22.呪詛の種
「あったの?」
「うん、確認してもらって、問題なければ浄化しようと思って」
ルヴィニに返事をして、その場へ二人を案内する。
「あのっ……ちょっと、これ以上は」
10メートルくらい手前で、カライスちゃんが首を振って、止まった。
「えっと、やっぱり浄化しちゃおうか?」
「いや、カライスはそこで待機。僕が見てから判断するよ」
「はい……すみません」
カライスちゃんが顔色が悪い。
この距離でも感じるほどに禍々しい気配があるということか。
「ルヴィニ」
「カライスは神官見習いだからね。君の言う穢れには弱いんだよ。あの距離からでも感じたんでしょ」
「そっか……取り出してもいい?」
「そうだね」
ルヴィニの許可を取って、穴から取り出す。直接触るのは良くなさそうだから、
ハンカチで取り出して、ルヴィニに見せる。
「へぇ。昔、見たことあるね?」
「えっ、これを?」
「水の大陸でね。幼かったから、はっきりした記憶ではないけど。大陸中で見つかったと水王が話していたね……ただ、穢れだけではなかったけど」
目を細めて過去を思い出すように語っている。
水の大陸中に穢れが広がっている中で、見付かったという。
「確定……か」
ルヴィニの話を信じるなら、水の大陸が滅んだ時も教団は暗躍していた。
対処が遅れれば、滅びるのは風の大陸も同じだ。
今はまだ、怪しいのはここだけでも――教団の動きを放置していれば、悪化していく。
「ミオ。これは、なに?」
「教団が土地を穢すために用いる、呪詛の種。魔力の動きを阻害し、神子様が龍脈を通して、大陸に魔力を流し込むことが難しくする代物」
「それだけ? 違うよね?」
私のハンカチごと、ルヴィニが割れている呪詛の種を奪い、透かすように見ながら怪しく微笑む。
「私にも、見せてください」
「カライスちゃん、顔色悪いよ」
真っ青な顔で、向こうで待機していたカライスちゃんもルヴィニの様子に近づいてきた。
少しよろよろしているのは、穢れにあてられているようだ。
「大丈夫です……お姉ちゃんが死んだ原因を、知っておきたいから」
ルヴィニがカライスちゃんに見えるように呪詛の種を掲げた。
「これ、割れてるよね? 割った瞬間なら、魔法が使えなくなるんじゃない?」
何それ? そんな効果があるのは知らない。
いや、でも、ゲーム上で、これを飲み込んだ中ボスとの戦い。
開始5ターンは魔法使えなくなる特殊戦闘だ。
ルヴィニの言う内容と一致している。
「確かに。そんな描写もあった」
見つけて除去するのが基本。
壊して別の効果を発揮するような描写はなかったけど、一時的に魔法が使えないという状態には成り得る。
ルヴィニがじっと見つめてくるので、頷く。
ゲーム上では確認できなかったけど、可能性はある。
「これの出どころは?」
「教団。本当かわからないけど、邪龍の鱗に呪いを込められた代物」
「はぁ……守れないなんて、情けない奴らだと思ってたのにね」
ルヴィニは悔しそうに呟いた。
これが危険なものであり、何も知らないなら対処出来なかったことも、ルヴィニは理解しているらしい。
「他にわかってることは?」
「ルヴィニ。ちょっと、貸してくれる?」
ルヴィニから呪詛の種を受け取る。
私の知っている効果か……。
「カライスちゃん、これに水魔法で攻撃してくれる?」
「はいっ」
私が持っている呪詛の種にカライスちゃんが放つ水の矢が突き刺さる瞬間、種の表面に文様が浮かび、水魔法を吸収した。
「吸収、した? どうして、私の攻撃」
「魔力の段階が中級でも高い方じゃないと吸収してしまう。それに、文様が浮かんだの見た?」
「確認したよ。教団のシンボルかな。割れているから完全な形でないから、絶対ではないけど」
吸収する一瞬しか浮かばない設定だけど、ルヴィニはしっかりと確認してくれたらしい。
カライスちゃんは首を振っているので、確認できなかったようだ。
中途半端な攻撃を吸収し、より広範囲に魔力阻害……さらに穢れを広げるという悪循環。
ゲームでは、壊せるようになるまで、先に進めない障壁でもあったけど、かなり厄介な代物である。
ただ、カライスちゃんもその意味は理解できたらしい。
中級魔力の持ち主は、そんなにいない。
「……お姉ちゃんが壊した? これのせいで、お姉ちゃん達が……」
阻害というのは、使いにくいだけで、魔法が全く使えないということじゃない。
ただ、扱いにくいということは間違いない。
だから、破壊し――魔法が一切使えなくなり、全滅した。
「だって……壊せたのは、お姉ちゃん? だって……」
「悪いのは教団だよ。これの効果を知らなかったんだから」
がたがたと震え出したカライスちゃんを抱きしめる。
襲撃を受け、強力な魔法が使える神官と護衛が全滅した理由。
魔力の通りが悪く、その理由が呪詛の種だと判断し、破壊を試みた。
しかし、それは罠。
壊したことで、一時的にでも本来使えるはずの魔法が使えなくなる。
それだけでも、混乱する。犠牲者がでればさらに混乱し、統制もとれず、皆が死んでいった。
死体を打ち捨ててでも、逃げ出した。
それでも、案内役にいたはずの風側の人間は生き延び、水側だけが死んだのは不自然ではある。
「カライス、皆の安全のための行動で、誰も罠だと判断できなかった。気にしても無駄だよ」
「うっ……ううううっ……」
ルヴィニの言葉にカライスちゃんが私にしがみついて、本格的に泣き出してしまった。
真相を少しでも知れば、気持ちが落ち着くかもと考えていたけど、まだ、受け止めるには早かったのかもしれない。
私も、ここまでのことは予想していなかった。辛い現実が再び、彼女に襲い掛かる。
カライスちゃんが落ち着き、呪詛の種を浄化して、影響が出ないようにする。
しまおうとするとひょいっとルヴィニが呪詛の種を奪った。
「これ、もらうよ」
ルヴィニが怪しく微笑む。怒りだけではなく、必ず復讐するという意思。ルヴィニの瞳には、相手を許さないという意思が感じ取れた。
「そのまま持ち続けるのは、危ないと思うよ? カライスちゃんの体にも辛いし」
「浄化したんだし、そこまでひどい邪気を放ってないでしょ。布で巻いて、厳重に封をするよ」
ハンカチで包んだ後、さらに風呂敷のような布で厳重に縛っている。
「証拠にするのはわかるけど……」
「ここからショウドウまでまだ二日あるし、大丈夫でしょ。じゃあ、あとはこの地を浄化したら、ショウドウに向かおうか」
「ちょっと、時間かかるよ」
今、呪詛の種を浄化したのに、次はこの土地となると、結構大変なんだけど。
事も無げに言われ、反論するがきにしていないらしい。
ルヴィニは「ちょっと周囲を調べてくる」と言って、いなくなってしまった。
「カライスちゃん、体調は?」
「大丈夫……」
「無理はしないでね?」
泣き病んだカライスちゃんに水を渡して、座らせる。まだ顔色が悪いけど、ルヴィニが離れたことで、邪気を感じなくなったのか、少し顔色が良くなってきた。
「ゆっくり座っててね」
「本当に大丈夫なんですか?」
「うん、任せて」
聖杖を取り出して、魔力をゆっくりと注いでいく。
「浄化」
ゆっくりと魔力が展開されていくのがわかる。
前に土地を浄化していたときよりも、ひどい状態だけど、私自身は負担が少ない気がする。少しずつでも成長しているらしい。
そう感じていた瞬間、呪詛の種の気配が浄化の範囲から一気に東へと向かって消えていった。
「え? なんで?」
「どうしました?」
つい、声に出してしまった私を怪訝そうにカライスちゃんが見てくる。だが、それに答える前にルヴィニがいつもの笑みを浮かべて現れた。
視線を合わせるとカライスちゃんに見えないように、唇に指を当ててにこりと笑う。――言うな、とゆっくりと唇だけが動いた。
こくりと頷きを返すとルヴィニから笑顔が返ってきたのに、圧が強い。二人で話せる機会があったら確認しようと、「何でもない」と誤魔化して浄化を続けた。




