24.ショウドウ1
「もうすぐ着きますよ! ほら、大きな門が見えてきました」
カライスちゃんが馬の手綱を引いて、笑顔で振り向く。
その先には、大きな門と城壁に囲まれた都市。
奥に見える建物は、中華風の城だった。
ショウドウは風の大陸の首都、最も栄えた城下町。
北側中央には風王が住まう王城、南東に風の神殿があり、他にも華やかな中華風の建物が多い。
遠目から見ても煌めいた華やかさがある。
一方で、石造りの塀で囲まれて厳かで近寄りがたい雰囲気を醸し出している。
何故か、とても既視感がある。
ゲームで見たことがある街だから、当然、遠目からの雰囲気も中の様子も知っている。
でも、ゲームでは全て新しい建物、画面上の整った世界。
実際の街では建物も汚れやひび、新しかったり、古かったりで独特の味が出ていて、知っている町とは違う雰囲気を醸し出す。
何か胸のざわめきを感じる。
街に近づくにつれ、少しずつ既視感が強くなっていく。
何かが、おかしい。
「あれ? 検問してますね」
「えっ?」
城門の前では人の列。検問をしているらしく、通行証を改めている。
その様子に、ルヴィニが一瞬笑ったように見えた。
「通行証を」
「これを。この子達も僕が身分を保障するよ」
ルヴィニがピアスを外して、兵に見せる。
最初は怪訝な様子で受け取ったピアスを光に翳したが、はっとした表情の後、ガタガタを震え出し、頬を引きつらせてピアスを返却した。
「し、失礼いたしました」
「うん。お勤めご苦労様」
ルヴィニに向かって、90度の角度で頭を下げた兵たちに軽く会釈をして、門を潜った。
「――結界を」
ルヴィニが小さく呟き、カライスちゃんに声をかけている。
二人との距離を不自然でないように空けて、鞄に手を入れて杖を握り、結界を展開する。
カライスちゃんに気付かれないように、出来る限り私だけを包み込むように結界を展開する。
風に揺らいで、ひらひらと落ちてきた木の葉が、私に触れずに弾かれて地面に落ちた。
前を歩いていたルヴィニが目を細めて笑った。
「漸くつきましたね! 神子様の元へ行きましょう」
「焦らなくても、夕方までに宿に行けばいいよ。ミオは初めてだから、ゆっくり観光しながらでいいんじゃない?」
「あっ、そうですね! 私が案内してあげます」
カライスちゃんが神子様の元へ行こうというのを、ルヴィニは止めた。
ルヴィニの言葉を受けて、張り切って、「そうですね!」と案内する場所を考えている様子を微笑ましく見る。
同時に、唐突なルヴィニの提案を不信に感じる。
振り返って尋ねようとするが、すっと避けるように私を追い抜き、ルヴィニは前を歩くカライスちゃんの方に向かってしまった。
カライスちゃんはお店を案内してくれる。
案内してくれた店の半分くらいに既視感を感じる。
「あっちの大通りで屋台が出てるね。少し買って、お土産にしようか」
ルヴィニの提案で屋台が出ている通りに向かうために裏路地を。
「ごま団子! あれ、買いましょう」
カライスちゃんが笑顔で指を指しながら、私の手を引っ張る。
その一言に、仕草に、ドキッと心臓が跳ねる。
知っている。
このお団子の匂い、この掛け声、このカライスちゃんの笑顔の角度。
「熱いから、気を付けてな」
屋台のおじさんから受け取り、一口食べる。
頭の奥でじりじりとした焦燥感を感じる。
知らないはずのこの味を知っている。
ルヴィニはにっと笑って、「一口ちょうだい」と言って、私のごま団子をぱくりと食べる。
「覚えてたらね」
小声で耳元に囁かれた。
「これ! お土産にしましょう。もっと買ってきます」
カライスちゃんが気に入ったらしく、もう一度、屋台で注文している。
お土産が冷めないうちにと、楽しそうに高級宿へ向かうカライスちゃんの後ろを歩きつつ、不安が募っていく。
「あっ! アイオ~」
「…………からい、す?」
宿の前に立つ、アイオ様に手を振って声をかけたカライスちゃん。
アイオ様はゆっくりと振り返るけど、なにか表情に違和感を覚える。この前の幸せボケしているゆるい顔ではなく、能面。表情がない。
ゲームではキリっとした表情や眉間に皺を寄せ、苦悩している顔はするが、こんな顔は見たことがない。
「アイオ様?」
私が訝し気に名を呼ぶと、ルヴィニが手で私が近付くことを止めた。カライスちゃんはそのままアイオ様に近づき、こちらに向き直るアイオ様。
その拍子に、アイオ様の影になっていて見えなかった少女が見えた。
黒髪に黒い瞳をもつ15,6歳の少女はすごい表情でカライスちゃんを睨んでいる。
どことなく見覚えが有る少女。でも、記憶の中の顔とは一致しない。近づいて確認しようとした瞬間、恨みがましい声が聞こえた。
「ああっ、もう! また失敗しちゃった!」
あれ、この声って……。
声も聞き覚えがあると思った瞬間に、音が無くなり、匂いも感じない。視界がぐにゃりと歪んで、景色が回転をしつつ、暗くなっていく。
あまりの気持ち悪さに目を瞑り、数秒。
頬を撫でる風を感じ、恐る恐る目を開く。
「え?」
私は馬に乗っていた。視線の先には、ショウドウの都。
「もうすぐ着きますよ! ほら、大きな門が見えてきました……ミオさん? どうしました?」
「あ、何でもない、よ」
同じ声。
同じ表情。
奥にはいかつい城壁。
「ミオ?」
私の様子がおかしいことに気付いて、心配そうに馬を近づけてきた。
先ほどとは違う行動。
「何でもない」と返事をしながら、縋るようにルヴィニを見る。
ルヴィニは少し楽しそうに唇を上げて、頷いた。
何かが起きて、時間が戻った? そんなことがあり得るのか?
声には出せず、喉がカラカラになったような錯覚に陥る。今、自分に起きた現象に恐怖を感じる。
全く変わらないカライスちゃんの問いに、上手く返事が出来ないでいると、反応は変わる。
だけど、それは私のアクションを受けて変わっただけで。あちらからのアクションは変わらない。
城門の前には人が並んでいて、検問が行われている。
前後に並んでいる人は先ほどと同じ。全く同じ声色、同じ間の取り方で話しかけている。
「ルヴィニ……」
「気付いたね? 覚えてるなら、説明するよ――街に入ったら」
こんな現象は、ゲームにはない。では、何があればこんなことが起きるのか?
「……そう、だ」
視界が歪む前に見た少女の声。
あれは、ムービーの時に流れる主人公の声だ。
主人公は基本的にはボイスが付かないので、オープニングとか、重要なイベントの時に流れるムービーだけでしか、声はない。
でも、あの声は……ゲームの主人公だ。




