14枚目・トランプコンタクトの名付け【後編】③
読みやすさのため、内容を分割して調整しました。
文章の一部を変更しましたが、物語の内容には変更はありません。
作者:服を着た猫
「何2人だけで通じ合ってんだ。ちゃんと説明しろ」
「ん?あぁ・・・小学1年の頃にさ、小川ってニックネームを付けようとしたヤツにブチ切れてさ、ボコボコに殴り倒しちゃって先生や親から怒られたんだよ」
「私も同じ、小川って半笑いで言ってきた男の子、ボコボコにしちゃって先生や親にこっぴどく怒られた」
「はぁー???
ニックネームで小川って言われたくらいで相手をボコボコって、何がそんなに気に入らなかったんだ?
そもそも小川ってどこから来たんだよ?」
博士の疑問に対して、イズミたちは渋い顔になる。その顔には明らかに「言いたくない」と書かれていた。
それを察したようで、大樹がイズミたちの代わりに理由を話し出した。
「僕たち苗字が春野でしょ?それが理由だよ。
ほら童謡で春の小川って名前の歌あるでしょ?兄ちゃんたち名前が水に由来してるから余計に敏感になってて、春野の小川~♪って歌いながら名前を小川にわざと変えて半笑いで言われたからブチギレたんだって」
「・・・それ以来ニックネーム付けようとするヤツはいなくなったって訳か」
「そういうこと」
「いや、そんなことでブチギレって・・・お前ら怒りの沸点低すぎだろ!何度で沸くんだよ・・・」
博士は驚きを通り越して呆れ顔になりながら言った。
「まぁいいけどさ。
ニックネームがないとしたら、別の呼び方を考えるしかないかぁ?せめて女イズミに別の呼び方を付けた方が呼びやすいんだが・・・」
その言葉を聞いた、大樹が思いついたように声を出した。
「あ!偽名は!?あの偽名をお姉ちゃんの名前として読んでもらえばいいんじゃない」
「偽名?」
「うん、高校に通うのに偽名を使った方が良いってことで、お爺様が付けたんだよ」
「お爺様って・・・ああ、水輝の血を引いてるって言ってたな。つまり水輝家の爺さんか・・・で、どんな名前なんだ?」
そう言って博士は泉美に話を振った。
「ケイ・・・蛍と書いて蛍、水輝 蛍って名乗るように言われた」
「蛍ね。
いいじゃねぇか、ならこれからはお前さんのことは蛍と呼ぶことにしよう」
泉美の呼び名が決定したところで、博士は満足そうに背もたれに腰を預け、タバコを手にした。
「確か話の途中だったな。何の話だったか?」
「えっとお姉ちゃんと兄ちゃんが出会った奇跡がとか?」
大樹の言葉を聞き「ああ、そうだったな」と言うと、博士はタバコを銜え、火をつけた。
「2人のイズミが出会った奇跡なんて長ったらしいからな、名前を付けようとしてたんだった。名前がないんじゃ呼びづらくてたまらんからな」
そう言って博士はタバコをふかしながら、ぶつぶつと独り言を始めた。
「異世界接触・・・ないな。異界同一人物接触・・・余計にないな。
うーん・・・無理やり日本語にする必要はないか。となると・・・アイデンティクルコンタクト・・・長いうえに分かりにくいな」
唸りながら考え込む博士を見て、大樹が声をかけた。
「ねぇ、ドッペルゲンガーコンタクトとかどうかな?
2人ともお互いにドッペルゲンガーみたいな存在だって、話で盛り上がったって聞いたんだ」
「ドッペルゲンガー・・・ドッペルゲンガーコンタクトねぇ~・・・悪くはないが、もう一捻り欲しいな」
そう言って博士はおもむろに立ち上がると、本棚にヒントを探しているのか人差し指を本棚に向けながら適当に見始めた。
そうして見始めて数秒、その指がピタリと止まった。
そこには暇つぶしに使ったのだろう、トランプカードの箱が無造作に詰め込まれていた。
「トランプか・・・」
博士は本棚からトランプを取り出すと、トランプを箱から出し両手で広げてカードを選び始めた。
やがて1枚のカードを選び出すと、テーブルの上に放り投げた。
「泉水と蛍、お前らの関係はこのトランプの柄のようなもんだ」
そう言って椅子に座りながら、博士はトランプを軽く指で叩いた。
そのトランプはハートのクイーン。
「このトランプが俺たちの関係?どういうことだ?」
博士の言葉に、泉水は疑問を口にせざるを得なかった。
もちろん他の3人も黙っていたが、同じ疑問を抱いているのは明らかだった。
そんな態度の彼らに博士はトランプを拾い上げ、トランプの柄を指さしながら説明を始めた。
「泉水と蛍は違う人格で、違う体を持っているが、ある要素は同じものを持っている、同じ人間だ。
違う人間だがある一点の要素において2人は同一化している、まさに世界を違えた同一人物」
「世界を違えた・・・」
「同一人物・・・」
泉水と泉美はお互いに相手を見ながら、つぶやくように言った。
「その関係性はまさに、2つの体が真ん中でくっついているこのトランプの柄そのもの。
お前らの関係を視覚的に説明する材料としてこのトランプの柄以上にピッタリなものはない。
以上のことから、オレは同じ要素を持つ2人の人間が世界を越えて出会うこの事象を
【トランプコンタクト】
と名付けようと思う」
「「トランプコンタクト」」
博士の言葉を同時に泉水と泉美は、つぶやくようにその言葉を発していた。
初めて聞く言葉なのに、これ以上自分たちを表す名称はないとイズミたちは感じていた。




