31.賭け
戦艦ネプチューンは後方からの攻撃で推進装置の1部を破壊されてスピードが出せなくなっていた。
そして真後ろに迫ってきたサジタリウス戦艦5隻のいたぶりにも似た光圧縮エネルギー弾の集中砲火に耐えている。
今、ネプチューンの艦橋にというよりかこの戦艦にはジベルとイノマンの2人だけしか乗っていない。
ジベルは2人だけなら自爆して中央艦隊の奴らを道連れにしても良いんじゃないかという自暴自棄な考えに支配されていく。
イノマンも同じようなことを考えていたなど思ってもいない。
「万策尽きたなら自爆もやむえん、幸いにして乗組員はお前と俺の2人だけだ」
ジベルが開き直って言う。
その思い詰めた言葉を聞いたイノマンは危険な賭けに出ることにした。
「だったら最後の賭けをしようか」
イノマンはそう言うと狂気に支配されそうになった顔をしてこっちを見てるジベルにウインクした。
「気持ち悪いぞ」
ジベルはそう言うと余裕が出たみたいに顔をほころばす。
「私たちを無傷のまま捕らえようとするのならチャンスはまだある」
もう少し期待を持たせてやる。
真後ろからの光圧縮エネルギー弾による集中砲火は依然として続いている。
ネプチューンも防御バリアを展開してるのだけど消耗が激しく殆んど役に立っていない。
それでも本体に当たらないのはギリギリのところで外しているのだとイノマンは考えた。
「奴らは光エネルギーを飽和状態になるまで持っていきこの戦艦が身動きできなくなるのを待っているのだろう、だったらそれを利用させてもらおうか」
イノマンが自分に言い聞かせるように言うと指揮卓ディスプレイで入力を始める。
「どうするんだ」
ジベルはイノマンも自爆するんじゃないかと心配になった。
自分が自爆の道を選ぶのは良いのに他人がそれを行うのは許せない。
地球人だけしか持たない理不尽のなせる業だろう。
「心配しなくても大丈夫、私は自ら死を選ぶほど愚かではない」
言い終わると急いでトライアングルウエーブキャノンの照準操作をして撃った。
ジベルが慌てて外部環境モニター画面で後方から迫ってくる戦艦を注視するけど何も起こらない。
(イノマンのやることは何時だって意味不明だ)
そう思って答えを求めるようにイノマンを見る。
「前方スクリーンを見てるといい、もう少しだ」
言われるがままに視線を移すとスクリーンが白一色に輝いていく。
そして戦艦ネプチューンはその中へゆっくりと吸い込まれるように進んでいった。
「何がどうしたんだ、教えてくれるのだよな」
「あの中央連盟艦隊は最初にどんな状況の時に現れたか思い出すといい」
「俺たち皆で最後に残った隕石に集中砲火を浴びせた時だったか」
「そうだその時に時空が裂けて奴らが現れた、だから今同じ状況を作ったのだけど上手くいったみたいだな」
(こいつは何を言ってるのかさっぱり分からん、時空がどうのって言う前に後ろの奴らをブッ飛ばせば済むことだろう)
ジベルは納得なんかしていない。
「それはないだろう、そんなことより後ろの奴らに一撃かました方が早くないのか、集中砲火で時空が裂けたなんて今まで一度だって聞いたことがないからな、お前は俺のことを無知だと思っていい加減なことを言うのならひどい目にあわすからな」
(もう、酷い目には十分遭っているのだがな)
「トライアングルウエーブキヤノンは私が開発したここにしかない唯一無二のもの、中央連盟艦隊が放つ光圧縮エネルギー弾はバリアに沿って前方に流れて行ってたのは分かっていたかな、ネプチューンの前方で光圧縮エネルギー弾が集束するようにバリアの角度を調整した。そこにトライアングルウエーブキヤノンを放つと同じ状況が出来る、理屈はそんなところだ今度は私達が時空の狭間へと入ったんだ……計算通りだとケンタウルス座アルファ星近くに出てる筈なのだがな」
(よく分からんぞ、それにいつ計算したんだ、まあ確かに天才が考えてることなんて想像も付かないけどな)
イノマンがあわただしく計器を調整しだす。
(何をおいてもまず先にここがどこで何時間が経過してるのか確認しないといけないな)
それを見たジベルも自分の仕事を思い出したようにヘッドホンをして外部環境モニターを注視する。
「なあイノマン、あの穴はいつ閉じるんだ」
後方監視を始めたばかりのジベルが腕を頭の後ろで組みゆっくりとした口調で振り向きながら言う。
「閉じてないといけないのだけどな……」
イノマンの顔色が急速に変わった。
バタバタと砲撃手席に行きイスに座るまもなく速射砲を連射する。
「ああ、そうやって撃たないと閉じない仕掛けなのかい」
ジベルが可笑しそうにクスクスと笑う。
しかし、その笑顔は一瞬しか続かなかった。
「何でサジタリウス戦艦が出てくるんだ」
速射砲のエネルギー弾がサジタリウス戦艦が周囲に巡らしてるバリア表面で次々と輝いていく。
それは見方を変えれば暗闇の夜空に弾ける花火の様にも見える。
「ちっ、それほど近付いていたのか」
イノマンがジベルから罵られる前に言う。
「あの時は既に真後ろに居たぞ、お前が何かをしそうだったから邪魔しちゃいけないと思って言わなかったんだ、俺はてっきり後ろに向けて撃ったと思ったんだ、お前も知っていたんだろう」
「手を伸ばせば捕まえられるほどに近付いていたとは知らなかったな、起きてしまったことを後悔しても始まらないこれからの事を考えよう、それと奴らに対して一度でも攻撃すればこれから先の弁明は全て無駄になると肝に銘じておくことだな」
(さっき速射砲を撃ったじゃないか、あれは良いのか……)
「単なる誤解が始まりで一方的に殴られるだけと言うのは性に合わないが他にいい方法は無いのか」
ジベルが言う。
「それをいま考えがえているところなんだがな……良かった現在地は予定通りもう直ぐアルファ星だ」
イノマンは後方から追い縋ってくるサジタリウス戦艦にもう少しだけ待ってもらいたいのだけど上手い方法が思い付かないでいる。
ただ幸いなことに光圧縮エネルギー弾による攻撃は止んでいた。
そのサジタリウス戦艦の艦橋では無意味な質問と返事が飛び交っている。
「今のは何だったんだ」
艦長のアルカブがポステリオル参謀に聞く。
戦艦ネプチューンに接舷できる程に近付いていたのがいきなり艦全体が震撼し白い光に包まれた事を聞いたのだった。
「わかりません」
端的な返事だ。
「ここはどこだ、何があった」
全ての計器がピーピーと五月蝿く警報を放っている中で再び問う。
「わかりません」
参謀のポステリオルは艦長の質問に対応してる暇なんて無かった。
「今のは以前に起きた現象と同じではないのか、ほらコスモトンネルから弾き出された時と……、」
(まさか奴らはコスモトンネルを自在に操られるのではないのか)
アルカブ艦長は真理が見えた様に思う。
「さっきのは、」
「現在地確認できました。ケンタウルス座アルファ星より3光秒90万Kmの位置です」
艦長の真理は航海士カウスによって打ち消された。
「そうか、わかった、奴らがコスモトンネルを自在に作れるということがな」
「それであるのならですよ艦長、コスモトンネルは星星の重力干渉による自然現象ですので新しい名称が必要でしょうね」
ポステリオルが何の疑いもなく受け入れる。
「現在時刻計算できました。アルファ星の光度分析の結果より地球歴1907年です。艦内時差は発生してませんが外部時差が進み2年発生してます」
今度は外部環境索敵士のサーホムが割り込んできた。
「了解した」
何で地球歴なんだとか聞いてこないところがミソである。
「コスモトンネルの時とは時間のずれが真逆になっているのか、だったら新しい名前はコスモトラップなんかどうだろうか」
「コスモトラップ、いいですねそれにしましょうか」
「まあ、奴らが既に名前を付けていなければの話だけどだ」
「そうですけど、今はほらどうしますか攻撃が全て止まった状態のままです。再開の命令を発して下さい」
「艦内に異常はないのだな」
「オールグリーン異常無しです」
艦内環境整備士のリーシャが返事した。
艦橋内唯一の女性士官になっている。
(アルファ星だったら地球人の移民計画が始まってる人工惑星がある筈だが、ネプチューンとはそのまま冥王星のことかな)
アルカブ艦長は考えが纏まりそうなのに何かが引っ掛かってたどり着かない。
「奴らが地球人の可能性はあると思うか」
「十分に考えられます。移民計画反対派かも知れませんね」
「やはり生け捕りにするしかないな」
「貸しを作るのですね」
「これは大きいぞ」
「もう一度推進部だけを狙い撃ちしろ、改めて命令は出さん用意でき次第発射」
ここまで言ってアルカブ艦長はあることに気付いた。
「後続艦はどこに居るんだ」
今、戦艦ネプチューンを追っているのはサジタリウス旗艦のみである。
「現れたのは先頭の戦艦1隻だけみたいだぞ」
戦艦ネプチューンの艦橋モニターで後方を確認しながらジベルがイノマンに教える。
イノマンは機関を全速力にしながら前方モニターを注視していたから。
「穴は閉じてるんだよな」
「ああ何もない、あの人のケツをなめそうになるまで近付いてきてたいやらしい戦艦以外は普通の宇宙が広がってるだけだ」
「また撃ってくるぞ気を付けろよ」
「なあ、次に撃たれたらおしまいだと思うぞそしたら俺たちに明日は来ないここいらへんが潮時じゃないのか機関を停止しようや」
ジベルが暗に自爆を誘ってくる。
(もう少しだ、もう少しで見つけられる予感がする……予定通りだとこの辺りを移民船エム08が通過する筈なんだけどな)
イノマンの顔に焦りの表情が浮かんできた。




