42.リョウとして
バーナード星から南へ4光秒離れた所、距離表記で120万Km地点が戦艦ネプチューンの消失ポイントになっていた。
この広大な宇宙空間で東南西北があるものかと言いたいところだけどここ東域宇宙と呼ばれる辺境地域は北極星を人体の尾骨から頭上の延長線上に置いての方位を定めている。
そこで南と言ってるのだから足元方向へ飛行していく。
そこへあと10分で到着ということは3万9千Km手前に居るということ。
それは3%圏内で誤差の範囲内に入っていた。
シルバーシップの艦橋内でも皆が緊張して周囲に警戒してるのが手に取るように分かる。
「サロメ艦長少しだけお時間を下さい」
リョウは意を決してサロメに声を掛けた。
「おや、今度はどんな悪巧みを考えてるのかな」
「えっ、そんなに悪目立ちしてない筈なのにな」
緊張のあまり思わず思ったことが口から出てしまった。
「自分では中々気付かないものさ」
サロメがニヤケ顔になってる。
(しまったな警戒されてしまったかな、これじゃあ何を言っても拒否されてしまうかもしれないどうしようか、そうよね今は誤魔化して少ししてから進言しようかな)
「リョウ、どうした黙り込んでないで用件を早く言わないと時間切れになってしまうぞ」
サロメは指揮卓に立ったまま索敵レーダーを注視して戦艦ネプチューンが今こそ現れるのではないかと期待している。
いや、ネプチューンというよりそこで艦長を勤めているジベルに会いたい一心で護衛戦艦4隻を伴い進軍させていた。
「仰る通り時間がありませんので単刀直入に申し上げます、ここに探知衛生を残して引き返すことを進言致します」
誤魔化す内容を思い付かなかったのとタイミングを送らせると取り返しがつかなくなるのではないかと思い計画内容を言う。
「その提案は拒否する。お前は今までその歯切れのいい物言いと的を得た計画を有言実行することでライバル達を押し退けて上がってきたけど私には通用しないということをまだ分かっていないな」
「いえ、それは十分理解しています、サロメ艦長はこの艦隊のトップでいらっしゃいますから喩え間違った判断で皆と危険な領域へ足を踏み入れても異を唱える者等誰も居ません、ただ私だけでも間違いを指摘して正しい方向へ導かせて頂かなくてはいけないと考えています」
時間があまり無いのでつい辛口の早口言葉になってしまう。
「そうか、それで私の間違いとは何だね」
サロメにしては珍しく怒り出したりしないで落ち着いて聞き返す。
「それでは3つの間違いを指摘致します。まず最初に3年後に現出するというのは早くて3年、もし5年を過ぎても現出しなければ何時になるか分からないということです、基地のAIは組織のリーダーに希望を持たせるために3年後と言ったのです」
(リーダーの意にそぐわない事を告げたらスクラップにされること間違いないと思ったなんてのは言わない方がこっちの身のため、イノマン家のAIがレッドフラックス基地AIとリンクするようになってより人間に近い思考をするようになったものね)
サロメの表情に変化は見られない。
「2つ目は出現場所についてです。これも同じ理由で消失した場所の近くに現れると告げていました。でも本当は消失ポイントからその進行方向延長線上にあるケンタウルス座アルファ星までの何処かに出現するのです、8光年距離の何処かなんてこれはもう分からないと言ってるのと同じことですよね。そして最後の3つ目はネプチューンと一緒に消えたサジタリウス旗艦も現れるという事を敢えて言ってないことです、そしてあの時に残されたサジタリウス艦隊が帰途に就いた形跡がないこと、これには最悪の場合……」
リョウが話してる最中に警報音が鳴り艦内アナウンスが始まった。
「緊急!後方約1秒光に戦艦多数出現、厳戒態勢に入れ!繰り返す・・・」
「後方の戦艦は識別ビーコンでサジタリウス艦隊と判明、距離30万Km数10隻我が軍の倍です」
艦橋で索敵を兼任していた通信士ミンツが報告してくる。
(まあこの宙域でレッドフラックス艦以外は全て敵艦だけどね)
リョウはついのほほーんと思った。
「全艦全速前進追い付かれるな振り切れ」
それを聞いたサロメが直ちにその場で叫ぶ。
何処から取り出したのか指揮棒まで振っている。
「待ってあれは囮です、多分敵の本体が前方でステルス状態で待ち構えてるでしょう、ここは四方散開が最良策です」
リョウがそれを制止し代替案を提示した。
「こっちは5艦しかいないんだ、各個撃破されるぞ」
サロメは渋い顔をしている。
「4隻の僚友戦艦が一瞬で殲滅するよりはましでしょう」
リョウがなだめるように言い返す。
「タイミングを計ります、もう少ししたら後続艦4隻に散開しながらのUターンを命じて下さい。シルバーシップはそのまま直進して敵を混乱させます」
(サジタリウス艦はステルス機能が特化してるに違いないよ全く気付きもしなかったものね)
一礼して少し歯がゆい思いをしながら自分の席へと向かう。
「直進したら前方には敵の本体が待ち構えてるのだろう」
サロメがリョウの背中を蹴飛ばす様に言う。
実際に蹴飛ばしたかったのだろうけどそうはいかないから。
リョウは自分の席に着くと索敵レーダーと後方画像、戦略プログラムそれぞれを空間ディスプレイに表示させ考え込む。
10秒経ってからインターカムを使い指揮卓のサロメに話し掛けた。
「作戦案ができました。シルバーシップは後方の敵を引き付けつつ敵本陣の目前でUターンします」
「前後の敵から狙い打ちにされるじゃないか」
「頭が悪い指揮官なら痛い目を見せて分からせるまでですよ」
(ウララウララってね)
「同士討ちか」
サロメはリョウがニタニタと薄気味悪い笑顔を浮かべているのを見て連想する。
「そうですよ、この艦の運動性能でしたら敵のエネルギー砲くらいなら簡単に避けられますよね」
(距離があればの話だけどね)
指導者をよいしょするAIを育てたのはリョウ達なのだからこうなるのは当然至極。
「そうか敵の弾道線上を進んでいれば攻撃されないって事かな」
サロメが納得して見せるけど踏み落ちないところがあると言いたげな表情もした。
「そうですよ、おまけにこちらからは攻撃できるって事です、だから相手がステルスを解かなければギリギリまで前進して攻撃します。そこから180度急旋回、後方から迫ってくる艦にも攻撃して出来た隙間を縫って全速で逃走するだけです」
「わかった、その作戦を採用しよう」
(あくまでもこちら側に都合が良い憶測による行動をしてくれたらの話だけどまあ良いよね他に考え付かないしね)
「作戦開始のタイミングは後方から追ってくる敵が距離を開けた時です、悟られないようにしないといけないので散開指示は直前に出して下さい」
(作戦って言っても良いよね、銭太郎兄さんが居たらバカなことを言うなって怒られそうかな)
「わかったそうしよう」
サロメはこの危機を乗り切るためだったら藁にも縋る思いになっていた。
「後方敵撃ってきました、着弾まで5秒」
突然通信と索敵レーダー及び外部環境担当のミンツ隊員が叫ぶ。
「後方バリア展開」
指揮卓からサロメの命令が指揮棒と一体になって走る。
「早すぎるだろう」
リョウが愚痴をこぼす。
敵が行動を起こすのはもう少しこちら側を焦らしてからだと思っていたから。
「光圧縮弾です。光速に近い速度が出せますけど我が艦隊の前方にステルス状態で待機している味方のことを考えて出力を落としてる筈ですからバリアで防げます」
ミンツは他の皆が思っている以上に冷静になっていた。
「投降しろと言う無言の威嚇なのか」
(確かにそれもあるのかもしれない、最初にガツンと叩いて戦意喪失させる、そこで負けを認めさせたら丸儲けと思ってるのだろう)
「もっと急げって言ってるのですよ、奴らの思惑に乗ってやろうじゃないですか」
(だけど私には通用しないからね)
「全艦10%加速5秒」
今度はサロメがゆっくりと命令を下す。
足並みを揃えないといけないので慎重になる。
後方敵が速度を落としたのか距離が一気に開いた。
このまま突き進んで混戦になるのを防ぐためだろう。
つまり前方間近にサジタリウス艦の本隊がステルスのまま待ち構えてることを示していた。
「1番から4番艦へ告ぐ十字散開90度」
後方との距離が十分開いたと思えた時に電光石火の勢いで作戦指示を飛ばす。
命令を言い終わらない内にユリの花弁がゆっくり開くみたいに綺麗な曲線を描いていく。
追い縋ってきた敵艦もこちらの1艦に対し2艦づつが遅滞することなく追従している。
まるで最初からの作戦の様に思えた。
「敵も綺麗に分かれて行きました。僚友艦1隻に対し敵戦艦2隻づつが追尾してます」
レーダー監視してるミンツの報告。
(しまった。こっちの行動を読まれていたのか?)
リョウはそんなことはあり得ないと思いたかった。
「不利だな」
サロメは現在起こっている事しか見えていなくてその場の状況しか口にしてない様に思う。
(こっちの真後ろにも戦艦2隻が残ってるのだからって追い討ちを掛けるような発言はよした方が良いよね、でも何かが引っ掛かってるのよね)
「我が艦の後方にデブリの集合体が出現、戦艦が消えました」
ミンツが叫ぶ。
彼にはその意味と直ぐに起きるであろう危機を予測できるだけの知識が備わっていた。
(そうか最初から敵はバラける作戦だったのか)
「戦艦が分解したのか」
サロメが理解不能みたいな表情をしてる。
(こいつバカか……しまった口から出てないよな)
リョウは焦ったが表情には出さない。
だがしかしレッドフラックス艦隊の危機は確実に深まった。




