40.ポンドの覚醒
冥王星に着陸したスターキッドは目前で押し下がっていった隠しスロープを通り地下格納庫へと入って行った。
そこで待ち構えていたイノマン十太郎とペニーをコクピットへ招き入れポンドと対面させる。
「コールドスリープじゃないな」
操縦席でカチコチに固まっているパイロットを見た十太郎が言う。
「見ての通りの冷凍保存です、記憶はデーターとして保存してます」
「ねえ、ポンド兄さんで間違いないよね」
ペニーが十太郎の宇宙服にしがみつくようにして覗き見てる。
スターキッドは外宇宙から到着したばかりでどんな細菌が入り込んでいるのか分からないので中に入るには宇宙服を着て完全防護しなければいけない。
それだけでなく今のコクピットは氷点下260度の極寒なので宇宙服でも着ていないとこちらまで凍りついてしまう。
「そうだポンドに間違いないだろう、姿が25年前に出発した時と全く同じだ」
「どういうことよバーナードではクローンを作れなかったって言うの」
(だから宇宙艇を棺桶代わりにして戻って来たって事なの、ここに来れば入れるクローンがあるかもしれないものね、でも死んでしまったらクローンに移れないって知ってるでしょう)
ペニーが考えれば考えるほど悲しくなってついに泣き出す。
大粒の涙がヘルメットグローブの中で流れて行くのが見えた。
「泣くにはまだ早いぞ下で待機してるドールに連絡してコールドスリープカプセルを持ってこさせよう」
「兄さんはまだ間に合うと思っているの、ポンド兄さんは氷漬けになって完全な死体になってしまってるのよ」
十太郎がヘルメットインカムでスターキッドAIと通信を始めたのでペニーはドールを迎え入れる手伝いをすると言って後方の荷物室へ向かう。
そこで待っている間に宇宙服の内圧を上げ中で自由に動ける空間を作り涙を拭って悲しみから立ち直っていく。
「ポンドの記憶をAIにコピーしてると言ったな情報を開示してくれないか」
コクピットでは十太郎がAIに命令してる。
(ドールが来るまでに少しでも情報を得たいな)
「個人情報保護法……ではなくてプライバシーの観点から内容は知りませんし本人の許可なく漏洩することは綱紀違反になります」
「それならば聞き方を変えようここにポンドしか帰って来なかった理由と銭太郎兄さんいやイノマンと言った方がいいのかなそれとリラの動向について報告すること」
「ワカリマセン」
「分かりませんとはどういう事だ」
「データー不足です」
「ポンドの記憶があるだろう」
「個人の記憶を閲覧することはプライバシー侵害になると先程申し上げました」
「使えないAIだな」
「スターキッドAIとお呼び下さい、それとマスターからの伝言があり十太郎ドールペニーの3人が揃った時に開示することになってます」
「あああっー、そういう大事なことは先に言えって本当に融通が効かないAIだな、それとマスターと言うからにはお前を作ったのはポンドなのか」
十太郎が少し不良っぽく言う。
「スターキッドAIとお呼び下さいってお願いしましたよねあなた本当にイノマンクローンの十太郎さんで間違いないですか不安になりました。質問の答えですが本体はイノマン、ドール、リラさん3人の設計に基づき優秀な作業員によって作られました。私の教育は主にポンドさんが飛行中に懇切丁寧に行いました。あなたみたいな罵詈雑言は一切口にされませんでしたよーだ」
十太郎が悶絶して頭を抱え込もうとした時にタイミング宜しくコールドスリープカプセルがドールとペニーによって運び込まれてきた。
「3人がお揃いになったみたいですけど今ここでマスターからの伝言を開示して宜しいでしょうか」
「ダメに決まってるだろう少しは自分で状況判断したらどうだ」
(宇宙服を着たままこんな極寒の世界に生身の人間は長居できんぞ)
「それではこちらのAIとリンクしましょうか」
スターキッドAIがしれっと言う。
「簡単に言うけどデーター共有は問題があるのではないか」
「プライバシー領域のデーターにはお互いアクセスしません、主にそちらのAIを通して会話することを目的としますのでお好きな場所で都合の良い時間にドールさんからのメッセージをお伝え致します。それとも今ここであなたの脳とシンクロして私が持つデーターをコピーしましょうか、もしキャパシティーオーバーで混沌される様な事が起きてもドールさんとペニーさんが介抱してくれますでしょうから大丈夫でしょう」
(こいつドールとペニーが来た途端に良い子振ってないか一体ポンドはどんな教育をしたってんだ)
十太郎は少し恐怖を抱く。
「分かった基地のAIとリンクしてもらいましょう2人共それでいいですね」
コールドスリープカプセルをセッティングしてたドールとペニーはキョトンとしてる。
「何が良いのか分からないけど兄さんが決めたのならいいでしょう」
(こっちに意見を求めるような話だったのか)
ドールは聞いてないのだけどと思う。
「十太郎兄さん……じゃなかったイノマンあなたも手伝ってよポンド兄さんを動かすのに2人だけでは重いわ」
ドールはもう一度聞かれたら返事するつもりでいた。
(『あの時お前が良いって言ったじゃないか』って過去に何回も聞かされた。もうその手には乗らないからな)
「了解した」
十太郎は『あのとき言ったじゃないか』と言うつもりでいたので敢えて返事は期待してない。
3人でドールをコールドスリープカプセルに移し終わると待っていたようにスターキッドAIが話し掛けてきた、
「この基地のAIも優秀みたいでお三方の許可が同時に下りないことにはリンクしてもらえないです」
泣き言みたいに言う。
「わかった研究室に戻ったら許可を出すからそれまで待てるな」
「コクピットを常温にしないとエネルギー消費が激しいので室温を戻したり自分で出来る範囲の環境整備と本来キャプテンが行うチェックを実施してます」
(なんだか新しい弟が出来たみたいな気分になってきたわ)
十太郎とスターキッドAIの会話を聞いていたペニーはそう思った。
スターキッドが開示した伝言はポンドの日記みたいな物。
でもその内容を知ることでバーナード星域での出来事を3人ともつぶさに把握した。
ポンドの記憶は冥王星イノマン地下研究所で育てていた3代目クローンの1体を出してコピーすることにする。
ここに居る3人とも幽体を見る能力を持っていない。
だからコクピット内を彷徨ってるだろう幽体がポンドの記憶につられてクローン体に入ってくれる事を期待した。
「上手くいくといいわね」
「それこそ神に祈るしかないだろう」
「神様は駄目でしょうせめて幽体にお願するにしませんか」
「それもそうだな科学者にあるまじき発言だった」
「じゃあ、みんな一緒に声を描けるわよ」
「ポンド起きるのだ」
「ポンドさん起きて下さい」
「ポンド兄さんポンド兄さんポンド兄さん」
3人の不揃いな不協和音が周囲を満たした時ポンドの記憶をコピーしたクローン体が身震いして目を開く。
「やあ僕は無事に着いたのかな、まだ目が良く見えないんだ、ここが天国でないことを祈るよ」
「そうよ、ここは天国でも地獄でもないわポンド兄さんは神様に祈ってもいいのよ、とても無事って状態ではなかったのだから」
ペニーが半泣き声で涙を流す。
「あれリラみたいな声がする、僕はそんなに長いこと眠っていたのかな」
「私はペニーよリラはまだバーナードのイノマン研究所に居る……と思うよ」
ペニーが歯切れ悪そうに言う。
「ポンド君は5年の航行みたいだったけど時差が発生してるみたいだな今は君がバーナードを出てから20年が経過している」
イノマン十太郎がスターキッドAIから得た情報を伝える。
「それにしてもポンドの幽体がまだ残っていて良かったよ離散していたら十いやイノマンの幽体をコピーするところだったんだからね」
ペニーが言う。
如何にクローン体が完全無欠で出来上がってもそこに幽体がなければ目覚めることはない。
クローンが初代であれば一般常識と疑似幽体をコピーして目覚めさせている。
「イノマンって銭太郎兄さんですか、ここに来てたのですね心配してましたよ」
目覚めたばかりのポンドの意識はまだ混乱の中。
彼にとってイノマンはバーナード星で共に生活していた銭太郎のこと。
「いいえ冥王星のイノマンは十太郎兄さんよ、そうね銭太郎兄さんはバーナードのイノマンそして地球防衛基地にはオリジナルイノマンが居るわ」
「バーナードに冥王星のイノマンですね、なんか混乱しそうです」
「それが目的だからな、イノマンを狙ってくる連中の目眩ましには丁度いいのではないかと考えたのだ」
「そうですか、やはり銭太郎兄さんはタイムスリップして……今は何年後って言ってました」
「君がバーナードを出発してからなら20年後だな、それと記録にあった戦艦ネプチューンとサジタリウス旗艦についてだが3年後に同じ場所に出現するだろうとあったが実際には5年後にケンタウルス座アルファ星近くに出現してる」
「良かった銭太郎兄さんとジベルさんは無事だったのですね」
「それがそうでもないんだ、あくまでも連盟の通信を傍受して分かってる範囲でしか言えないのだがネプチューンは攻撃によって破壊されている、乗組員は全員サジタリウス旗艦へ回収となっているがどうもイノマンとジベルさんだけみたいなんだ何とも不思議な話しだな」
「2人共連行されたのですね、どこへ連れていかれたのでしょう」
「いて座の本拠地みたいよ」
「そうですか、でも無事に生きているのなら良かったことにしましょう、それでもサロメさんは3年後に艦隊組んで迎えに行ってるのですよねその情報はありますか」
3人は顔を見合せ黙り込んだ。




