38.サロメの荒城
北方星域混合艦隊総司令官カフ星人ネイルが率いる戦艦2隻と護衛艦2隻補給艦1隻からなる北方星域混合艦隊乗組員6千人はサジタリウス艦隊が近づくのを待たずして木星方面へ待避していた。
「兄さんそういう話を聞いてましたか」
「いや、全くわからん」
「訝しいこと極まりないですね」
3人とも誰かが説明を聞いているのだろうとしか思っていない。
「奴らは最終的に何処かへ逃げていくとは思っていたがこの仕打ちは酷くないか」
十太郎が憤慨してる。
「また戻ってくるのよね、だったらせめて一時的避難と言ってあげましょうよ、ただ宇宙海賊とか隕石とかから守ってくれる人達が居なくなっちゃったのは不安かしら」
ペニーが言う。
「まだサジタリウス艦隊の到着まで2ヶ月はありますからそれまでにどうやってここを守るか考えなくてはいけなくなりました」
ドールは呆れているけど直ぐに現実へ目を向け行動しようとしてる。
「スリット航法とか知られたくない事と関係があるんじゃないのかなあ」
「何にせよ残った私達だけでギリギリまで対応しなくてはいけなくなったな、エネルギー完全停止は中止かな」
(あのカフ戦艦を取り纏めているネイル艦長を上手く利用してサジタリウス艦隊をコスモトンネル方面へ誘導する囮作戦はできなくなってしまったか、いや逆に私達が囮にされてしまったのかも知れないな)
十太郎は心内に持っていた計画が破綻してしまったことを残念に思う。
「基地を守るための艦隊が一番最初に逃げ出すって誰も考えないからね」
ペニーが誰もいなくなった宇宙を仰ぎ見ている。
「今更だけど守備用の攻撃設備が必要でしたと反省します」
「反省は必要なことだと思うけどな今はこれから先どう対応するかを決めないといけない、ここに残ったのは私たち3人だけになってしまったのだからな、この際だ何か言いたいことはないか何でもいいぞ」
「これで死んだフリ作戦が出来なくなっちゃったね」
ペニーが堅苦しくなってきた雰囲気を和ませようとしたけど滑ってしまったみたい。
「ここはサロメの居城なのだろう、それなのに当人はここがどうなるのか知ることもできないのは憐れなものだ」
十太郎の話を聞きながらドールは何か悪巧みをしているみたいな薄ら笑いを浮かべてる。
「いま通信したらバーナードにも仲間が居るってバレちゃうからやめたほうが良いのよね私達だけで決めちゃっていいのかなあ」
「サロメとジベルはここが連盟の攻撃対象になることを予想して離れて行ったんだからな覚悟はしてるさ」
「だったらいっそ爆発させてしまいましょう」
ドールが他人事のように言う。
「勿体ないよー」
ペニーがびっくりしながらも即答した。
「そうか、ある程度破壊しておくことによってそれ以上の攻撃は無意味だと思わせるのだな、良い案だと思うし計画的に壊すのであれば再建も楽になるだろうから私は賛成だ」
2人の兄がペニーに視線を向ける。
「え~っ、私はお兄様達には逆らいませんよー」
ペニーは自分の意見は出さずに従うことにした。
「そうと決まれば早々に作戦を練ろうか行き当たりばったりでは事が上手く進む訳がないだろう」
「まずエネルギー完全停止は行う必要がなくなったでいいですか」
「そうだなエネルギー炉の暴走によるものとしてもいいし……隕石が落下したってのは少し無理があるかな」
「良いんじゃない隕石が落下してエネルギー炉が暴走したってのは説得力があると思うよ」
(一体誰が誰を説得するのかな)
十太郎とドールはそう思ったけど口にはしなかった。
「カフ艦隊が攻撃したことにするのも良いかもですね仲違いしたことにすればサジタリウスの人たちに同情してもらえるかも知れませんよ、既に居なくなっていますので辻褄合わせはできませんからね」
「それがいいかも知れない悪役の存在で説得力が増すって事だな」
「そっちの方が適当に爆薬仕掛けるだけで済むから簡単ですね、いつ実行します」
「このやり方ならギリギリまで待っても問題ないだろうカフ艦隊はスリットが使えるのだから突然消えても不思議ではない」
「いままさに攻撃されましたって臨場感を出すのよね」
「そうなったら改めて攻撃しようなんて気も起きないだろう、素通りするか何が起きたか確認のための調査に訪れるかだな」
「そうしましょうそうしましょう、まだ先の事でしょうその時まで自由気ままに過ごせるのよね」
ペニーが踊り出す様にステップを踏んだ。
「そうはイカの何とかですよ」
十太郎の品のない冗談にドールとペニーは白けてしまう。
「地上のカムフラージュとか地下研究所の補強なんかは私たちだけでやらないといけないのですね」
ドールはそう言って嫌そうな表情をする。
「新しいクローンも地下で育成中だったね私が面倒見るから」
「ペニーには地下研究所の全てを任せるから」
ドールがやんわりと押し付けた。
「その前に地上の建物から持ち出せる大事なものは安全な場所へ移動させるぞ」
「え~っ、貧乏臭いな~」
ドールが十太郎の方を見て冗談だろうって表情をする。
「重たいのは嫌だなー」
ペニーもそれに倣う。
「しょうがないな簡易荷役ロボットを先に作ろうか、それならいいだろう」
十太郎は2人の機嫌取りに掛かった。
冥王星が目視確認できる距離まで近付いてきたサジタリウス艦隊旗艦の指揮卓ではアルカブ艦長が艦橋の巨大スクリーンを指揮棒で指し示しながら真横に控えるポステリオル参謀へ話し掛けてるところ。
「何が戦艦ネプチューンだ、海王星周辺にはハエの子1匹たり飛んでなかったじゃないか海王族は相変わらずの鎖国を続けてる様だったしな奴らが出て来る事は当面ないだろう」
「何でも族長リバイヤサンの冤罪が晴れて解放されるまでは続けると宣言してますね」
「あれは現行犯だと報告書に記載されてたからどう転んでもひっくり返るとは思えない、何を期待しているのか全く分からん連中だ」
「救世主か何かが助けてくれるのを待ってるのでしょうかね」
一息入れるためのチャイニーズティーをお盆に乗せて控えていた本日の雑用係が口を挟む。
「救世主と言ったら56億7千万年後に地球を破滅から救うとかいうあれか」
「いくらなんでも長すぎますね」
「そんな妄想に時間を割いてやる必要は微塵もないな」
アルカブ艦長はいつまでも雑用係が立ちっ放しなのを気の毒に思い盆に乗った2つのティーカップを取り上げ1つをポステリオル参謀に渡す。
「偵察衛星による情報が正しければ8時間後に攻撃ポイント到着です」
2人がお茶を飲み干しカップを盆に戻した丁度その時に艦橋主任が航海士からの報告を伝達してきた。
「応戦する気配は相も変わらず全くない、やはり無人になってるのだろうか」
「偵察機から得た情報で60日前に冥王星から木星方面へ戦艦を含む艦船が航行していくのを確認した後は無人惑星と言える状態が続いています」
ポステリオルがディスプレイ上に広げた航行日誌を指差して事実だけを言う。
サジタリウス艦隊旗艦には極めて高度な索敵能力が備わっている。
「だったらあの爆発はなんだったのだろうな」
アラカブ艦長は4時間前の就寝中に冥王星表面で大爆発発生の報告を受け不機嫌な面持ちで艦橋に来ていて今やっとそれが治まってきたところ。
「無人偵察機が攻撃地点の最終確認を行うため基地上空で低空飛行へ移行した時に爆発してますので我々が着陸するタイミングを狙ったのではないのかと推測されます、敵の思惑は外れましたけどこれで爆破の手間が省けたのではありませんか」
(不機嫌な艦長だったけど無人機1機で破壊出来たのだから機嫌良くしてくれないかなあ)
ポステリオルは期待する。
「いや、当初の予定通り冥王星の表面から建造物が全て消え失せるまで……そうだな石でもぶつけてしまえ」
「了解しました、石礫弾による攻撃を開始します」
(冥王星からの反撃がないのと高層建造物が粗方爆破によって破壊されたので思ったより楽な仕事になって助かったな)
総司令官のアルカブ艦長は帰途の途中とはいえ煩わしい依頼を軽はずみに受けてしまったという自責の念に駆られていたのだった。
「石礫弾発射完了しました、あと6時間後の冥王星通過時には成果を目視確認できます」
冥王星表面を平らにすることで依頼達成出来たように思ってる。
「わかった有難う、全艦に作戦完了の通達とそれに伴う臨戦態勢の解除とローテーション休暇が与えられた事の連絡をして下さい」
(百年祭で新しく地球防衛基地の総司令官になったオビスとか言ってた奴は他人を頼るタイプみたいだから何かある度に助けを求めてくるかも知れん、こんな辺境に度々呼び出されたくないからなこれだけ平らになればオビス司令官も満足だろうよ)
まだ冥王星表面の雲海は波立っているけど建造物の一欠片もないことは分かってる。
アルカブ艦長は冥王星表面にある建造物を破壊するということだけを最初から考えていた。
だから戦艦ネプチューンがどうのとか木星方向へ航行してるカシオペア艦隊には見向きもしていない。
「コスモトンネルへ向けて進路調整、全艦全速前進」
(さあ急ぎ足で帰るぞ)
まだ見えない我が家への思いが太陽系から一直線に伸びて行った。




