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43.イノマンとして

 サロメが愛するジベルが乗った戦艦ネプチューンが消えてから3年が経過してる。

 その消失点に今日現れると基地AIが予測したのでサロメは戦艦シルバーシップに乗って護衛艦4隻を伴い来ていた。

 そこで戦艦ネプチューンの代わりに現れたサジタリウス艦隊の戦艦10隻と交戦する羽目になってしまう。

 サロメは前後を敵に挟まれているとリョウに告げられてからずっと意気消沈して言動までおかしくなっていた。

「最初からデブリを引っ張って来てたのですよ」

 リョウはシルバーシップ後方に付いていた敵戦艦2隻がいきなりデブリになった事の説明をサロメにしてる。

「何でそんなことをする」

「艦隊数の水増し、それより左へ最大回避、避けて前方から攻撃が来るよ」

「何でわかるのだ」

「撃っても味方に当たらなくなったでしょう、ブラックライト発射後左最大旋回」

 リョウが叫ぶ。

 本来ならばサロメ艦長が指揮するところなのだけど先の理由により彼女が代行していた。

 目眩ましと光圧縮弾の威力を軽減するためにブラックライトを照射する。

「何で左なんだ」

「3番艦が一番脆弱で最初に殺られてしまいますから助けに行きます」

(確かイカトス人のホタルさんが唯一の女性艦長してたよね)

「11時方向より光圧縮弾多数!」

 索敵レーダーを監視してたミンツが叫ぶ。

「右上45度加速全開」

 反射的にリョウが指示する。

「全弾回避!」

 外部環境監視を兼任している操舵士アミの報告。

「狙われていることを察知できなかったのか」

「そうなりますね」

「左斜め前方敵本体がステルス解除、目視距離にいます」

「回避するのが少しでも遅れていたら八つ裂きにされていたかな」

(完璧なステルス機能だったのに何故解除したのだろう)

 リョウは興味を持ったけど今はそれどころではないことを十分承知している。

 シルバーシップが3番艦後方斜め上空に付く。

(敵が平走してるじゃない、これならあれかな)

「アンカーミサイル2基を連結し敵2艦の舳先へそれぞれ発射」

 時間がないのでサロメを通さずに顔色だけ伺いながら言う。

「指示に従え」

 直ぐに不機嫌な叫びが短く響いた。

 下方に位置する敵艦は回避行動を起こす時間も与えられないままそれぞれの艦首にアンカーミサイルを撃ち込まれる。

 そして2隻の間で結ばれたアンカーロープが縮むと互いがキスをするようにゆっくり接触してゆく。

 キスならそこで止まって余韻に浸るのだけど衝突なのだから接触面は大きく凹みその醜い形を広げていきやがて内部爆発を引き起こす。

「サロメ艦長感謝いたします、これからの行動についてご指示下さい」

 3番艦ホタル艦長より通信が入る。

「3番艦はポイントアルファ1にて待機、後続を待て」

 これはサロメの指示。

「1番艦2番艦消失!」

 サロメが通信を終わらそうとした時に外部環境監視兼任の操舵士アミの悲鳴が入った。

「ホタル艦長アルファ1まで全速で逃げて」

 堪り兼ねたリョウが離れた場所から叫ぶように言う。

 サロメが喋ってるマイクに拾えたはず。

「1番艦と2番艦を撃った敵艦4隻がそれぞれこちらへ突進してます、接触まで約1分」

 ミンツが叫ぶ。

「仰角80度11時と水平9時方向に高出力レザー光線連続照射、ありったけ撃てー」

 リョウは『指示に従え』とサロメが言った言葉の効果がまだ続いているといいなと思いながら命令を出す。

(破壊は無理でも掠り傷程度なら狙える、威嚇になるだけでもいいから)

 怯んでくれないかと切に願う。

「レザー命中」

「上の1艦は艦橋を破壊し……誘爆します」

「後方から敵本体」

「光圧縮弾!来ます」

「取り舵いっぱい全速!」

 さっきから艦橋の中では誰かが引っ切り無しに叫んでいてまともに話ができない。

「敵艦目前です」

「回避!回り込め」

「光圧縮弾敵艦2隻に着弾、爆発!同士討ちです」

「電磁バリア全力展開、余波と破片が来るぞ」

「3番艦が敵の攻撃により被弾、誘爆します」

「脱出艇は出たか」

「確認できません」

「後方敵本体戦艦より攻撃機が出撃してます」

(まるできつね狩りだな)

 リョウは心の中でそう思った。

「グラビデ弾は使わないのか」

 サロメが言う。

「えっ捨ててなかったのですか銭……兄さん……イノマンの試作品だったですのに」

「リョウお前は本当にリラだったのか、ポンドと一緒に出て行かなかったのか」

(今までも何となくリラと良く似てる言動をするからもしかしたらと思ってはいたのだけどな)

「いいえ私はリョウです、イノマンでしたら喩え我が身を盾にしようともサロメお姉さんを守り抜きますよ、そしてイノマンは何処にでも居て世界を見てます。ですからこれから冥王星のイノマンを頼りなさい」

 リョウは意味が分からないことを口走って艦橋を小走りに出て行った。

 シルバーシップから発射されたグラビデ弾が後方宙域で爆発する。

 そこに歪み空間が発生し敵機は引きずり込まれるよう飛んで行ってぶつかり合い爆発していく。

 小型機が一掃されたシルバーシップ後方をサロメの連絡艇が敵戦艦目掛けて真っ直ぐ飛んで行ってる。

 その翼の両端では投降信号がしっかり点灯してた

「私はイノマンそちらで受け入れてもらいたい」

「良い判断だ了解した、そのままの進路で速度を落とせ誘導ビーコンを出す」

 リョウはビーコンに乗って指定された場所へタッチダウンするとそのまま艦橋目掛けて急加速して行く。

(リョウはここで死ぬわ、でもこの旗艦だけは道連れにする一緒に逝きましょうね)

 サロメの連絡艇は機動性に飛んだハイパフォーマンス燃料をありったけ積んできてる。

 これだけの物を艦内で一気に燃焼させたらその威力は中型戦艦位なら簡単に爆発して消し飛んでしまう。

 艦橋から外を見てる透過パネルは防護されていないのを確認して突っ込む。

(さようなら私の人生、走馬灯は観れなかったわね)

 リョウは目を瞑った。

 強い衝撃を感じる。

 痛みは一瞬だと思う。

 でも何も感じない。

 もう死んでしまったのだろうか。

 それにしては現実感があまりにもありすぎた。

(死後の世界って行ったことはないけどこんなものなんだろうか)

 目を開けてみる。

 まず笑っている人たちの顔が見えた。

 こっちを見て指まで差している。

 視界に入ってきた全ての人が笑ってる様に思う。

(後ろの方で怒った顔をしてるのが閻魔様なのかなそうするとここは地獄か……日頃の行いは良かったはずなのにね)

 時間が経って少し冷静になってくると周囲がよく見える様になってきた。

 自分はまだ連絡艇の操縦席に座って操縦桿を握り締めエネルギー全開で飛んでいる。

 前に進んでないだけ。

(何かに絡め取られてる?)

 やっと現状が理解できた。

(磁気ネットが張ってあったのか、何ともいやはや考えが甘かったみたいだね)

 落ちくと通信ランプが点滅してるのに気付く。

「ブレーキとアクセルを踏み間違えることは何処の誰だろうと良くあることだ、君もそういう言い訳をしてくれると私としては助かるのだがどうかな」

 スイッチをオンにした途端、相互通信可能ランプが点灯して音声が流れ込む。

 リョウの判断は早い。

「有難い申し出に甘えましょう、でもそちらに囚われた暁には耐え難い拷問が待ってるのですよね、だから私はここで死を選びます」

「君たちならそうするだろうが私たちは違うと言うまでだ君が本当にイノマンなら理解も早いと思うのだがどうかな」

(効率良くこの戦艦を破壊するには内部に入らないといけない、しかし私が今ここで無傷のまま中に入ったりしたらイノマン、銭太郎兄さんの二の舞になってしまうよね、それだけはどうしても避けないといけないどうしたら……)

「迎えのシャトルを出すからそれに乗ってこっちへ来てもらう、宇宙服は着てるよな」

(やはり連絡艇毎とはいかないかまあ当たり前だけどね、こうなったからには塞翁が馬と思って大人しく捕虜になるしかないのかな、だったら……)

「わかりました、しかしこちらの要望を聞き入れてくれますか」

「聞くだけなら聞いてやろうタダだからな」

「お願い事があります。全ての戦闘行為を止め私達の行動を見逃して下さい。そして私がそちらに行く時は全ての記憶を消した後になります。それでよければ私はあなたの物になりましょう」

「フン、情報は渡さないと言うのかまあ初期化された高性能クローンを手に入れたと思えば良いかも知れない、それで手を打とう」

 リョウはサジタリウス艦隊の責任者と話を付けると直ぐにサロメに秘匿回線で呼び掛けた。

「サロメ艦長聞こえますか、こちら連絡艇操縦士イノマンリョウです、返事はしなくていいから聞いて下さい、敵の旗艦を爆破するつもりで出てきましたけど失敗しました。しかし私が捕虜になる条件でこれから先は見て見ぬふりをしてもらえます。これからサジタリウス艦隊はケンタウルス座アルファ星まで航行します。丸1日経過したら私の記憶と連絡艇のデーターを抹消します、敵にこちら側の情報を渡せませんからねそれが叶わないときは自爆するまでです。右手の起爆スイッチは何時でも押せるように片時も離しませんから少なくとも24時間は自由時間を貰えたわけです。だから遺品や部品の回収を行った後で探知衛生を残してお帰り下さい」

 今現在サジタリウス艦隊をまとめている戦艦の艦長にイノマンを名乗ってしまった手前サロメに対してもイノマンを通すことにした。

 これから先の事はどうなるのか正直分からない。

 消えたネプチューンとサジタリウス戦艦がいつ出現してもいいのだから。

 もし今現われればこの取り決めは一瞬にして消えてしまうだろう。

 そんな不安を抱いたままイノマン・リョウは記憶を消すにはどうしたものかと操縦席に深く沈んで考えを巡らしていった。

挿絵(By みてみん)

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