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攻略対象外の推しを救うため、世界を改変することにした  作者: 白露 鶺鴒
第一部 水の神子 暗殺阻止   第一章 風の大陸 出会いと陰謀の幕開け

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23.密談


 夜中に、ふと目が覚めた。

 どうやら、浄化が終わった後、疲れてそのまま眠ってしまったらしい。


 寝返りをうつと、カライスちゃんがすやすやと眠っていた。


 目元は少し赤くなっていて、痛々しい。

 ここ数日で、彼女は目まぐるしい情報量に追い回され、感情が追い付いていなさそうだ。

 ただ、悲壮な顔よりも、泣いて、前を向いているようなので、このまま見守りたいと思う。


「起きたの?」

「ごめん、寝落ちしたみたい」

「色々あったからね。浄化もしたから疲れが出たんじゃないの? 朝までゆっくり寝たらどう?」


 テントから出て、たき火の前に座っているルヴィニの対面に座る。


「話があるんだけど、いい?」

「聞かれても答えられないよ?」

「それは、最初の交互の質問の時でなんとなくわかってるから大丈夫。私の目的をきちんと話しておこうと思って」


 すでに、サフィロスとルヴィニには、神子様の暗殺を阻止したいことは話している。ただ、こちらの事情は伝えていない。


 まだ、水の神子様の暗殺阻止は確定できていない。

 それでも、教団の関わりも証明する証拠も入手できたし、かなり進んだ印象だ。


 そうなると、私が、いつ暗殺阻止が確定して、元の場所に戻るかわからないという問題が気になる。


「急になに?」

「ショウドウで、一緒に行動するかわからないでしょ? だから、ちゃんと伝えておこうと思って」

「連れて行くつもりだったけど? ちゃんと守ってあげるよ」


 にこりと笑うルヴィニには含みもなく、本気で言ってることがわかる。


 カライスちゃんがいるときの悪びれた態度も多く、なんだか久しぶりにルヴィニの素の笑い方を見た気がする。

 しかも、その台詞が甘い。そんなつもりではないのだろうけど、耳に熱がこもってしまった。


 ただ、それはそれで嬉しいのだけど、優先事項は別だ。

 私よりも神子様を守ってもらう必要がある。


「私が神様に与えられたチャンスは3回。ただ、神様はチャンスを与えるだけで、全部、私が決める……口出しはしてくれない」

「ふ~ん。きみが好きに決めてるってこと?」

「そう。まずは、どのタイミングで、何を変えるか。今回が1回目。私は水の神子様の暗殺を阻止することに決めた。この結果が確定したら、私はこの世界から消える」

「は? 何それ?」

「急に消えたら心配するかなと思って。神子様の生存が確定するか、死亡するか……その結果が確定する時。いつになるか、私にもわからない。ルヴィニと別行動してる間に消えることもあり得る」


 私の説明に片方の眉を吊り上げ、じっとこちらを見てくる。

 にこりと笑顔を返すと、大袈裟なため息が返ってきた。


「なんで、今更?」

「前に牢屋で話をしたときも、神子様に伝えたら、私の任務完了する可能性もあるなとは思ってた。あの時は、まだ、絶対に信用できる訳じゃないから伝えなかった」


 今は急にいなくなったら、心配させるだろうなと思う。

 それくらいには互いに信頼関係が出来始めている。


「きみ、何で水の神子だったの? 助ける必要があっても、風側に申し出ることも出来たでしょ?」

「出来たよ」


 ルヴィニの問いに、頷く。別に、暗殺を阻止する方法は水に伝える以外にもあった。でも、それでは意味が無いと思った。


「水の神子様の意思が変わらないと、今回を防いでも同じかなって考えたのが一つ。あと、私自身の願いのため」

「願い?」

「うん。この世界を救いたいって気持ちはある。でも、それだけじゃなくてね。アイオ様に幸せになってもらいたいんだ」

「アイオに?」


 ルヴィニの顔がますます怪訝そうに、こちらを見ている。

 カライスちゃんと共に行動していた幼いアイオ様。楽しそうに過ごしていた。


「私が知る未来には、サフィロスもルヴィニもいなかった。アイオ様がね、必死に希望を繋げようと孤軍奮闘していた」

「あのアイオが?」


 ルヴィニは信じられないという顔をしている。多分、今のアイオ様では考えられないのだろう

 イーハンで見た彼は普通の少年で、カライスちゃんの勢いにたじたじになり、ちょっと困ったように眉を下げてこちらを窺うような気弱さすらあった。

 私も今の彼と、ゲームのアイオ様は別人だと思う。


「彼が築いたはずの彼の功績は全て、他人の物になり……彼の生きた意味すら奪われた。私はそれが悲しかったよ」

「そう? 別に、アイオが好きでやったことで、その後のことは、生き残った者の手に渡るのは仕方ないでしょ?」


 ルヴィニは「だから、どうした?」という顔でこちらを見ている。


 ルヴィニもまた、自分が決めたことに殉じるんだろう。

 神子様の盾となり、自分を恨ませるような言動をして、本心は別にあっても、神子様へ敵意が向くくらいなら自分に向けようとしている。


 そういうところが、何となく似ている。

 アイオ様の行動の源流の一部には、ルヴィニがいるんじゃないかと感じる。

 だから、信じられる。


「そうだね。でも、私は世界を救うための行程で、アイオ様を幸せにすると決めてる。水の神子様に生きていてほしいのも、その方が彼が幸せになると信じてるから。まあ、ルヴィニやサフィロスがいると、アイオ様が神子様と結ばれるのは難しいかなとも思うんだけど」


 なかなか神子様は先輩従者たちから奪うのは困難な道だけど。

 将来はイケメンだ。

 アイオ様が生き延びた神子様と結ばれる未来だってあるかもしれない。


「まって……今、何を考えたの?」


 ルヴィニの声が低い。変なことを言っただろうか。


「え? ルヴィニと神子様、恋人同士かなって」

「……なんで?」


 再び、すごく低い声で問われた。


「だって、ルヴィニの行動からみて、どう見てもただの主君への想いって感じじゃないから。恋人ではなくても、好きな人なんだろ……ひっ」


 ぞくっと背筋が凍るほどの寒気がし、ルヴィニの怒りに呼応するようにたき火が急にぼわっと大きく燃え広がった。

 びくっとして、立ち上がると今までにないくらいに蔑んだ瞳には静かに燃える炎が見えた気がした。


 しかし、荒ぶる炎とは逆に、体温が一気に下がった気がして腕を摩った。


「ない。絶対にないから、今すぐその気色悪い妄想は捨てて」

「えっ、え?」

「恋とか愛とかじゃない。二度とそんなこと口にしないで」

「ご、ごめん」


 ルヴィニが激おこで否定するので、こくこくと首を振りながら謝罪する。

 そういう関係ではないということなら、それでいい。

 「もう二度と口にしません」と言ったら、ルヴィニの瞳に宿っていた怒りの炎が消えた。


 怖かった。ルヴィニがまとう怒りの感情が、首に真剣を突き付けられているような錯覚すら起こして、息が詰まった。


「まあ、きみのとんちきな目標はどうでもいいや。アイオを救いたいとかも、置いておくよ」

「あ、うん」


 アイオ様の話題については、逆鱗に触れそうなので、今後気を付けよう。


「今の目的は、教団に絞りたい。出来れば、風の神殿との関係を暴く。何か方法は?」


 唐突ではないけど、先ほどの話はなかったことにされ、今後の行動に話が切り替わった。


 関係を暴く。一番いい方法は、風の神殿内にいる教団関係者を焙り出すこと。だけど、これは簡単にできる事ではない。

 そもそも、風の神殿の人を私は一切知らない。ゲームで風の大陸に訪れるときには、神殿は敵が出てくるダンジョンだった。


「神殿側の裏切者まではわからない。私の知る範囲では、疑わしい人とかも全く情報はない。ただ、風の神殿の地下から教団へのアジトまで繋がる隠し通路なら知ってる」

「は?」

「この隠し通路を押さえれば、有利になると思うんだけどさ。戦力が必要でしょ?」


 流石に、風王や風の神子の許可も無く、神殿を武力で押さえるわけにはいかない。そもそも、そんな戦力は水側にはないと予測している。


「浄化、封印、聖獣召喚に続く、私の能力。『地図』を見せるね」

「いや、待って。何? 地図って」

「便利だよ。何が起きているかを把握するには役に立つ。今までも魔獣の場所とか穢れが発生した場所を当ててたでしょ?」


 今更ではあるけど、ルヴィニに隠すよりも教えておいた方が、今後の動き方に幅が持てる。

 ゲームでの知識は、実際の世界での差異が生じることもある。


 今後の動き次第では、ルヴィニの判断も考慮して、動く方が効率的だ。

 ルヴィニも若干呆れた顔をしたけど、私の意図がわかったのか頷いてくれた。


 杖を片手に、風の大陸の地図を表示する。


「今、風の大陸内での穢れの発生場所と魔獣の出現……今は、魔獣は出現してないけどね」


 詳細に浮かび上がる地図には、穢れが発生してしまっている場所が表示されている。ただ、この程度の穢れは自然に消えることもあるのでわざわざ浄化に行くほどではない。


 ルヴィニはじっと地図を見つめてから、私に視線を戻した。


「とりあえず、全体ではなく、ショウドウに移動して……」


 ショウドウの町を指でぽちりと触り、さらに、風の神殿を指定する。


「これが1階の地図」

「うん、そうだね。僕の知っている間取りと同じだね」

「それで、これが地下で、ここの書庫に隠し階段があって……」


 神殿の地下、人通りが少なめの書庫の奥。

 そこに隠された階段があり、地下の洞窟へつながり、その先には教団のアジトがある。


「へぇ……5年後の知識だよね? 本当に一致してるの?」

「逆に、5年でこの通路が出来ると思う? すでに原型はあるはずだよ」


 そもそも、ゲーム内では風の神殿が魔物がでるダンジョンとなり、教団の信者や魔獣が襲ってくるようになる。

 その背景イラストは古びた感じで描かれていたから、すでに存在していると確信している。


 真剣な表情で地図を見つめるルヴィニ。ごとっと、たき火の木が崩れた音で、地図から目を放して、私と視線を合わせた。


「これ、借りることは?」

「それも考えて、伝えたんだよ。ただ、持つ人の知識で反映されるから、他の人がもっても、この地図は同じにならない可能性はある。確認してみる?」


 杖をルヴィニに渡すと画面が変わる。

 う~ん。ルヴィニの把握している地図は結構曖昧で形もいびつにも見える。


 それでも、先ほどの説明した風の神殿内の地図は一応確認できるから、使えないわけではない。


「なるほどね。風の神殿内部の不正を掴むため、借りることがあるかもしれない」

「うん。流石に、足手纏いになるから。その時は留守番するからどうぞ」


 ルヴィニの戦闘力を見ると、私は邪魔にしかならない。それに、ルヴィニに貸して、奪える人いるとは思わない。


「ミオ」

「何?」

「僕以外に、この杖を貸したら駄目だよ?」

「しないよ。それに奪われても、私が念じればすぐに手元に戻ってくるから」


 戻ってこいと心の中で念じると、ルヴィニが持っていた杖が私の手元に戻る。


「へぇ、便利だね」

「ルヴィニだから貸すんだよ。お互いの目的はちょっと違うけど、大筋は外れてないし、信用しているからね」

「いいの? 裏切るかもよ?」

「水の神子様のためにでしょ? 裏切っても、私の目的は達成されるよ」


 無意味に裏切ることはない。

 徹底して、水の神子様のために動いてるルヴィニなら、何をしているかを理解できなくても信じて任せる。


「そう。なら、風王が動かないようなら、借りるよ」

「大丈夫?」

「多少の荒事は、君も想定しているでしょう?」


 唇を上げて、楽しそうに笑うルヴィニは最初から荒事をするつもりに見えるんだけど……気のせいであって欲しい。



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