37.危機の予感
冥王星基地は3つある高層建築物の屋上からドーム状に硬質フィルムを展開し守りを固めていた。
そのメインタワー上層階にある食堂でイノマンクローンの3人は昼食をしながら雑談している。
雑談といっても各自に割り当てられた進捗と今後の予定についての連絡会議みたいなもので日課になっていた。
「おっかしいなぁー、戦艦ネプチューンのことを気にしてる筈なんですけどね何故に海王星の門を叩かないのでしょうか」
十太郎が腕組をして首を振り子の様に揺らす。
「いて座の人達はネプチューンなんかどうでもいいと思ってるんじゃない、どうするのよ」
ペニーが兄たちの前にコーヒーカップを置いている。
「あの進軍を見るに目的地は冥王星と決めてるのでしょう」
ドールが言う。
ペニーが運んできた情報の真意を見極めるため十太郎は連盟が配置してる偵察衛星の信号を掠め盗ってた。
「まあサロメの愛するジベルが最初から冥王星にレジスタンスの基地があると宣伝していましたからね仕方がないと言ってしまえばそうかもですね」
十太郎はもうひとつくらい工夫をすれば良かったかなと思いながらコーヒーカップに手をのばす。
テーブルには食べ終わったお皿が重なってる。
オートレンジへの入力と配膳はペニーが担当していた。
最初の頃それぞれ好きなものを好きなだけオートレンジで調理し食べれば良いと任せていたら十太郎とドールが恐ろしいことをしていたから。
2人は自分達の料理を入力する手間を省くためなんの躊躇いもなくアゲインボタンを押していたのだった。
これは前回と同じ料理を出すもの、皆が使うオートレンジで出される料理はそれぞれの種族に合わせた品が液体・個体・ジェリー状に調理され出てきている。
だから一見しただけでは誰が何を食べていても違和感はない。
だってそうだろうイカの活き造りを食べているのをイカトス人に見られでもしたらその場で殴り合いが始まってしまう。
『まあ、食べられないことはないな』
そう言ってトーストを噛りながらコーヒーをすする十太郎の食事を中断させてメニュー詳細リストを表示した時ペニーはその場でブラックアウトしそうになった。
十太郎が食べていたのはリザード星人専用の料理だったのだから。
メニュー詳細はアレルゲン表示みたいなもので例えばアルカロイドはウッディ族の好物だけど他の種族が食すれば死んでしまう。
そんな危険を十太郎とドールは平然と冒していたのだった。
冥王星へ来た集団にウッディ族が居なかったのは幸いなこと。
それに不公平極まりないのだけど地球人の料理は他のどの種族でも食べることができた。
それがたとえ共食いになったとしても。
まあ本当にそうなる食材は使用されてないけど地球人用の料理メニューでは表現上そうなってしまう。
他には馬刺、牛丼、豚まん、エビフライ等がある。
そして異星人たちは地球人の食べ物を好む傾向にあるのだけど「あんなに旨いものを食ってる地球人はさぞかし旨いのだろう」とか連想されたくないペニーは注文順番に気を使っていた。
彼女が使った後のオートレンジでアゲインボタンを押してもミネラルウォーターしか出てこないようになってる。
新しいクローン体に移った頃は地球人標準年齢で7歳の姿だったので他の異星人たちからは『小さい子供のやる悪戯なんだから可愛いものだ』と思われて真意を悟られることはなかった。
本当は記憶と幽体をそのまま移してるのだから見た目が幼いからと言っても中身は成人女性以上のものがある。
そういう利点を最大限に生かしてペニーは異星人の間を強かに渡り歩いていた。
十太郎とドールは傍らから見てヒヤヒヤしていたけど口にまで出しては言っていない。
その2人は『あのギャップには萌を感じるな』とおじさんみたいに思っていた。
まあ確かにペニーがニコニコ笑顔で厳ついリザード星人に近づき「これ私が作った地球のお菓子なの美味しいと思うから食べてみて」と言ってお皿を差し出す。
『自白剤入りなのよ』と言わないところがミソである。
ペニーによる情報源の一つになっていた。
そんなこんなを続けながら月日は流れてきている。
「でもでもあの艦隊がここまで来るのにあと2ヶ月は掛かるのでしょう、時間はたっぷりあるのだから準備をしっかりしておけばいいんじゃないかしら」
ペニーがやめとけばいいものを2人の兄に対して可愛い子ぶって言う。
「まあ時間があるのは良いことだ」
十太郎は何時ものように平常心。
「なあペニーいつもそんなに自分を偽っていて疲れるとかしないのかい」
ドールは緊急時に本来の能力が発揮できなくなるのではないかというズレた発想をしてる。
「あらあらお兄様、何が偽りで何が真実なのかその境目は何処にあるのかしら、心が曇っていては真実まで偽りに見えてしまいますわよ」
(ほら言わんこっちゃない仕返しが怖いぞ)
十太郎が心の中でほくそ笑みドールへ視線を投げた。
「いやいや言葉遣いがだよ僕たち兄弟の間だけなら気を遣わない砕けた話し方でも良いんじゃないのかい」
ドールは舌戦になるのを避けるために話を誤魔化す。
「おとなしくしていても、艦隊はやって来るのかあ~」
十太郎が無理矢理に話を逸らし元々の話題をあげた。
「今こそ静かになってますけどほんの10数年前まではドタンバタンとしてましたからね、調査には来るでしょう、逆に来ないとなるとおかしいので別動隊の存在を考えないといけませんね」
ドールはその話題を受け止める。
「あの人たちは故郷に帰ってるのでしょう、ほら惑星直列の調査で分かったことだけどいて座方面からのコスモトンネルが延びてきてたじゃないそれに入るつもりなのよ、だからこっちに向かってるのこんな静かになった星には興味ないんじゃないかと思いたいのよねそれにもし別動隊がコソコソ来てるんだったら外回りを担当してる人達が気付く筈よ」
ペニーが波に乗るように話しに加わる。
(希望的観測にしか聞こえないけどな)
十太郎とドールはそう思った。
「そうかも知れないペニーはここを素通りしてくれると思っているのだね」
十太郎は多彩な感情を持つ彼女に刺激を与えないように気を遣った。
「それはともかくとして防御シールドとステルス機能の強化を最優先に考えないといけませんね」
ドールがこれからしなければいけないことの優先順位リストをもう作ろうとしている。
「そうだな色々と対応していれば2ヶ月なんてあっという間に過ぎてしまうかもな」
「上の人達はどうするのでしょう、情報はあっちから得たのですよね」
上の人達とは冥王星に残ってくれた戦艦2隻と護衛艦2隻補給艦1隻からなる北方星域混合艦隊乗組員6千人のことでヒューマノイドタイプのカフ星人が4千人と殆んどを占め残りはリザード星人を代表とする宇宙人とか中にはエイリアンも居る北方星域から来た軍人のこと。
最初から十太郎たちに誤りがあった。
東域宇宙和平維持連盟は冥王星に陣取ったレジスタンスを調査するための部隊は編成せず百年祭に参加していたサジタリウス艦隊が故郷へ帰る途中で少しだけ冥王星表面をなでてもらうように依頼してる。
言葉による調和ではなくて武力による排除を選ぶ、そんな依頼が起きるであろう事までは思いが及んでいない。
そんなある日、冥王星上空のカフ星人戦艦艦長の元へ秘匿回線による通信が入る。
地球防衛基地ヘンナ副司令官からのものだった。
「あっちは50隻こっちは5隻なのよ算数の問題にもならないわ」
ペニーが膨れっ面になってる。
「最初から見つからない所まで避難させていたほうが良いのではないでしょうか」
「そうだなそうして私達も地下に潜むとするか」
「この基地は無人だって思ってくれたら良いのにね」
「その手があったか、全てのエネルギーを停止したとしてだ全くの無人施設にカムフラージュするのに間に合うかだな」
「そうですねー、残留エネルギーとか蓄積熱量をゼロにするまでには……と最低でも600時間は必要ですね」
「25日よね十分間に合うじゃない」
「そう簡単なものでもないぞ、エネルギー停止にした途端にこの施設は無防備になるのだからな」
「そうか隕石とか宇宙海賊とかですね」
「宇宙海賊なんて言葉でしか知らないからね1度くらいは見たいなー」
ペニーが目を光らせた。
「太陽系は連盟によって統括管理されてますでしょう、だから海賊は出没してませんけど太陽フレアーの外側では頻繁に出没してるという報告履歴がありますね」
「知ってる知ってる、でもあれは海賊ではなくて何でも人喰ガルメニア人のことでしょう襲われた宇宙船は跡形もなく消えてしまうので誰も見た人がいない、だから噂だけが広まってるのよね討伐隊を組んでも出くわさない、出てこないらしいじゃない」
「不思議な話だと思いますよ、そういう事だとエネルギー停止開始時間を厳密に調整しなくてはいけません、あと私達はどうします」
「上の人達と一緒に避難するのが最良の策だど思うけどドールとペニーは賛成かな」
「私はカフ星人の戦艦に乗りたいですねスリットの謎が解けるかも知れません」
「私は嫌よあの人達のことどうしても好きになれないの話す言葉が妙にきれいすぎるでしょう、偏見ではないけど腹黒星人じゃないかと思っちゃったりして」
「そういう思い込みは止めましょうね」
「ペニーだけ残るで良いのかな」
「いや、残るのなら全員です3人がバラバラにならないようにしましょう、まあ確かに今の指揮を取ってるカフ星人のネイル艦長は切れ者過ぎますからお近づきにはなりたくない人物ですね」
「じゃあ3人が地下室で土竜のように過ごす段取りを付けなくっちゃね」
(モグラのように過ごすってどういうことだ)
十太郎とドールはペニーの思考を訝しんだ。




