表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/49

6.イノマンはお人形

 イノマンは高速宇宙艇のコクピットで外部環境モニターを食い入るようにして見ている。

 地球から月へ向かおうとしてる高速宇宙艇には星乃進之介と猪野万太郎から名前を変えたイノマンの二人だけがコクピットに乗っていた。

「スイングバイ加速終了、地球周回軌道より離脱します。ルナ・ターミナル到着予定は今より8時間後地球標準時間1864年7月10日08時です」

 高速宇宙艇AIがスピーカー越しに喋ってくる。

 イノマンが進之介から半分無理矢理に聞き出した未来見の内容は衝撃的なものだったけど別に昂ったりせず静かな時間だけが流れていた。

 第3者による突然の発言でその静寂は破られるのだけどイノマンは不思議に思う。

「今の声はあなたの腹話術ですか」

「いいえ、私は腹話術を使えません。今のはこの宇宙艇を操ってるAIが喋ったのです」

英愛えいあいという人物が何処かに乗っているのですね、気配を全く感じさせないとは…たいそう名のある忍の方なんですね」

 イノマンが辺りを窺うようにしながら聞く。

「あ~、何だその…イノマンが幽体を飛ばした時のからくり人形と似た様なものだよ」

 進之介が面倒臭そうに説明した。

「それはあまりにも酷い言い様です。私はこの高速宇宙艇のAI、人工的に作り出された知能ですけど皆さんとの会話を重ねる毎に学習して成長してるのです。あのからくり人形はイノマンさんの幽体を宿らせることで喋る傀儡くぐつです。一緒にしないで下さい」

「つまりは頭脳だと言うことですね、心もあるように見受けられましたので誰かが隠れているのだと思いました。とても素晴らしいからくりなのですね」

「からくりではないのですが…あまりイノマンさんとこの会話を続けるとAIが自分と人の境界線に疑問を抱き始めて悪い影響を与えそうなので止めにしませんか、これから色々と教えて差し上げますよ」

 進之介がこの会話を終わらせようとする。

「そうですかそれなら仕方ない、中途半端にするのは我慢できないのですけど妥協しましょう」

 ルナ・ターミナルまでの8時間イノマンは宇宙の誕生から宇宙人の存在と地球それから東域宇宙和平維持連盟の成り立ちそれと地球人についてAIから初期教育を受けた。

 その間、進之介は生身の体を休ませるために操縦席をリクライニングさせて高いびきをかいて寝ている。

 AIの説明が一段落したところでイノマンが聞く。

「星乃進之介さんは地上での名前を変えずにそのまま使っているのですか」

「その通りです。でも星乃の苗字は任務のために与えられたもので本名は別にあります」

 AIが答える。

「先程の話の中では死んだ人の名前をそのまま使えないと言っていたでしょう。だから私はイノマンとしたのに進之介さんはどの様な特権をお持ちなんでしょうか」

「特権は色々持っていますけど名前に関しては違います」

「良く分からないなぁ、理由を聞かせて頂けますか」

「既に説明しています通り、死者の魂と幽体を東域宇宙和平維持連盟地球防衛基地で用意した体に移して生者として新しく生活を始める時には新しい名前が必要です」

「なるほど…進之介さんは死者ではないと言われるのですね」

「その通りです。キャプテンは生身の体を持ったまま宇宙へ出て来られました。」

「それと、その寿限無みたいに長い名称はなんとかならないのですか」

「正式名称が長くて言いづらいのであれば、他の皆さんの中で『基地』とだけ言われている方が居ますのでそれに倣われると宜しいでしょう」

「では私もそう呼ばせてもらいます。それにしても生きている内に来たかったです」

「生身の人間では寿命が短いですし、気を付けないと病気もします。それに対して新たに用意されている人工体は何年経っても見た目が変わらないまま知識だけ増えていくので大変便利です」

「老化による衰えが無いのですか」

「経年劣化はありますけど表面に現れないので分かりにくいです。一般的な寿命は100年です」

 あと、寿命が近づいたら乗り換えることが出来る場合があるのだけど、まだ聞かれていないことでもあるしAIはそこまで親切に教えてはくれないのだった。

「それは大変良いものですね。私もその体を貰えるのですか、このままずぅーっと九太郎の中というのは嫌ですよ」

「基地に行けば貰えます。煩雑な手続きとかあります。内容を今聞かれますか」

「なんか今聞いても憂鬱になりそうですから事前に聞かないほうがいいのではないでしょうか、それより進之介さんが起きたら基地まで連れて行ってくれるのですね」

(今の目的地は月だとか言っていたな、基地がそこにあるのだろうか)

「そろそろキャプテンを起こしますので、その件とか他に分からないことは直接聞いて下さい」

 星乃進之介が操縦する高速宇宙艇は何事もなく無事にルナ・ターミナル上空に着いた。

 そこは過密状態に陥っている様に見える。

 一番先に目に入るのは外惑星系からやって来た外板を煌びやかに飾り立てている大型観光宇宙船で、観光客をはしけ宇宙船に乗せルナ・ターミナル宇宙港へ送ったあと、その帰りを月の軌道上で待つ姿。

 次が宇宙連盟艦隊で綺麗に隊列を組んで静かに佇んでいる物々しさにはどうしても目が行ってしまう。

 それらは大型戦艦1隻、中型戦艦2隻、小型戦闘機搭載艦2隻、高速小型艦4隻で1艦隊を編成しているのだけどそれが3艦隊、今は宇宙港上空に集結しているみたい。

 3艦隊中の1艦隊は休暇に入っていて隊員達はルナ・ターミナルに降りてバカンスを楽しんでいる。

 次の1艦隊が観光地上空監視を行っていて、たまにルナ・ターミナルを追い出される犯罪者が出てきたりするのをひたすら待つ。

 残りの1艦隊は常駐というのではなくて『基地』からルナ・ターミナルまでの宇宙航路巡回警備航行を行っている艦隊が到着したら入れ代わるようにして出て行く。

 丁度その入れ代わりルーティーンに出くわしたみたいでイノマン達が乗っている高速宇宙艇はその中へと進もうとしてる。

「まるで牡牛にたかる小蝿のようですね」

 外部環境モニターを見ながらイノマンがこぼす。

 それは人や物資を乗せている小型艇が大型艦を出入りするためにその周囲をうようよしているからだった。

「小蝿と言うのはあまりにも失礼な発言です」

 AIが愚痴ってくる。

 自分もその中に含まれると判断したからだ。

「しかし今日は本当に多いな、凄く大変なんだけど、やっぱり操縦を代わってもらえないだろうか」

 コクピットの操縦席、イノマンの横で操縦桿を握りしめディスプレイに目を釘付けにしながら星乃進之介が泣き言みたいに言う。

 目的地まであと30分地点でAIに起こされて本来あるべき姿に戻っていた。

 宇宙艇運用規則に『キャプテンが操縦を行いAIはその補助をする』と言うものがある。

 違反者はAI共々厳しい罰則を受けなければいけない。

「駄目ですよ、監視の目がある場所では正規の手順を踏むと約束してます。私がギリギリ最大限の補助をしますので頑張って下さい」

「頑張ってるよ~、でも迷子になりそう」

「真っ直ぐ宇宙港に着陸するだけでしょう。迷子なんかになる訳ありません」

「イカサマはバレなければいいのではないですか」

 あまり理解してないイノマンが口を挟む。

「こういう時こそ操縦してもらわないと次回の免許更新で落ちてしまいます」

「免許皆伝したら一生そのまま使えるってものではないのですね、大変だな」

 他人事ひとごとみたいに言う。

「分かってる、頑張ろう…」

 星乃進之介は宇宙港管制官とのやり取りを始めた。

 本人の同意を得る事なく宇宙へ召喚された猪野万太郎ことイノマンはルナ・ターミナルが治外法権を持つ観光地なのを知らされないまま宇宙港で出航待ちしていた惑星間小型宇宙船に乗ることになった。

 いくつかの理由が重なった結果なのだけど、それはさておきイノマンは東域和平維持連盟地球防衛基地、短縮呼びで『基地』があるアステロイドべルトへ向かっている。

 からくり人形の九太郎に閉じ込められている今の状態では当然なのだけど自分の意思では全く動くことができない。

 この状況では何処へ行くにしても他人の助けが必要になるわけで今のところ星乃進之介からバトンタッチされた女性の腕の中に居る。

 女性の名を星乃ミカと言った。

 聞いた話では地球で日本人の子供を探索して招き寄せる役割を星乃進之介が行う。

 その後は別の人が『基地』まで送り届ける役割分担になってるのだけど、その責任者を明確にしなくてはいけない場合に星乃の名前で引き継いでいくのだと言ってた。

 普通に魂と幽体を納めた保管箱はルナ・ターミナル上空で待機している輸送艦に乗せられ1年に1回、定期便として『基地』へと向かう。

 この艦長は世界中から集められる保管箱を管理するのだから星乃の名前は使わない。

 猪野万太郎は特殊な形で招かれたので星乃ミカがマンツーマンで対応してる。

(そうは言っても凄く若くないか、進之介さんは自分が最年少で二十歳だと言っていたけどこの人はもっと若く見える)

「あなた喋れるのでしょう?そう聞いてるわ」

 イノマンが動くことができない体の中で思考だけ巡らせていると星乃ミカが言ってくる。

「確かにその通りだけどあなたはお幾つなのですか」

 思わず聞いてしまう。

(しまった!)

 そう思った時は既に遅く言葉に棘が付いてきた。

「あら、女性の年齢は聞くものではないと教わらなかったみたいですね、これからの教育でしっかり学ぶと良いです」

「申し訳ないです。(見た目が…とは言ってはいけないよな、あぶないあぶない)とてもお若くて綺麗でお可愛いのに重要な任務を与えられている様でしたから本当は熟練のお方かと思いましたのです」

「まあそうね、じゅう何年…いいえコホン、長く勤めているのには間違いないですけどあなたには関係ないことです」

 ミカはそう言いながら九太郎の頬をつねる。

「思っていた以上に硬いわ」

 今度は軽く叩いた。

 コンコンココン

「いい音がするのね」

「人?のほっぺたで遊ばないで下さい」

「まあこれでおあいこにしましょう」

「はあ~、何でそうなるのですか、でもまあいいでしょう」

 これから『基地』へ到着するまでの間は少なからずお世話になる訳なのだから…でもまだそれは言うまい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ