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39.冥王星のイノマン

 冥王星表面はサロメの居城が無惨な姿になって存在していると思われたけれどそんなことはなかった。

 そこは跡形もなく綺麗な更地が広がっているばかり。

 石礫弾によって粉々に破壊され吹き飛んで行った欠片はいま冥王星リングになって回っている。

「それにしてもケチ臭い攻撃だったな」

 十太郎はサジタリウス艦隊が急ぎ足で去っていった方向を睨んでいた。

(まさか戻ってきたりしないだろうな)

「いて座までは遠いですからねエネルギーを節約したい気持ちは理解できます」

 ドールが腕を広げながら言う。

「凄かったね、ビリヤードの玉突きみたいに水平方向からビュンビュン飛んできて建物をバラバラにしながら宇宙へ弾き飛ばすんだもの」

「引力が低い惑星だから出来たのだろうけどな、それでも緻密な計算が必要だしそれを実行するとなるととてつもなく高い技術力を求められる大したものだ」

 十太郎は脱帽しましたと言わんばかりに腕組をして頷く。

「片づけの手間が省けて良かったじゃないですか、それにあれが垂直攻撃だったらと思うとゾッとしますね」

「私たちが地下に閉じ込められなくて良かったと思うよ」

 ペニーはどうも被害妄想癖があるみたい。

「上の建物と石礫の質量に押し潰されていたかも知れないな」

「建物を爆破する時にあっちの偵察機を巻き込んでしまいましたからね、どう思われた事やら」

「でも良かったじゃない、宇宙に漂ってる部品を1つ1つ集めたら元に戻るわよ」

「お前がそれを行うかい」

「遣らないわよ、そんなことをしてたら寿命がいくらあったって足りないわ」

「ある程度は回収したいからな、その方法を皆で考えようか」

「それもそうですけどこれから先十太郎兄さんはイノマンを名乗った方が良いと思います」

 地下深くにあるイノマン研究所でドールが言う。

「そんないい加減なことをしたらダメだろう」

「あら、そんなことはないと思います、銭太郎兄さんはイノマンを名乗ったままバーナード星へ行ったでしょう、オリジナルも地球防衛基地でイノマンを名乗ってるはずです」

「だから私には冥王星のイノマンを名乗れとか言うんじゃなかろうな」

「これからここを再建するのよね、リーダーは誰かってのをハッキリさせといたほうが良いと思うのよ」

「僕たちはみんなイノマンのクローンなのだから誰がイノマンを名乗っても良いのですけどね、なんでしたら僕もイノマン・ドールと名乗りましょうか」

「だったら私はイノマン・ペニーねお兄様はイノマン・十太郎よ全然おかしくなんかないじゃない」

 ペニーがいつものようにはしゃぎ出そうとしてる。

「そう言われてみれば理に叶ってるのかなあ」

「この冥王星を再建していればいずれ地球防衛基地の知るところになりますでしょう、その時にイノマンが居るのではないかと思わせておいた方がその後の展開が有利になると思いませんか」

 ドールが畳み掛けるように言う。

「私たち宇宙船が欲しいよね、地球防衛連盟を誘き寄せるのには丁度いいと思わない作るより奪った方が賢いやり方だもんね」

 ペニーの持論。

「奪うなんて人聞きの悪い表現は止めましょうね貸してもらうのですよ」

「屁理屈ね」

「強奪と無断借用の違いだな」

「まあその時の状況次第で変わりますけど」

「そう言うことで十太郎兄さんはこれからイノマンを名乗るのよ」

「そういうものかなあー」

 十太郎は2人から押し付けられて渋々妥協した。

 冥王星での再建作業を始めるのには人手不足、経験不足、力不足の3拍子が揃っていたので作業内容に合わせたロボットを先に追加で作って実務を行わせている。

 サジタリウス戦艦は地上表面部分の建造物だけを粉々に破壊して去って行ったので地下の資機材や移動していた物品それに地下連絡通路なんかは無事に残っていた。

「でも本当にサジタリウス戦艦の人達が地下まで破壊しなくて助かりましたね」

「地上に降りず空からの攻撃で地下まで破壊しようとすればこの星が無くなってしまうかもしれないと考えたのだろうよ」

「そうだった普通に生活しているとここが氷の惑星ってのを時々忘れてしまうのよね」

「それはエネルギー砲を使わなかった理由の1つに含まれますか」

「いや単にエネルギーをケチっただけだと思うぞ、まあそのお陰で色々再利用出来て助かってるのだけどな」

「しばらくは地上での作業に気を付けないといけませんね」

「何で、見通しが良くなって危険な物なんか無いじゃない」

「これからは上空いや宇宙と言うべきかな、そこへ吹き飛ばされた色々な物が地上に落ちてくるのですよ薄い大気しかありませんからねそのままの質量で落ちてきますよ」

「頭に当たったら死んでしまうって事なのよね」

「まあ単純に考えても小さなクレーター位は出来るだろうな」

「でも落ちてきた物は拾いに行くのよね、あまり壊れてないと良いのだけど」

「原型を留めていれば修理出来るだろうよ」

 如何にも気軽そうに十太郎が言う。

 何だかんだと言いながらあれやこれやを遣っていると月日の流れは早いものであっと言う間に14年が経過していってる。

「ねえ、スピーカーからのノイズが気になるのだけど」

 電子顕微鏡を覗いていたペニーが言う。

 最近は出来上がったステルス機能付き地上ドームの建物内研究所で設備を拡充したり調査研究を行っていた。

「ああ済まないボリュームをもう少し下げるよ」

 イノマン十太郎がそう言ってコントロールパネルを操作しだす。

(完全に聞こえなくするのは心配なんだよな、そんな時に限って重要な情報が飛んでくるのだから)

「ここ最近、日増しにピーピーガーガーとアヒルの大群による合唱みたいなコスモノイズが酷くなってきたじゃないですか思考の邪魔になりますから最小限にしてたのですけど、まだ気に障りますか」

 クリーンルームから白衣を着たドールがスピーカー越しに補足する。

(毎日毎日代わり映えがしない日常がもう何年も続いているからストレスが増してきてるのは分かりますよ、でも爆発はさせないで欲しいなー)

 ペニーはイライラが最高潮に達すると癇癪玉を爆発させて2人の兄に当たって困らせていた。

 他に構ってくれる人がいないのだから仕方ない。

 ドールは今までの経験からペニーが構って欲しい時に発するサインを見逃さないようにして導火線に火が着く前に揉み消している。

「いいえ違うのノイズに混じって人の声が聞こえてきてるみたいなのよ」

「えっ、人の声ですか」

 イノマン十太郎とドールは自分の仕事に集中すると周囲への注意力が散漫になる傾向が強い。

(ここは切るのではなくて音量アップだな)

 イノマン十太郎がコントロールパネルの上を彷徨っていた指で音量を上げる。

「ガーこピーちらスターキッブードガーAI」

(え~っと、この音声信号だけを抽出してっと)

「こちらスターキッドAI……応答願います」

 今度は明瞭な音声がスピーカーから流れ出た。

(なんだか懐かしい声みたい)

 スピーカーから聞こえてくる少年みたいな声にペニーは聞き覚えがあると思った。

 銭太郎とポンドとリラがサロメと一緒にバーナード星域へ旅立ってから25年が過ぎている。

 だから冥王星に残ったペニーと兄たちはそれぞれが持つ過去の思い出に捕らわれ返事が遅れた。

「冥王星基地は無人になってしまったと判断しますよー、いいですかあー」

(もう再三再四の呼び出しにも応じません、ポンドさんから入力された画像データーと一致する場所もありません、エネルギー反応もなしです、これからバーナード星へ戻るよりアステロイドベルトの東域宇宙和平維持連盟地球防衛基地を目指す方を選択します、良いでしょうか?良いでしょう)

 スターキッドAIは1人で自問自答した。

「こちらは冥王星のイノマン、返信が遅れたことお詫びする、全チャンネル受信状態にしていたので電波状態が悪く聞き逃していた、それでどちらのスターキッドさんか身分を明かされたし」

「連盟による新手の攻撃かも知れないから注意一秒怪我一生だよね」

 通信の合間にペニーがチャチャを入れてくる。

「こちらはバーナード星イノマン研究所所属のスターキッドAI、着陸したいのでビーコン誘導お願いしたいです」

「銭太郎兄さんの所のだよ」

 ペニーがドールの袖を引っ張る。

 十太郎は通信に集中してるので注意を反らす訳にはいかない。

「誘導ビーコン発信機はここには無い今は衛星軌道を回っていると思われる、その代わりにと言っては何だが地上ドームシャッター側で狼煙を炊くので着陸後近くまで移動して欲しいその後はこちらで牽引する」

「スターキッドAI了解した、陸上自走機能は無いので近くに着陸しますね」

「AIにしてはえらくフレンドリーな会話をするのだな実はドール本人だろう」

「それはこちらの質問に答えてくれたら教えます、イノマンを名乗るあなたはバーナード星域の戦いでサジタリウス旗艦と共に行方不明になったイノマンさんですか」

「バーナード星のイノマンが行方不明とはどういうことよ!」

「バーナード星の戦いって何ですか!」

 十太郎の通信途中にも関わらず横に居た2人が割り込む。

「2人とも焦っては駄目だなスターキッドが到着してからゆっくり聞こうか」

「話の途中で済まなかった、それで乗組員は誰かな、パイロットはドールだと思うのだけど彼と直接話ができないかな」

「乗組員はパイロットのドール1名のみだけど話はできません全ては到着してからの説明になります」

「了解した、地表は滑りやすいから着陸には十分気を付けるように幸運を祈る」

「垂直着陸てすから大丈夫ですよ」

 冥王星地表に建てられたドーム唯一の出入口外側で誘導ライトによって発せられた光の筋が暗い宇宙へ向け真っ直ぐ伸びていってる。

挿絵(By みてみん)

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