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27.三兄弟

 イノマン達がレッドフラックス人工惑星基地に建てた居住区に引っ越してから8年が経過している。

 彼らの住まう住宅は秘密裏に地下を掘ってイノマンの秘密基地と言ってるのだけど材料不足により地下室を彩る研究資材や設備が設置されてなくてがらんどうとした部屋になっていた。

 すこぶる残念なことは本来の目的だったクローン培養槽が未設置のままになっていること。

 最初は自分達が生まれ育った円筒形の縦型培養槽と同じものを導入しようと計画してたのだけど、その大型強化樹脂容器は外部に依頼して製作する物なので出来上がってから搬入することになる。

 この事について常日頃から検討を重ねてきているのだけどリラが反対するので計画が先へ進んでいない。

「こんな大きな物を家に入れてる所を他の人に見られたりしたら何て説明するつもりなの巨大な金魚の水槽ですとか言って誤魔化すの、水族館じゃないのよ」

 初めてイノマンの計画書を見た時にリラが放った開口一番。

 予定の集合時間になって3人が地下室に置かれた丸いテーブルを囲み立ち話をしてる。

 遅々として進まないクローン培養槽の製作や色々な雑務の不満から皆のイライラがピーク寸前になってた。

「やっぱりもう事がここまで進まないのなら僕が最初に言ってたコールドスリープカプセルを改造する案をもう一度考えてみようよ、あれなら外注せずに自分達で改造できるし完成するのも早いと思うよ、だからそうしようよ」

 ポンドはリラが癇癪玉を破裂させる前に決着させないといけないと思う。

「分かったそうしよう、でもやっと材料手配と外注先の目処が付いたので造り始められると思ったのだけどな、それにポンドが言う通りすると子供サイズのクローンしか誕生できなくなってしまうぞ」

「兄さん忘れたわけではないと思いたいのですが冥王星に残ったドールは9歳ペニーなんか5歳で培養槽を出されてるのですよそれが2人共今では僕より年上だ」

 ポンドがイノマンの気勢をそぐ。

「その通りね、私達は水槽を出る前に成長抑制剤を投与されたけどあの2人は私達とは逆に促進剤を投与されてたわ」

 リラが口を挟んでくる。

「促進剤は体組織を活性化させるので寿命が短くなるんだったかな、抑制剤はその逆効果が現れるで良かったはず」

「だったら冥王星に残してきたのは正解だったね、あそこはクローン培養槽が完成してたからもう新しい身体に移れてるだろうからね」

 リラの言葉を聞きながら男2人はうんうんと頷く。

 ここで3人共に言葉には出さなかったけどイノマンオリジナルと地球防衛基地に残った7人の内5人は9歳以下の子供だった、特に培養槽で1年間しか成長してないウオンは2歳で出されていた。

(みんな無事だといいな)

 イノマンが遠い見る目をして想いを馳せる。

 ポンドとリラがシルバーシップを離れイノマンの元へ行ってしまってからのサロメはレッドフラックス代表を務める恋人ジベルの元を頻繁に訪れるようになっていた。

 だから旗艦ネプチューンとシルバーシップはドッキングした方がいいのではないかと思われるほど接近している。

 もう夫婦と呼んでもいいんじゃないかと思われるのだけど宇宙人達にとって夫婦とか家庭といった概念は存在しない。

 自分達の子供が欲しくなった時にはお互いのゲノムを取り出して人工子宮の中で誕生させそのまま成長させる。

 ある程度大きくなってから親が引取り手元で育てる。

 子供は自己紹介する時に誰々と誰々の子であると名乗る。

 これは宇宙人が親の七光りを受けることを当然の権利としてることによるもの。

 もし、ジベルとサロメに子供ができてその子が窮地に立った時『私の両親はレッドフラックス代表ジベルとマーロ星ヘデロ大王の娘サロメだぞ』と言えばそうそうヘタな真似をされることはない。

 しかし出来上がったばかりの人工惑星基地にはその施設はまだ整っていなかった。

 だから誰であれ子孫を誕生させるのはかなり先の事になりそうなんだけど。

 サロメはジベルとの子供が欲しかったのかも知れない。

 ただジベルは人工体であるが故に生殖機能が無いことになっている。

 そんな人工惑星にあるイノマンの地下研究所にきょうだい3人が揃ったから作業速度が3倍になったかというとそうでもなかった。

 その理由はイノマンが作成した計画書をポンドとリラが文句を言って白紙に戻す。

「じゃあ、僕が作る」とポンドが言って作り直した計画書の不備をイノマンとリラが指摘する。

 リラは先の2人から学習してイノマンとポンドの予定を合わせ3人一緒に揃って計画書を作成しようとするけど中々日程を調整することができない。

 やっと揃ったかと思うと日頃のストレスを発散する愚痴の発表の場となりその日の課題に入れない日もあった。

 そんなこんなで時間ばかりが掛かっている。

 しかしそれぞれが身勝手に発言した愚痴の中で工事に関しての多くのミスが見つかった。

 だから早期に対策を講じることが出来て大きなトラブルへと発展することもなく工事は進んで出来映えも想定以上に良くなっていく。

 完成した人工惑星防御コーティングはシェダル艦長率いるカシオペア戦艦主砲の攻撃を受ける事で実証してる。

 その効果は通常の物理圧縮弾であれば2GJの威力に耐えエネルギー弾であれば着弾部分を凹面化させることで熱量が拡散するので被害は発生しない。

 惑星の推進装置については当初エネルギー噴射型を計画していたのだけどイノマンが勿体無いと愚痴ったのを受けてジャイロ効果を応用した重力偏心型推進装置を3人で開発し試験運用を行ってる。

 その初回実証時に人工惑星赤道上空で土星と同じような惑星リングが出現しカッシーニの間隙が幾つも発生と消滅を繰り返したものだからその神秘な美しさを見た者達は歓声を上げた。

 イノマン達が独自開発してる光速宇宙艇はエネルギー核の精錬が間に合いそうになく悪戦苦闘の末、ひとまずは完成させることにしてその後も精錬を引き続き行うことにする。

 最後の研究課題であるスリットに代わる航行手段はまだ開発できていない。

「ねえ、どうにかしてシェダル艦長にもう一度だけ聞いてみない」

 リラが短気を起こそうとしてる。

「あまりしつこいとスパイ容疑を掛けられてしまうからな…駄目だろう」

 イノマンが静かに言う。

「シェダル艦長じゃなくて他に聞ける人は居ないのかなあ」

 ポンドがイノマンを見てリラに視線を移す。

「こんなことならリザード星人ともっと仲良くしとけば良かったな」

 イノマンの返事。

「そうだね、彼らは言葉をストレートに遣う種族だからね…まあそうだね」

 ポンドが言葉の語尾を誤魔化した。

(いや、リラが一方的に嫌ってたからね、リザード星人に声を掛けられても聞こえない振りしてたしさ、あれはどうかと思ったよ)

 リラが爬虫類型人類と理性を心の天秤に掛けて寒々とした表情になっている。

「この際だからスリットの使用方法を知ってそうな人が何処かに居ないか探したほうが早いかも知れないぞ」

 イノマンがリラを解放させるように言う。

「リザード星人じゃない人よね」

 リラの瞳が安堵の表情を浮かべてる。

(シェダル艦長の頑なな表情から察すると他に知ってる人は居ないと思うのだけど僕たち3人が8年考えても合理的な理屈に辿り着けなかったんだからもう話してくれる人を探し出すしか方法はないよな)

 ポンドは諦めの表情をしてる。

「理論上なら光速移動で目的地まで行き、発生した時差を超高速周回運動で巻き戻すで説明できるのだけどな」

 イノマンが今まで散々言ってきたことだった。

「私たちでさえ光速の壁は越えられないのよ、あいつらに出来る訳はないじゃない」

 リラが吐き出すように言う。

「そうだよね北の人達は今の技術では出来ない事をまるで魔法使いみたいにやってるんだよ」

「ポンド兄さん私たちは科学者なの、そんなオカルト発言はやめて下さいよね」

 リラが不安げな表情になり小さくブルッと身震いした。

 2人の兄はそれを見逃さなかったけど揶揄ったりはしない。

 これがポンドだったりするとリラが『オシッコでもチビったんじゃない』とか言うだろう。

「やっぱり酒宴だな」

 イノマンが唐突に言う。

「お酒で酔わせてから聞き出すのね、全く合法的で良い手よね」

 リラが手を叩いて賛成の意を表す。

「合法的かどうかは分からないけど上手くいくといいね」

 ポンドはリラの目的が美味な料理にあることを見抜いている。

「話の流れで実演も出来るように遠くでやりたいな」

「それだったらほら、初めてバーナード星域へ到着した時に宴会を開いた場所が良いと思うよ」

 リラが手を上げて言う。

(リラは浮かれすぎなんじゃない)

 ポンドは少し心配になった。

「宴会を開くのは良いけど理由は何にするのかだよね」

「人工惑星基地完成記念パーティーでいいでしょう『私たちレッドフラックスの記念すべき第1歩はここから始まるのです』とかなんとかさサブタイトルでも付ければカッコ良くない」

 リラがその場で腕を広げてクルッと回る。

 イノマンはそれを見て諦めた。

(ここで別の案を提示しようものならリラが噛みついてきそうだな)

『よし、その案を採用しようバーナード星系の外れまで行って外側から完成した人工惑星を見ながらの完成式典をしようと言えば差し障りがないじゃないかな』

「決まりね、そこで酒で酔わせておだてるとサルだってスリット航行くらい見せてくれるわ」

 リラが勝ち誇った顔をする。

「飲酒運転事故の元にならなければいいけど」

 ポンドがブレーキを掛けようかと考えた。

「星系外よ事故が起きることなんかないじゃない」

(自損事故も事故の内って…言わないほうが身のためか)

「操舵士にはシラフでいてもらおうね」

 3人は顔を見合せクスクスと笑い出す。

挿絵(By みてみん)

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