46.コールドスリーパー石井光一
東域宇宙和平維持連盟は太陽系アステロイドベルト帯のほぼ中央に地球人から地球を守るための人工惑星基地を第1次産業革命を起こした頃の1785年に建造していた。
その開設100年祭に参加していた中央連盟サジタリウス艦隊アルカブ艦長へ新任のオビス司令官が帰路の途中冥王星表面に建造され自らレジスタンスを名乗ったレッドフラックス基地の破壊をお願いしてる。
冥王星表面を更地にしたと報告があってから11年が経過した頃、ケンタウルス座アルファ星域で行方不明になっていたレッドフラックス代表サロメとイノマンをサジタリウス旗艦で拘束したと遠距離通信が入った。
地球防衛基地の幹部達はイノマンが遠く離れたケンタウルス星域で逮捕された事に驚きを隠せず危機感を持って冥王星調査隊の派遣を決める。
冥王星に住まうレジスタンス討伐を中央連盟艦隊に依頼したあと東域宇宙和平維持連盟は何もしていないと汚名を着せられるのが避けられない状況だったから。
それから急ぎ準備を始めたのだけどなんやかんやに足を取られ出発したのは10年後になってしまってる。
彼らはチルドレンサーチャーによって召喚された地球出身者の若者でベストメンバーを組み遠距離航行訓練の名目で冥王星到着を7年の予定で計画した。
出発してから5年が過ぎ高速小型艇で往復できるギリギリの距離まで近づいた所でそれによる先行調査を実行する。
まあ何を行うにしても大義名分が必要だったので先行調査は新人隊員による高速小型艇遠距離訓練飛行とした。
その本音はそれにより得られる時間と食料の節約にあったのだろう。
だがしかしその作戦は高速小型艇が冥王星への着陸時に大破してしまい失敗に終わった。
冥王星への着陸は予定されていなかったのだけどイノマン達のおびき寄せ作戦に嵌まって絶対零度に近い氷の表層に着陸したとき滑って転んでバラバラになって炎上してしまってる。
それでも後続の冥王星調査隊は連絡が取れなくなった高速小型艇に搭乗していた隊員達の安否を気遣いながら目的地へと邁進して来てた。
ドール、ペニー、ポンドの3人がイノマン十太郎と石井光一の記憶と幽体が入ったクローンをコールドスリープカプセルに入れ衛星軌道上に打ち上げたのは後続調査隊が到着する3日前、2年間回っていたように小細工するのが大変だった。
「ついにやって来たわね調査隊の本体が」
ペニーがリクライニング式ディスクチェアーに浅く座りミルクコーヒーをすすりながら言う。
冥王星イノマン地下研究所娯楽室備え付けの大型スクリーンを3人が思い思いの格好で見てる。
「コールドスリープカプセルに気付いてくれるだろうな」
ドールは立ったまま室内をうろつき落ち着かない様子で時々テーブルに置いてるブラックコーヒーを飲む。
「救難信号を発信してますから大丈夫だと思います」
ポンドがテーブルに乗せたAI端末を操作しながら返事した。
「少しは早く来るのかなと思ったけど予定通りだったね」
「どんなに早くしても2年が1年になったりはしないし例えそれが可能になったとしてもここでの状況が変わる訳がないからね危険な事はしないだろうさ」
「そうね、ここの表面は全てが凍ってる世界だから時間も止まってる様なものなのよね」
ペニーは絶対零度の世界は時間も止まってるという持論を持っていた。
「それでも救助のために全速力で来ていたと思いますよ」
ドールが言いながらポンドの後ろへ回り端末を覗き込む。
「あの艦隊の隊長は戦艦の艦長が兼ねてるのだと思いますけどなにやら不穏な空気を醸し出してませんか」
ポンドが振り向けもせずに言う。
「そうですね小型艇墜落現場上空で停止したまま地表へ降下する気配が全く見られないです。生体反応はどこにもありませんからねぇ~」
ドールも同意する。
「ミ、ミサイルだけ撃ち込んで帰ったりしないでしょうね」
ペニーがとんでもない予言をした。
「そうですねあそこで緊張している艦長の気を他所に向けなければペニーが言うような最悪のケースも考えられます。さて、どうしたものでしょうか」
「コールドスリープカプセルを目の前に持ってくるってのはどうよ、嫌でも回収して中で眠ってるのが小型艇2番機の操縦士だって気付かせるのよ」
「そうですね、上にはまだ多くのデブリが回っているからあれも単なるデブリと思ってるのかも知れませんもう少しアピールしましょうか、ポンド君にお任せしても良いですね」
「今から救助音声を事前にプログラムしていたようにして発信してみます」
冥王星衛星軌道上では主星の半分程もあるカロンを始めとする本来の衛星以外にもサジタリウス艦隊によって吹き飛ばされた大小様々なデブリが未だ地表に落下せずに回っていた。
その中の1つから微かな救難信号が発信されているのは分かっていたのだけど数あるデブリの1つとして片付けている。
そのカプセル型をしたデブリが調査隊の戦艦に引き寄せられるみたいに近付き通話を求めてきた。
「艦長、音声通信受信しましたスピーカーに出力しますか」
通信士のオダが報告する。
「出せ」
「これより当艦リトルタイガーに接近しているカプセルから発信されている音声を艦内へ流す各自聞き入るように」
環境管理士のウメダが艦内放送を入れた。
リアルタイムに情報を共有することでゼロコンマ以下の時間での行動遅延防止に繋がる。
「応答願います。こちら訓練生識別コード○△✕石井光一、救助されたし……繰り返すこちら・・・」
艦内スピーカーから音声が流れ出た。
普通に考えて音声等によって精神攻撃を受ける可能性もあるのでそのあたりはAIが適切に管理してる。
「石井光一とは2年前から行方不明になっている研修生の1人なのか?」
ベンガル艦長が問い掛ける。
「まだ分かりません、ですが例え誰かが乗ってるとしても生きてはいないでしょう」
隣で直立不動のまま立っているアムール参謀がそのままの体勢で答えた。
「もう少し楽な姿勢を取ったらどうだといつも言ってるだろう」
(見てるこっちが疲れるぞ)
ベンガルは顔をしかめてそう思う。
「いえ、自立自存です」
(意味が違わくないかそれを言うなら率先垂範じゃないのか)
「まあいいあのカプセルを回収する」
「了解!」
例によってピシッと敬礼してから艦長の元を離れていく。
(まさか自分でやるわけじゃあないよな)
「訓練生にさせるのだぞ」
思わず口に出す。
「カプセル回収は輸送艦キャメロットのハービー艦長に一任します。宜しいですか」
(それが順当だな)
「分かった許可する。慎重且つ迅速にまた訓練生の監視と補佐を怠らない様にと重ねて私の名前で通達してくれ」
「了解!」
通信士の後ろで再度ビシッと敬礼した。
戦艦リトルタイガーの艦橋で大型スクリーンに映し出されているカプセルをボーッと眺めていたベンガル艦長がおもむろにアムール参謀を呼び寄せる。
「キャメロットへ行ってカプセル回収に立ち会ってくる。・・ので只今の時刻をもってアムール参謀を艦長代理に任命する」
指揮卓の前に立たせてそう告げた。
(まあそうなるわな)
アムール参謀はいつも腰が重たいベンガル艦長が自ら行動を起こしたことにホッと胸を撫で下ろす。
輸送艦キャメロットハービー艦長はベンガル隊長が到着するのを待って目の前に漂っているカプセル回収を行う様に指示を出していた。
ベンガルは戦艦リトルタイガー艦長と新人研修調査隊隊長の役職名を随時使い分けなくてはいけないので今は調査隊隊長としての立場でキャメロットへ乗船してる。
キャメロット後方の小型艇発着所から長く伸ばしたロボットアームでカプセルを捕まえ無事に中へと引き込む。
「回収したカプセルの中で男性1名がコールドスリープ状態で生存してます。検疫結果で問題ないことを確認しましたのでこちらへ来て頂けますか」
現場責任者のマーレ主任が仮設待合室で待機しているベンガル隊長一行へインターホンで連絡してきた。
(検査したのは訓練生なんだよな本当に大丈夫か)
「彼は優秀な教官ですのでご安心ください」
ベンガル艦長の不安そうな顔色を察知してキャメロット最高責任者が言う。
「訓練生の石井光一ではないな……では一体誰なんだ」
コールドスリープカプセル内で眠っている見知らぬ男性の顔を見てベンガル隊長の顔色が暗くなっていく。
(石井光一の名前とコードを使って通信してきたんだよな、でも石井光一じゃないということは名前を偽ってるってことなんだよな、訓練生じゃないというと、う~ん)
「隊長、隊長、聞こえてますか」
ハービー艦長が不安そうな表情で呼び掛けてきてた。
「ああすまん考え事をしていた。それで何かな」
「覚醒させますか」
(このまま覚醒させて良いのか隊長に確認しないとなあ)
「ああ許可する。目覚めるまで12時間程だったかな」
「このタイプは見たことがないです。人を馬鹿にするような造りをしてまして『解凍』と表示された押しボタンスイッチが1つしか無いのですよ」
「押してみたまえ、どうせ知らない人間だからたとえ不幸な目に遭っても心は痛まない」
ハービー艦長は自ら押すことはせず回りを取り囲んでいる研修生にさせることにする。
「ここで解凍、いえ目覚めるのを待ちますか」
「時間が勿体ないな」
「では冥王星へ降下しますか、彼が目覚める頃には着陸完了してると思われます」
「彼には事故現場に立会ってもらわないといけないだろうから丁度いいかも知れない」
艦長はニヒルな笑顔を浮かべ降下の支持をだす。
それから暫くして輸送艦キャメロットは冥王星地表でオブジェクトとなってる調査隊小型艇一番機残骸の側に垂直着陸した。




