32.拘束
イノマンのクローン達は培養槽内で育ってる時にオリジナルデータをコピーされている。
その記憶の中には紀元前、地球を破壊しまくり冷凍監獄に投獄されて移民船エム08で宇宙を彷徨っている宇宙怪獣リバイヤサンが居た。
今、一縷の希望をそこに求めて探している。
だがしかし、肝心のエム08は太陽系からケンタウルス座アルファ星へ向かう途中で自然現象の一種になるコスモホールに落ちて予定より大幅に航路を先へと進んでいた。
索敵に掛からない事を確認したイノマンは焦ることなくその可能性に辿りつく。
「機関を停止するぞ」
イノマンが言う。
「自爆するのか」
ジベルが言い返す。
「いや、話し合おう」
「何だって、聞き損なったみたいだ」
「奴らを招き入れて謝ろうと言っている」
「正気か、お前らしくないぞ」
「奴らが攻撃して捕まるより、こちらから投降の条件を出して受け入れてもらった方が都合がいいと思うのだがな」
「条件ってのは何だ」
「艦長と私の身の安全を保証させる」
「そうか、問答無用の縛り首は免れるってのだな、こちら側の弁明も聞いてもらえるようにしてもらおうか」
「善処しよう」
(しかし言い訳程度では何ともならんと思うけどな)
イノマンは予め用意していたメッセージを後方から追い縋ってくる戦艦に向けて発信した。
「艦長、戦艦ネプチューンから入電、転送します」
「今更何を言ってきても無駄だからな、まあ、『ロープか電気』の好きな方を選ばせてやるくらいなら話に乗ってやろうか」
そう言うと転送されてきた通信文を読み始めた。
「ポステリオル参謀の考えを聞かせてもらえないか」
アルカブ艦長は自分の迷いを参謀に押し付ける。
「え~っと、『聡明なる艦長殿へ、先ずは先の不幸な事故について心からお詫び申し上げる、然るに貴殿等の一方的な攻撃は野蛮人の行いの如し、寄って我々の道は逃走にしか非ず、冷静且つ人道的立場に立ち戻るのであれば我ら交渉に応ずる。バーナードのイノマンより』私には意味が分かりませんけどね、ただ心配なのはアルファ星が攻撃の射程距離内に入ってますね、それを最初の文言で暗に示しているのではないかと思います、このバーナードのイノマンとかふざけたことを言う人物とは1度話しをしてみても良いと思います」
「そうか、奴らが持つ新兵器にも興味があるし、苦し紛れでアルファ星に向かって無差別攻撃を仕掛けられても面白くないからこっちに呼ぶとするか」
それから小1時間もしない内にジベルとイノマンを乗せた脱出ポットが戦艦サジタリウスの小型艇溜まりに回収された。
何せ2人だけしか居ないので返信を受け取ったイノマンはジベルが愚痴り出す前に腕を引っ張って艦橋備付けの脱出ポットに押し込む。
「肝を据えたならこれから先何も言わないことだ、さあ行くぞ」
そう言って戦艦ネプチューンから飛び出して出ている。
戦艦サジタリウスで受け入れ体制を取っていた面々は驚きを隠せなかった。
それは外部環境索敵士の叫び声から始まる。
「戦艦ネプチューン艦橋付近から脱出ポット射出!こちらへ向かってます」
「回収ネット準備!軌道予測と最接近時刻を計算して報告しろ」
(一体何を考えてるんだまさか撹乱しようとしてるんじゃないだろうな)
「カプセル回収予定計算出ました。現時点では90秒後に小型艇進入口付近です」
(向こうも計算の上か……時間は無いな)
「回収ネット展開、ネットに包んだまま艦外にて検査する、間違っても安全が確認されるまで艦内に入れるな爆発するかもしれんからな」
アルカブ艦長は猜疑心にさいなまれていた。
苛つく心を抑えながら報告を待つ。
「報告します。脱出カプセルの中から地球人2名を救出しました。爆発物は無しです」
(思ったより早かったな)
「地球人はこちらからの連絡艇で移送する。お前立ちは引き続き戦艦ネプチューンの脱出カプセル射出口より進入、内部を調査し報告の事」
一見人使いが荒い様に見えるけど彼らは危険物専門調査班で乗っている作業艇は小規模な超新星爆発にも耐えられる構造になっている。
何しろ連盟が所有する艦船は恒星の核を動力源としてるのだから。
「乗組員全員をあの巨大隕石へ下ろしたと言うのだな、まあその通りだろうよ何処を探しても他に乗組員が見当たらないのでは信じてもいいだろうさ」
小型艇溜まりに近い作業部屋を間仕切って臨時の取調室にしてる。
そこでは今、イノマンとジベルの取り調べがアルカブ艦長直々で行われていた。
「そろそろ今日の交渉は終わりにしませんか」
イノマンが疲れた表情をして言う。
「それはこちら側で決めること、それにお前らは単なる捕虜であってそれ以上でも以下でもないましてや客人であろうはずがあるものか」
アルカブは目の前の2人をどう扱ったらいいのか思案を巡らしてるのだけど話をしてる内にイノマンに対して好意を持ち始めている。
それに反するように何を言っても『さあ殺せ』としか返事しないジベルには辟易してた。
ジベルは心の拠り所にしていた戦艦ネプチューンから脱出する時にイノマンから言われてた『交渉は私がするからあなたは黙っている様に』の言葉が頭の中で反響して段々と不貞腐れていっている。
(もういい連盟への復習も叶わないままおしまいだ。これからはイノマン、お前がやり易いように悪いことは全て俺に押し付けて殺せばいいさ)
いくらジベルの頭が悪いとしても事ここに至っては『俺たちは悪くない』といくら力説したところでどうにもならないということくらいは理解できた。
誰かが『悪者』になって責任を取らなくてはいけない。
それになり得る人物は今ここに2人だけしか居ないのだから天才イノマンに今後の全てを賭けようと思っている。
だから余計なことを言ってイノマンの足を引っ張らないように質問には全て『さあ、殺せ!』と返事してた。
(ジベルには何も言うなと言ったと思ったんだけどな)
イノマンはやけっぱちになってるジベルのことが心配になった。
「それじゃあ今までの話を纏めても宜しいでしょうか」
「聞いてやるから話してみろ」
「何度も言ってます通り今回の件は事故だったということ、全ては私の開発した新兵器によって起きた予測不可能な出来事だったので私たちに過失責任はない筈です。しかしあなた達にとっては中央連盟艦船20隻の損失とその乗組員10万人の命に対する補償が必要になってるし慰謝料と生き残った人たちに対して見せしめも必要になってきてるということで宜しいのでしょうか」
「まあその通りとまではいかないが妥協点ではあるな、だがお前たちは補償しようにも金がないときてる。それを戦艦ネプチューンとイノマンお前の頭脳で支払えないかと言う、ジベルはただのお飾り艦長だから解放しろとな、それは無理な話だ、あれから2年が経過してる巨大隕石の陰に下ろした500人の仲間が力を付けて血眼になってお前達のことを探してるだろう……ジベル君には囮になってもらおうか」
アラカブ艦長の辛辣な言葉と考えにはイノマンでさえ太刀打ちできなかった。
(ジベル艦長を助けにやってくるだろう仲間を一網打尽にしようってんだな、レッドフラックスのことはまだ話してないけど果たしてこの男に脅しが聞くとは思えないからなどうしたものか)
「私はどうなってもいいがジベル艦長は放してはもらえないだろうか、アルカブ艦長が言われるように2年も経っているのなら仲間が助けに来てるはず、それは500人とは限らないもっと想像以上に多いと思いますよ」
できるだけ刺激しないように脅しを掛けてみる。
「中々に仲間思いがあるじゃないか、そんなにこいつの事が気になるか、あはは、そうか分かった女だなお前一人無事で帰ったらその女に八つ裂きにされるのかもしれん、それも面白いがお前も帰れないのだからな安心していいぞ」
「私は囮には使えませんよ、ただの太鼓持ちですからね」
「そうだともお前は奴らの知恵袋なんだろう、これからは私に遣えて貰おうか、それがジベルの命を繋ぎ止める鎖となるのだから逆らうなよ」
(そうきたか、ジベルの命を枷にすれば私が逆らえないと思っているのか、確かに古典的だが一番有効な手段でもあるよな)
「分かりました降参です従いましょう、1つお願いを聞いて貰えるとすればジベルをアルファ星に預けてはもらえませんか、あそこは表向き地球人類の移民先になってますが地球人がアルファ星から出て行くことはありません。言わば監獄なのですよ、ジベルを閉じ込めておくのに丁度良くありませんか」
「なるほど、お前は監獄だと思っているのだな、いずれは分かる事だから先に教えても問題ないはず、アルファ星は選ばれた地球人による祈りの場なんだよ、まだ試験中とかいう理由で私も詳しくは教えてもらえていない」
「だったら尚更ですよ、ジベルはアルファ星行きに選ばれた地球人なのですから、ちょっとした勘違いで逃亡したのです。間違いを訂正する機会を与えてはくれないでしょうか」
「いくら頼まれてもそれは無理だ、彼は犯罪者として投獄されなければいけない……そうなる理由を君なら分かるだろう」
「単なる事故でしたで済ますことが難しいのは分かります。誰か1人でも攻撃されたという事実だけを強調して言ってしまうと大事になりますからね」
「君の言う通りジベル君を探すために彼の仲間が500か5000かは知らないがこの宙域に集結してるのだろう、私の仲間もこちらへ向かってる……かも知れない、只でさえ君たちは脅威な存在なのにそれが反逆者と聞いては討伐隊を編成しなければいけなくなる。彼には悪いがスケープゴートになってもらわないと収拾がつかないのだよ」
そういう彼の心は銀河中心方向にある故郷、いて座β星へと思いを馳せていた。




