を起点には出来ていないんだね」
ルヴィニが馬鹿にしたようにくすりと笑った。
どうやら、完全な形で発動が出来ていないということらしい。その結果が、ルヴィニ達のように防げる人が存在する状況。
「自分の都合のいいように進む世界だけを作り、ダメならやり直すというのは随分と性根が腐っているがな」
サフィロスがぼそりと呟いた声が低く、重く響いた。
私に対しては割と気さくで明るい振る舞いが多いのだけど、心から軽蔑しているのがわかる。
よく見ると、青いサファイアのような目が凍てついたように冷たく輝いている。
「どうでもいい。この状況を脱すのが優先だ」
スマラクト殿下は元凶に興味はないらしい。「どのような人物であろうと消せばいい」とはっきりと口にして、腕を組んで、深く腰を掛けている。
「目的がわからないと、何とも……」
「ふんっ、役に立たんな」
この3人は、毎回ではないがすでに何度か、互いの状況を打合せしているらしい。そして、ここで新顔である私に対し、不機嫌オーラを出しているスマラクト殿下。
消してしまうことに消極的な私に対し、馬鹿にしたように振舞う。
「馬鹿にするのやめてくれる? ミオがちゃんと理由と元凶を特定してくれたから次に進めんだよ?」
「俺ら3人で手詰まりだったのを解決しているのに、何が不満だ? ミオが頑張ってるんだから褒めるべきだ。君が抜けてもこちらは構わない」
ルヴィニに後ろに庇われ、サフィロスに抱き着かれた。そして、殿下に抗議するが、そこはいらない。
大したことは出来てないのに持ち上げるのは勘弁してほしい。すごく恥ずかしい。
「そこまで言うなら、お前の考えを聞かせろ」
重く響く声で、「くだらないことを言ったらどうなるかわかっているな?」という無言の圧迫を感じる。
考えは纏まっていないけど、発言しないわけにもいかない。声が震えないように注意しながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「情報が足りない。少なくとも、目的がはっきりし、何をやろうとしていたかがわからないまま彼女を除外すると、後で困る状況になる恐れがある。今はまだ、その手段を取るべきではない」
「まあ、そうだね」
私の意見に、ルヴィニが賛同する。「続けろ」というスマラクト殿下の言葉に、頷きを返す。
「彼女に都合のいい展開になるまで、やり直す。これを前提とした場合、前回は、カライスちゃんが声をかけたことで、何かが失敗し、その瞬間に戻った」
「そうなるね。実際、何度か、彼女がアイオに接触を試みているよ」
ルヴィニの話では、直近のやり直しはアイオ様の前に現れているという。
「王宮にもいたな」
「え? 何が目的で?」
「わからん」
スマラクト殿下の話では、王宮の入口付近で捕まったのが1回、中に侵入していたのが1回、さらにもう1回は侵入していたという。
王宮に上手く忍び込めずにいるうちに、アイオ様と接触するように変わったらしい。
「目的は王宮内の何かとアイオ様……」
あの能面のアイオ様の様子。
思い出しても、背筋に冷たいものを感じる。あの様子は普通じゃない。
アイオ様を救うためには、私には何が出来るか。




