21.穢れた地
3日後。
目的の風の大陸の中で一番穢れが酷い場所。
カライスちゃんのお姉さんが亡くなったと思われる場所に到着した。
ここまで、結構辛かった。
一人で馬に乗れるようになったし、高速ではないけど、右でも左でも、水球や火球を作って、ゆっくりだけど回転も出来るようになってきた。
ルヴィニもカライスちゃんも、なかなかにスパルタな二人で寝る間も惜しんで、魔力の扱い方を身に付けた。
いや、まだ、それでも戦力外ではあるのだけどね。
「なんか、すごく空気が悪い感じがするんですけど?」
「うん。穢れが進んでる状態だからね。その理由を探ろう」
穢れのレベルは高い。ここまで高いと魔獣が発生してもおかしくはない。
こういう場所が大陸中で溢れ始めると崩壊の予兆になる。
今はまだここ一か所ではあるけど――2か月以上、この状態であるならまずい。
「まあ、ここが襲撃現場であることは間違いなさそうだよ?」
「ルヴィニ?」
「……回収しきれなかったらしい死体がいくつもある。うちの者だね」
「ひっ……」
ルヴィニの視線の先には、ルヴィニが身に付けている服装を簡素にした服装……服はボロボロになっていて、人の骨に肉……顔だった場所は潰されている。
他にも、肉の部分は獣に食べられたのか、骨や布が周囲に何人かの死体が放置されている。
「ごめっ……ちょっと、はずす」
「カライス、ミオについていて」
「あ、はいっ」
その場から離れて、膝をつく。
口元を抑えて、口の中に広がる酸っぱい液体、目元からも水分が流れてくる。
「……あの、吐いた方が楽と思うから」
カライスちゃんの顔色も悪い。
でも、カライスちゃんに気遣うよりも、まず、私は耐えきれずに吐いてしまう。
初めて見た腐乱死体。匂いも酷かった。
あんな状態で、誰も来ないような場所にうち捨てられているとは思わなかった。
「ごめんね……」
「ううん。私も……みんなが死んだって、お姉ちゃん以外にも死んだって……死体を持ち帰れたの数人だって…………聞いてたのに、信じなかったから」
振るえるカライスちゃんを抱きしめ、頭を撫でる。
私だって辛いのに、幼い上に、知り合い出会った人。
カライスちゃんにはつらすぎるだろう。
「場所も正確に教えてくれないから、葬れないって言ったよね?」
「ルヴィニ……私にできることある?」
カライスちゃんを慰めていると、ルヴィニも戻ってきた。
普段は微笑んでいる様子を見せるルヴィニだけど、今は眉間に皺が寄っている。
「焼いて、埋葬するから。火だねを出してくれる?」
「うん」
ルヴィニの声はいつもよりも低い。感情を押し込めているように見える。
私はあの場に戻るのは足がすくんでしまう。
それがわかったのか、「燃やしてくるから、此処にいて」と言うルヴィニの後を追えなかった。
カライスちゃんは少し悩んだ後、ルヴィニを追った。
大事な仲間を弔うためだろう。
それでも、足ががくがくして、あの匂いを思い出すだけで吐いてしまう。
胃の中の物を全て吐いたあと、少し落ち着いてくる。
ルヴィニ達は戻ってこない。
まだ、時間がかかるだろう。
私が出来ることは何か。
「穢れは……放置された死体のせい? それもあるけどわざと放置しているよね」
水側が知れば、きちんと埋葬をしようとするだろう。
それなのに教えなかった。
明らかに悪意がある。
「……教団が関与して、ここで襲撃を受けたとしたら、アレがあるはず」
立ち上がって、杖を構える。
杖に魔力を通し、結界を展開し、その結界を薄く、広く範囲を拡大していく。
特訓の成果がでて、前よりも魔力への感覚が感じ取れる。
「きっと、あるはず……」
結界を広げれば、強度は下がっていく。
ただ、敵に対してではないので、強度はいらない。
結界の中にある異物の場所を探すだけだ。
結界を広げながら、集中して違和感がないかをじっくりと時間をかけて探る。
「……あった!」
しばらくすると、予想通り、結界をはじくような感触にあたった。
方角を確認し、結界を展開したまま、ルヴィニ達のいる場所よりもさらに奥にあるモノを取りに行く。
「どうしたの?」
ルヴィニが怪訝そうな顔をしている。
おそらく、私の結界に気付いて、訝しんでる。
表情は笑ってるけど、声がいつもより低い。
「穢れの原因、見つけて除去してくる」
「原因?」
「場所はだいたい把握できた。掘り起こすのに時間かかるから、出来たら呼ぶよ。その……亡くなった方たちと最後の時間を過ごしてて」
「……わかった。ちゃんと呼びなよ?」
ルヴィニ達と別れて100メートルくらい歩いた先。
周囲の草が枯れ、土が変色した場所の中心。そこを掘っていく。
スコップとかがあればいいのだけど、そんなものはない。素手で掘るのは大変なので、細めの薪を使って、土を掘っていく。
おおよその目安はあっても、なかなか、掘るのには時間がかかり、気付いたら数時間経っていた。
「……あったぁ…………」
地中30センチくらい掘ったところで、5センチくらいの鱗のような欠片が姿を現した。
間違いない、『呪詛の種』。教団が産み出した土地を穢してしまう重要アイテム。
縦に二つに割れていて、完全な状態ではないけれど。
それでも異様なほどの圧迫感を感じ、思わず体が震える。
「禍々しい……すぐに浄化、してしまった方がいい気もするけど」
割れた状態でも、十分、この地を穢し続けるだけの効力が発揮されている。
私だけで処分してしまうと、ルヴィニ達に正しく危険が伝わらない。
「とりあえず、ルヴィニ達を呼んでこよう」
二人を呼びに行くと、遺体を焼き終え、一部のお骨を袋に仕舞っているところだった。
カライスちゃんが一つ一つに静かに祈りを捧げている。
二人の作業が終わるのを待って、声をかけた。




