47.潜入1
冥王星の地下にあるイノマン研究所では大型スクリーンに映し出されてる輸送艦キャメロットの動向をクローン兄妹3人が固唾を飲んで見守っている。
「無事にカプセルが回収されて良かった」
ペニーがホッとした表情で言う。
「後は解凍のタイミングを早くしてもらうように次なる手を打たないといけませんね」
ポンドは事がスムーズに急ぎ足で進む方法を考える。
「そのために解凍ボタンを目立たせて嫌でも押させるように工夫を凝らしたじゃない」
「そうだな既に降下を始めているところを見ると地上で覚醒させるつもりなのだろう」
「まあそうですね、目覚めるのが上空でなくて良かったです下でだったら介入も可能になりますから」
「それにしてもあのでかい図体で地表の氷層が割れないか心配だわ」
「まさか全重量を掛けたりはしないだろうよ」
ドールがペニーの肩をポンと片手で叩きそのまま少し浮かせる。
「安心したかな」
「そうね地上生活が長いので迂闊だったわ」
着陸と言っても実際には人や資材を出し入れし易いように地表すれすれに浮いているだけ。
反重力を利用したものだった。
「先の小型艇にも垂直離着陸装置を搭載しておくべきだったんだ。そうすればあの事故は起きなかったと思うぞ」
輸送艦キャメロットが地表で安定するのを見てドールが言う。
「小型艇で惑星なんかへの着陸は想定してなかったのでしょう、それより石井光一と十太郎兄さんが入ったクローンが目覚めたのか心配です」
ポンドが祈るような素振りをする。
「もう地上調査が始まろうとしてる、ということは叩き起こしてでも道案内をさせるつもりでいると思うぞ」
「十太郎兄さんが居なくなってからドール兄さんって言葉遣いがイノマンみたいになってきてるんじゃない、意識してるの?」
ペニーが薄目を開けて横睨む。
「態度とか雰囲気まで変わっていると思わないですか」
ポンドがペニーに話を合わせてきた。
「そんなことはどうでもいいだろうそれより準備は出来てるな」
「いつでもOK」
ポンドがドールの顔色を窺いながら返事する。
「では後は調査隊が出てくるのを待つだけだ」
(ドール本人はあまり自覚してないみたいなんだよなぁー、イノマンの自我ってのが自動で現れてきてるとしか思えないな)
地表すれすれに浮いている輸送艦キャメロットではコールドスリープから目覚めさせた石井光一を名乗る人物への聞き取りが始まろうとしていた。
「お目覚め早々大変なことだとは承知の上だけど幾つか質問に答えてもらわないといけない」
ベンガル隊長は目覚めさせたばかりのコールドスリーパーに容赦なく質問を浴びせる。
(考える時間をあまり与えない方がいいだろうな)
相手の意識がもうろうとしている時こそ真実を知り得ることができると信じていた。
「今は何時でここは何処で私はどうして生きてるのでしょうか、それともここは黄泉の世界で私は生前の罪を問われてるのでしょうか」
目覚めたばかりのコールドスリーパーがボーッとした表情で話し出す。
「まあここは冥王の星には違いないけど質問はこちらが先だ、まず名前だけど石井光一となっている。認識プレートと識別コードは石井光一のものだ。それで間違いないかな」
事情徴収はカプセルを回収したキャメロットの小型艇溜まりを区画した場所でそのまま行っていた。
「間違いありません」
質問者をベンガル隊長1人だけにすることによって相手を安心させるようにしてる。
その他の隊員達は扉の外側で聞き耳を立てて待機してた。
トラブルが発生した時は直ぐに飛び込める体制を取っている。
「しかしだ、君は石井光一ではないのだよ、わかるか」
「分かりません私は石井光一です」
2人が会話をしてる意識の直ぐ下で十太郎は話の方向性をコントロールしていた。
でもそれは石井光一本人にさえ気付かれてはいない。
「そこまで言い張るのならこれを見たまえ」
目覚めたばかりのコールドスリーパーはまだカプセルの中に居た。
だから半身を起こして言われたものに目を向ける。
「若い二十歳前の男性ですね、まさかこれが私とか言うのですか」
最初から置かれていたと思われる姿見に手を振ってから言う。
素っ裸であるということについては何も言わない。
「そのとおりだ、私たちが知ってる石井光一君は25歳にしてはかなりの老け顔でね、一見しただけではベテラン教官みたいだったかな」
「そんなに褒められると嬉しいですけどね」
(イヤ褒めてはいないのだけどな)
「どうだ今の優男とは真反対だろう、これでも君は石井光一と言い張るのか」
「こっちの方がいい男だから別人を名乗っても良いですけど中身は石井光一のままなんですよね、そうだ少し思い出しましたよ冥王星への着陸指示があって一番機の後に続いて着陸したのですけどその一番機が事故を起こして炎上してる中に突っ込んだ……」
そこまで言うとブルブルと身震いして言葉が途切れる。
「そういう事だ石井光一を含めた冥王星事前調査隊は2年前の事故で16名全員が死亡してるのだよ」
「しかし私は実体を持った石井光一であって間違っても幽霊なんかじゃないてす」
「君が石井光一なら私たちが何の目的を持ってここに来ているのか知っているだろう」
「冥王星に巣くってたレジスタンス組織レッドフラックスが壊滅してる事を確認するのが任務です」
「全くその通りなんだよ、だからこちら側の情報が正しければいま私の目の前に居る君はレッドフラックスの諜報員と言うことになる」
「待って下さいよ、もし仮にも私が諜報員ならもう少しましな事を言うと思いませんか」
「そうだとも思うが何かしらの目的があってのものかも知れない、強い暗示を掛けられていて決められたキーワードで正体を現わし本来の姿に戻るのかも知れない」
隊長が別人の姿となった石井光一の取り扱いをこれからどうしたものかと思案し始めた時に艦内放送開始のチャイムが鳴った。
「隊長に報告、基地メインコンピューターに問い合わせていた石井光一のDNAを照合させてた結果が出て別人と判明しました。更にこのDNAは旧イノマン研究所のハナコ及びそのクローンのものと一致しました」
艦橋より訓練生のサスケが一斉放送を使い連絡してきた。
(こんな機密事項に近いことを公共通信で言うんじゃないぞ)
「うほほん、石井光一君聞いての通りだ」
ベンガル隊長が咳払いを一つして誤魔化すようにしながら言う。
「私は石井光一で間違いないのですけどこの体はハナコのクローンなんでしょうか」
「そうなるのかなここ冥王星はレッドフラックスの本拠地があったのだからな、指名手配になっているイノマンクローンの1人ぐらい居てもおかしくないだろうと思う」
「そうかも知れません一番機が炎上している中へと突っ込んだところまでは思い出しました」
(その後はブラックアウトして意識を失ったんだろうな)
「よしわかった取り敢えずそう言うことにしよう」
「えっ、どうなったんですか」
「仮の名前を石井光一にしてこのまま観察、いや監視を続けさせてもらう」
「仕方ないですね、このまま押し問答を続けても埒が明かないからですね」
「君が何故クローンの体になったのかは地上に出てみるとわかるかも知れない、ここにまだイノマンが居る可能性が高まったからだ」
(イノマンから何かしらの接触があればその手を取って引きずり出すまで)
ハービー隊長は何も無いと思われていた冥王星で思いもよらない成果を上げる事が出来れば一足飛びに出世するのではないかと期待に胸が膨らんでゆく。
「隊長へ連絡。地上探索用装甲車準備完了」
別の訓練生がインターカムで連絡してくる。
(最初に自分の名前を名乗るよう言ってるのだけど2人とも言わなかったな)
「了解した。直ちに出動する全員配置につけ」
インターカムのマイクを伸ばし返事をしながらカプセルの中で寒そうに半身を起こして震えてる石井光一に手を差し出す。
(いかんなこいつが金塊に見えてきたぞ)
「さあ私と共に君の根元を探りに行こうではないか」
「わかりました私も何故この体になったのか知りたいですしね、だけどその前に服を貰えますかいくら他人の体とはいえこのままでは恥ずかしいです」
ベンガル隊長が装甲車の後部座席に座っているのだけどその手には横で座るイノマンクローン石井光一の手錠から延びた紐を大事そうに持っていた。
装甲車は3人の訓練生によって操縦されノスリ副官がそれを監督している。
「上からでは分からなかったがあそこにあるのはコクピットが分離したものじゃあないのか」
ハービー隊長が指を差す。
「そうですね、壁に当たって破壊した一番機に乗り上げる様にして突っ込んだのでしょう、だからコクピット緊急脱出装置が上手く作動出来たと考えられます」
「そうだよな、だったら暫くは生存していたと思わないか」
「宇宙空間でなら大丈夫ですけど地上で作動するとは想定してませんので衝撃次第では堪えられないと考えられます」
「そうだよな、それに外は極寒の大気だからな想像するだけで凍え死にそうになるな」
「私達バード星人は寒さにはめっぽう弱いですからねクワバラクワバラって感じですかね」
「良いことを聞いた、じゃあこんなのはどうかな」
石井光一がぐったりともたれ掛かっていたスライドドアが勢いよく開く。
よく整備された地上装甲車のドアが勝手に開くなんて誰も予想だにしてなかったので対応ができていない。
石井光一にしても投薬により体の自由を奪っていたので動くことはできないと信じていた。
彼らはイノマンクローンに中途半端な毒は利かないとは知らなかったし、石井光一が乗り込む際にドアの隙間に特殊な金属片を噛み込ませていたのにも気付いていなかった。




