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29.遭遇

 東域宇宙和平維持連盟地球防衛基地の百年祭に参加するために50の艦船に分乗してやって来ていた30万人にも及ぶ中央連盟代表者達はいて座方面より伸びているコスモトンネルが太陽系外縁部に最接近するタイミングを計算して帰途に就いていた。

 当然の理由としてそれを利用することになっているから。

 百年祭実行委員会最高責任者のテレム評議員は36年間にも及ぶ単身赴任を終え順風満帆とまではいかないまでも大役を全うした充実感を噛み締めながら旗艦サジタリウスに乗船していた。

 乗組員が中央連盟代表者といっても東の辺境へ長期間行く訳なので組織の重鎮は参加していない。

 その殆どが抽選会で選ばれた士官以下の一般兵士だった。

 だからといって式典がお粗末なものになるはずもなくテレム評議員のためだけに盛大に行われたといっても過言ではないだろう。

 またこの式典に於いて地球防衛基地はオビス司令官が新たに着任してる。

 一部では初代司令官カシオペアのセギウスはテレム評議員襲撃事件の責任を取らされて更迭されたという噂話しが流れていた。

 何はともあれ今は旗艦サジタリウスを先頭にして全艦隊がコスモトンネルの中を進んでいる。

「全て順調ですかな」

 サジタリウスの艦橋でテレム議員がアルカブ艦長に話し掛けてきた。

「故郷のテレビュウムに立ち寄れないことをご容赦ください、何しろコスモトンネルは途中下車ができないものですからな」

 申し訳なさそうにしながらもジョークを交えた会話をして明るい雰囲気を壊さないように気を配ってる。

「分かってます、里帰りは本部に戻って報告が終わってからになりますので」

「今回の視察は最初から面倒事に巻き込まれて大変でしたからご家族の方もさぞ心配なさってるでしょう、早く自宅に戻って安心させた上で寛ぎたいのじゃないですか」

「ごもっともな事ですけどこれも仕事ですからな割り切らないとやっていけません」

 そう言って前方を映し出している真っ黒なスクリーンに目を移した。

「あれは何ですか」

 そして直ぐ艦長に問いかける。

 艦長は少しきょとんとした表情を浮かべ言い淀む。

(いや、コスモトンネルの中を進んでるのだから何も見えんだろうスクリーンもベタ塗り黒の一色の筈……いや、何だあの光は何かの反射か?)

 そう思ってまず後ろを振り返り何も無いことを確認した時に強い衝撃が戦艦を包んだ。

「状況報告!急げ!」

 何度となく危機を乗り越えてきてる艦長は行動が早い。

 言い終わった時にはテレム議員をシートに押し込み安全防護装置を働かせていた。

「分かりません!突然コスモトンネルが消失したとしか考えられません」

 艦長がそんなバカなと思う暇もなく次の言葉が飛んでくる。

「緊急!左前方1.8光秒に敵艦多数出現!攻撃され……着弾です!!」

 索敵担当の悲鳴が艦橋に響いた。

(通常宇宙空間に出たというのか)

「防御バリア全開!左方全弾発射!左旋回しつつ攻撃、弾幕を切らすな!被害報告急げ!」

 艦長の怒声にも似た命令が立て続けに発せられる。

「当艦より後方追随中20艦が消滅!爆発ではありません突然消失したのです」

「当艦の被害はどうした!」

「異状なしです」

(先頭だからという理由で常に防御バリアを最大出力にしてたのが幸いしたのか)

 艦長の心中は難を逃れた安堵の気持ちと仲間を殺された憎しみか交差してた。

 被害を免れた味方の戦艦が放つエネルギー圧縮弾の光軌でスクリーンが白一色に輝いていく。

「最初からトラップホールでも張ってあったと言うのか?敵の情報はまだか!」

「ビーコン解析出ましたカシオペア座カフ型戦艦3とかげ座ラケルタ型戦艦2あとネプチューンで登録されている戦艦が1隻です」

「何!敵は全部で戦艦6隻だと言うのかあ、たったそれだけの数で攻撃してきてるだと一体何を考えてるんだ」

「いえ、現在敵は全艦が後退…いえ散開していきます」

(一撃離脱戦法…逃げる気なのか、だがそうはさせない)

「全艦隊に告ぐ、攻撃しつつ包囲網体形に散開!敵艦を一網打尽にする、袋のネズミにして殲滅しろ!」

(陣形がバラバラだな、20艦が消失したと言ってたか?この艦隊の半分近くが殺られた訳か、直ぐ後ろに居たのは確か…くそっ!奴ら一人づつ生きたまま八つ裂きにしないと気が収まらんぞ)

「艦長!進言します敵が6艦しか居ないのならば敵が全滅する前に捕虜となる艦を選定された方が良いのではないでしょうか」

 参謀が自分の席で立ち上がり敬礼しながら助言してくる。

「分かっている、あのネプチューンとかいうふざけた名前の戦艦が最新型みたいだ、総指揮官が乗って居るとすればあれだな、私と直属の戦艦5隻で捕獲する、残りの敵艦は全て破壊しろ」

(捕虜は奴らだけで十分だろうさ)

 中央連盟艦隊旗艦サジタリウス艦長アルカブはそのまま自分の席に深く沈んでいく。

「艦長、艦隊再編成の指示を願います」

 艦長が動きそうにないのを見た参謀が指揮卓に上がり声を掛けてくる。 

「お前に任せる、それよりさっきの攻撃は一体何だったんだ」

「予想ができません、こちらはコスモトンネルの中を進行中でしたので外部との接触はどちら側からでも不可能の筈です」

「そうだよな、お前は我々が何故コスモトンネルから出てしまったのか想像できるか」

「情報が不足してますから返事はできません、しかし独り言を言っても良いならば『たまたま奴らが新兵器か何かの射撃でもしていて、その場所を偶然にも我々が通過した』のではないかと」

「たまたまに偶然ね、その新兵器の影響とやらでコスモトンネルと我が友軍20隻が消滅したのか」

 アルカブが独り言の様に言う。

「艦長に申し上げます、戦闘AIの分析によりますと消滅したのではなく『分解した』になっています」

 参謀が指揮卓でAIから得た情報を伝える。

「分解とはまた奇怪な事を言うな」

「それが新兵器の威力なのかと愚行致します」

「分解なら集めて組み立てたら元に戻るのか」

「それは無理でしょう」

「まあ冗談だけどな、それよりあのネプチューンは何時ごろ捕まえられそうかな」

「あちらは最新型みたいで速度がかなり大きいのでこのままでは追いつけそうにありません撃ってもいいですか」 

 参謀のボステリオルが前方スクリーンに映し出されているネプチューンの後ろ姿に片手で照準を合わせる様な仕草をして艦長のジョークに対抗した。

「できるだけ無傷で鹵獲したいものだな、投降を呼び掛けてみたらどうかな」

 艦長は参謀のジョークについて相手にしなかったみたい。

「撃ってはダメだと言う事ですね、それはガッカリです、でも投降を呼び掛けるのは良い考えだと思いますので直ぐにやってみましょう」

 ボステリオルは通信士にネプチューンに向け通信文を打つように命じる。

 内容はつまらないお決まり文句だった。

 それより少し前のこと、ネプチューンの艦橋ではジベルがイノマンを責め立てていた。

「さっきの命令は何だ!艦長は俺だ!この艦隊の最高指揮官もな」

 最後の一言はカシオペア混合艦隊のシェダル艦長を意識して音量が下がってる。

「すまなかったと思ってる、進言する時間が無いと判断したんだ」

 一向に済まなさそうにはしていないイノマンだった。

 でも顔色は青ざめていて発する言葉も震えている。

「そもそも『全艦散開!各自全速力を持ってバラバラに逃げろー』はないだろう、それでは我々が故意に攻撃したと誤解されてしまうぞ」

(ジベルは戦闘経験がなかったかな、私もないけれどもあの世に行ってしまってからでは何をするにも遅すぎるのだけどな、こんなことすら分からないのだろうか)

「だからこの危急存亡の時に必要なのはまず逃げる事だと思うのだがな、相手は既に攻撃してきた……だろう」

 イノマンはジベルがこれ以上短気を起こさないように気を配ってる。

「それでもそろそろ弁明しても良い頃なんじゃないか」

 ジベルとしては少しでも早く悪意があったわけではなく偶然による事故だったと伝えたい焦りがあった。

(何であんな場所に現れたんだ、あの中央連盟艦隊もスリットが使えるのか?そして攻撃力を競い合ってる的に出現したと…いきなり現れたあっちが悪いに決まってるじゃないか)

 彼は自分達に過失はないということをアピールするために考えを巡らせている。

 この時はまだ誰もネプチューンが撃ったトライアングルウェーブキャノンとスパルタ砲と重力砲の相乗効果によって宇宙空間を歪み圧縮しているコスモトンネルを引き寄せ分子結合破壊を起こしその中を進んでいた中央連盟艦隊にも被害を及ぼす事になったとは知らない。

 そして中央連盟艦隊旗艦サジタリウスよりの通信を受信する。

『無駄な抵抗は止めて今直ぐ全機関停止させ投降しろ、さもなくば攻撃する』

 この通信文はシルバーシップのサロメ艦長も傍受するのだけどその時は既にネプチューンが発した『逃げろ』の通信を聞いてその真意を確かめるために戻っている途中だった。


挿絵(By みてみん)

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