33.離別
バーナード星の外縁部でレッドフラックス人工惑星基地の完成式典という名の下で宴会が催されていた時の事。
宴会にはつきものの隠し芸大会みたいなもので各戦艦主砲による乱射乱撃が行われていた。
最後の標的となった少し大き目の隕石を我先に撃ち壊そうとそれぞれの戦艦が秘密兵器を取り出す。
最初に当たったのは何よりもスピードで勝っている一般攻撃用光圧縮弾を放ったとかげ座ラケルタ型戦艦だった。
しかし破壊力がいまいちなので隕石表面にヒビが入る程度。
次がカシオペア座カフ型戦艦のグラビティーキャノン高質量ジェル弾を立て続けに撃ち込みミニブラックホールを発生させ対象物を破壊する。
1発目の着弾は早いのだけど重力弾を重ね掛けするタイミングが難しくミニブラックホールが発生するまで時間が掛かってしまう。
そしてイノマンが設計した戦艦ネプチューンの新兵器トライアングルウエーブキャノン。
これは何もない真空空間に漂うミストを集結して三角波を作り対象物にぶつけて共振破壊させるもので分子レベルに還元される。
カシオペアのシェダル艦長に与えたスパイダーシルキーキャノンは相手を拘束して身動きできなくするもので破壊能力は実のところあまりなかった。
イノマンとしては将来敵になるかもしれない相手にそうホイホイと破壊力が高い武器を作って渡したくない考えもあったのだろう。
それでも今回の攻撃では時空間さえも絡め取ったのかも知れない。
コスモトンネルの中を移動していた中央連盟艦隊をこちら側へ引きずり出してしまってるのだから。
そしてトライアングルウエーブキャノンの余波により20隻10万人を無に帰してしまった。
そんなこんなでイノマン達は中央連盟艦隊指揮官アルカブ艦長に追われる羽目になる。
戦艦ネプチューンは猫にいたぶられるトカゲの様にボロボロになりながらも逃走していた。
イノマンの機転で時空の狭間へ逃げ込むのだけど直ぐ後ろまで接近していた戦艦サジタリウスも一緒に付いて来てしまう。
そして、ケンタウルス座アルファ星近くでとうとう機関を停止して投降した。
その時、現世との間で時差が発生していて7年の月日が経過している。
バーナード星外縁部で悲惨な事故が起きる4時間前、シルバーシップ艦長のサロメは人工惑星基地へ一足早く戻るために同行希望者を募ってスリット航法が使えるリザード艦に先導してもらい帰途の途中、もう少しでスリット開始地点というところでイノマンが発した「全艦逃げろ」の信号をキャッチした。
その後シルバーシップ乗員の殆んどをリザード艦へ押し込みイノマンと一緒に居るはずのジベルの元へと急ぎ引き返してる。
途中でサロメの補佐をしているミンツ隊員が「機関停止させなければ攻撃する」という内容の通信を傍受したことを伝えてきた。
「ジベルが無茶なことをしなければいいのだけどな、まあイノマンが止めてくれることに期待しよう」
サロメが自分に言い聞かせるように口にする。
「前方距離0.5光秒15万Kmの敵艦4隻が射程内に入ります」
外部環境担当で通信と索敵を受け持っているアナンが報告してきた。
「こっちのステルスはバレてないよな」
「大丈夫ですよ、相手の通信はバラバラになってる艦を集合させるものばかりです」
「少しは安心できるのかな、でも気は抜くなよ」
これも自分に言い聞かせるために口ずさむ。
異変に気付いた時にサロメはジベルを気遣って通信しようとしたところをミンツが制止する。
「通信を傍受される危険性があります」
彼はレッドフラックス隊員の 中では一番若いけど誰もが認めるほど賢い。
だからサロメも黙って従っている。
「あの中に突っ込んでも得るものは何もないと思われますから迂回しましょう」
ミンツがサロメの横に来て言う。
「ジベルいや、ネプチューンと中央連盟の戦艦が消えた地点までの時間はどうなる」
(迂回することで時間が掛かるのは嫌だな)
「殆んど変わりません。あの戦闘があった場所の調査は奴らが居なくなってからでも遅くはない筈ですので先にネプチューンの消失地点へ行きましょう」
サロメはミンツの説得に応じることにした。
ネプチューンと中央連盟の戦艦が消えた場所に到着して戦艦の残骸が無いことを確認し安堵の吐息を漏らす。
「これで時空を越えたと考えて良いのだよな、後は過去に行ったか未来に居るのかさえ分かればいいのだけどな」
サロメはそう言うと心細そうにミンツの顔を覗く。
「2、3年先に行ってると思われます」
「それは希望的観測じゃあないのか」
「光解析での検索では亜光速以下での消失になってますので過去には跳べてない筈です。だから未来へ行ってると思われます。消失のタイミングから計算しますと5年未満になります」
(計算はAIがやったのだろうけど相変わらずの秀才ぶりだね)
「過去でないのなら良かったよ、また会えるんだからね」
「そういう事ですので、今度はゆっくりと事故が起きた現場検証に行きましょうか」
「ゆっくりってことはまだ居るのか」
「居ますね、リザード星人達は早々にスリットで逃げたみたいで、残されたカシオペア艦3隻が逃げられなくなって2隻が破壊されて1隻が捕虜になってますでしょう。だから破壊した戦艦の生存者を探してるのか、又はネプチューンと共に消えた味方の艦が戻ってくるのを期待して待ってるのかも知れません」
「そんなことをせずに捕虜を連れてさっさと帰ってしまえってんだ」
「あちらのAIが未来に跳んだと結論付けてくれたら次の目的地へ向かうでしょうからもう暫くの辛抱だと思いますよ」
ミンツが宥めるように言ってるのも癇に障ってくる。
「向こうに到着するのは3時間後でいいんだよな」
だから少しつっけんどんに言ってしまう。
「おおよそですね、そのくらいです」
「じゃあ、休憩しても良いんだよな」
サロメは少し心の安静が必要だと思った。
(3年後ここにジベルが乗ったネプチューンが現れるのだよな……中央連盟の戦艦も一緒にだよな、ならばそれまでに戦力を整えてお出迎えしようじゃあないか)
その時彼女は凝り固まった自分の考えにハマり込んでしまって間違えた結果を導いてしまう。
ミンツもミンツでAIが1年から5年以内で半径5光年範囲内に現れると出した答えがあまりにも漠然としていたしサロメが過度な期待をしないように言い換えていたのだった。
その時はまさか3年後に艦隊を組んでここに布陣して待ち構えるなどとは思いもしない。
それはさておきシルバーシップがゆっくりとした速度で目的地へ向かっている途中で出会った巨大隕石にサロメは引かれるものを感じ取った。
「あの時ネプチューンは2度この隕石を回ってたよな」
独り言の様に言う。
「回ってみますか」
「もちろん」
「共鳴反応キャッチしました」
「あの隕石表面に味方の船が居るとでも言うのか」
「極指向性信号を送ってみます」
巨大隕石にはネプチューンから脱出した小型艇が潜んでいたのだけどお互いがステルスモードを発動していたのでどちらからでも黙視での確認はできていない。
「救難信号での返信ありました。ネプチューンの小型艇です。5隻で498人居るそうです」
「後部倉庫ハッチを開けて資材を投下しろ、空いたスペースに小型艇5隻を回収する」
(もしかしたらジベルが居るかも知れない)
サロメが一抹の希望を持ってしまう。
その後ジベルとイノマンの2人だけで敵艦5隻を引き連れてケンタウルス座方面へ去っていったという話しをタケダが持っていたホログラフィーを受け取りながら聞く。
それからのサロメは人が変わった様に刺々しくなっていった。
バーナード星の人工惑星基地はポンドとリラの機転で主星の影へと避難していた。
それでもサロメのシルバーシップとリザード艦が戻ってきてることを知るとビーコンを発信して人工惑星宇宙港へと誘導してる。
ポンドとリラは外縁部で何が起きたのか断片的な通信しか入ってきてないので詳しくは知らなかった。
だからサロメから詳しい話を聞こうと思って検閲所出口で待ち構えていたのだけど彼女は側近に取り囲まれたまま近寄り難いオーラを発している。
(どうしちゃったの、まるで別人になってしまったみたいだよ)
リラの不安を察知したポンドがサロメの視界に割り込み気を引こうと手を振ってみる。
「あんた達のイノマンから連絡はあったかい」
サロメから近寄ってきて声を掛けてくれたものの口調は固く態度も冷たい様に思えた。
無事に帰ってきたことへの再会を喜べる雰囲気にはとてもならない。
「いいえ……ありません」
豹変したとも思える彼女の態度に気圧され下を向いたまま固まってしまってるリラを庇うようにしてポンドが返事する。
だけどポンドも言葉が詰まって泣きそうな声になってしまう。
(何だかサロメ姉さん私たちを嫌いになったみたいに思わない)
リラはこの不安な気持ちに1人で対抗するのは無理だと思いポンドの手をそっと取る。
この会話が弟妹と同じよう愛されていたサロメとの最後の言葉になってしまうのだった。
「サロメ姉さんはどうしたのかしら」
リラが答えの出ない問題用紙を投げ出すように言う。
「そうだね全くの別人みたいになってしまってる」
「私たちは何も悪いことなんかしてないわよね」
「そうだけどジベルさんと一緒に居たイノマンいや、銭太郎兄さんが何かしでかしたのかも知れないよ」
「何が何だかわからない、もっと情報が欲しいと思わない」
そう言ってリラがポンドに詰め寄ってきた。
本来ならサロメの横で一緒になって楽しく笑ってる筈。
だけど今は近寄ったらもっとダメになると思い『自宅に戻って今後の対応について検証します』とサロメと親しいミンツを探し出して言伝てをお願いした。




