26.秘密基地
サロメが艦長を務めるシルバーシップにポンドと一緒に居る筈のリラは戦艦ネプチューンにあるイノマンの居室へ来ていて工事を中断している理由をあれこれ問い質していた。
イノマンが今後の予定をポンドも一緒になって説明しようとビデオ通話装置へ手を伸ばした時リラの強い制止にあう。
(あれ、リラの奴はポンドに黙って来てるのかも知れないな、いやそんなことはないかもしかしたら喧嘩でもしてるんじゃないのかな、でもそれが本当だとしたら……怖いな)
イノマンはそれ以上考えないことにする。
リラがイノマンの元を訪れる少し前、シルバーシップでリラとポンドに与えられてる居室の中で2人は言い争いをしていた。
「もういい、お兄様には私の考えが通じないみたい」
リラが床を強く蹴って癇癪玉を破裂させる。
「リラ少し落ち着こうよ兄さんだって……」
「あなたが悠長過ぎるの人工惑星基地を建造始めてから5年も経過してるのよ、基地はもう殆ど完成してるのにどうしてイノマン兄さんは工事を終わらせようとしないの明確な説明がない限り私は納得できない」
「だからってわざわざ行かなくてもいいだろう通話で済むことじゃないか」
「それじゃあここ数日と一緒よ、定時連絡であの人が言ってることを思い出してごらんなさい核心には触れずにのらりくらりと言い訳じみたことしか言ってないでしょう」
「イノマンの考えがあってのことだろう僕たちが口出ししてはダメだと思うけど」
「私たちだってイノマンのクローンなんだということを忘れてないでしょうね、もしも……銭太郎兄さんに何か不足の事態が起きた時にはポンド兄さんがイノマンを名乗らなくてはいけないのよ、だからもっと自覚を持って下さい」
リラはきつい目付きになっていく。
(リラがイノマンを名乗っても問題は起きないのだけどなあ、女性が襲名しましたって言ったって誰も驚かないと思うのだけど)
ポンドはいつか言おうとしてた事が頭の中をよぎったけれど今はその時ではないと十分に理解している。
「わかってるよ、だからそんなことが起きないように毎日お祈りしてるし」
「あらポンドお兄様がそんな信仰心をお持ちだったなんて初耳ですね、それでどちらにお祈りしてるのか教えて頂けますか」
(駄目だこいつ)
冗談も通じなくなったリラには何を言っても無駄だと悟った。
「僕たちはイノマンの補佐なんだから代替案も持たずに一方的に反対意見を出すだけでは駄目なんだよ」
少しきつく言う。
(私は反対なんかしてないのに話が通じてないのね)
リラはうなだれ首を横に振る。
「話にならない、それじゃあ私は出ていくから後は1人ゆっくり反省することね」
そういうやり取りがあってリラはサロメに簡単な説明と連絡艇の使用許可をもらいイノマンの元へとやって来ていたのだった。
戦艦ネプチューンでイノマンが使用しているだだっ広い部屋のダイ二ングキッチン備え付けのソファーとは言ってはいるのだけどそこはもうリビングの領域と言っても過言ではない。
そこに座ってリラはクッキーを齧りながらイノマンと話しをしている。
「それでそう、その宇宙艇を作って冥王星まで戻ったとしてそれから地球防衛基地に行こうって考えてるのね」
リラが先走ったことを言う。
「冥王星の基地がどうなっているのかを確認してからその先どうするのかをみんなで考えよう、あっちに残っている十太郎兄さんやドールとペニーのことも心配だしね」
(刺激しないように話すってのも難しいな)
イノマンはリラの顔色を伺いながら話す内容を変えていた。
「通信傍受やその他諸々の危険要素を排除するために連絡は断ったままだし5年も経ってるんだったらだいぶ様子もかわってるかも、あっ、時差は発生してないのよね」
リラが優しい表情になっていくのを見てイノマンは気が緩んでいく。
「輸送艦と補給艦の歩みが遅いからそんなにはないはずだよ多少はあると思うけど」
リラがはっと我に返る。
「光速宇宙艇だったらこっちから冥王星に戻る時に時差が発生するのね」
「それもあってスリットが使えたら良かったんだけどね、ダメなのだから代わりになるものを開発するまでだよ」
「そんなに簡単じゃないはずよ」
「それこそ3人で考えようか」
「なによ3人寄れば文殊の知恵とでも言いたいわけ」
「あはは、わかってるって僕たちはイノマンだからね」
「そうよ菩薩様以上の知恵をださなくては名が廃るよ」
「わかってるよ凡人には思い付かないことをやろうとしてるんだ、だけどその物理的材料が無くてね」
「材料の話ならカシオペアから来ているセギン星人の艦を分解して調達するんじゃない、あっ、さっき言ってた輸送艦と補給艦も追加ね」
「まだ話しもしてないよ、まあ説明すれば協力は得られると思うけど」
「彼らも早々にこの人工惑星を完成させたいと思ってるでしょうから多少の無理は聞く筈よ、それより表層の工事を行いながら光速宇宙艇も作れるのかが心配よ」
「そうだよリラが言う通りさ結構大変なんだよ、だから居住区に作った地下研究所付きの住宅で3人一緒に住もうって提案を……あっ!」
イノマンは自分の失言に気付きリラは見逃してくれるほど優しくはなかった。
「やっぱりもう作ってるんだ、おかしいとは思ったんだお兄様が口に出す時は何時も実行に移す直前になってからなんだから、そんなの相談には入らないってわかってるの……わかって言ってるんだよね」
「言い出すタイミングを待っていたら工事が始まっちゃって、僕が直接工事するんじゃないし全体図を分からなくしなくてはいけないから細かく分けた図面を幾つもの工事担当者に渡してアリの巣を作るみたいにしてるからストップも掛けられなくてね、悪かったと思ってる」
「反省してるならいいの、訳の分からない言い訳なんかしなくて最後の一言だけで良かったんだけど」
「悪かったよ」
「まあいいわそれで本当はどこまで進んでるの、さあ白状なさい実は光速宇宙艇も作ってるのでしょう」
「何か引っ掛かる言われ方だけど今回に限ってはまだまだだよ、基地の仕上げは材料待ちだし住宅の地下室は仕上がってるけどまだ何も置いてない、宇宙艇は細分化した設計図をそれぞれ関係を持たない班に渡してる所だけどこれも材料待ちで止まったままになってるんだ」
リラは頭を抱えた
(何よ私たちの出る幕はとっくに終わってるじゃない私とポンド兄様に肉体労働でもさせようって思ってるんじゃないの、私は嫌だから)
「これからは何か考えが浮かんだ時点で私たちに相談するの、わかりましたか」
「わかったよ、これからは実行する前に相談するからそんなに怖い顔をしないで欲しいな」
「あらごめんなさい教えてくれてありがとう」
リラはほっぺたをくるくるとマッサージして笑顔を作る。
(リラが緊張を解いてくれて良かったよ)
「でもサロメさんには内緒だからね言っちゃったりしたら仲間に入れろって必ず言ってくるよ」
「わかってるって」
(なんだかなあ、もう少し現実を教えておいたほうがいいかもな)
イノマンは考えた。
「レッドフラックスは連盟と対立しようとしてる反乱者だし、カシオペアを含む北方星域の人達は……侵略者じゃないかと思うんだ」
最後の方は小声で言う。
「兄さんはそんなふうに思ってるのね私もシェダル艦長やあっちの人達にあまり良い印象を持たないわ馴れ馴れし過ぎるのよね、でもサロメ姉さんは良い人よ」
「分かっているさシェダル艦長みたいに笑顔でお金と労働力を惜しみなく出してくれる人は何かしらの見返りを求めているんじゃないかってのは考えておく必要があると思うよ、それによく言うだろう個人ではいい人でも集団になると狂気に走るってね」
「そうね丸裸にされる前に鎧を身に着けて防衛しないといけないわね……」
リラは手に持っていたクッキーを恨めしそうに見てイノマンの口へ持っていく。
(ついうっかり食べ過ぎるところだったわ甘いクッキーと太り過ぎには気をつけよう)
「明日は人工惑星へ工事の進捗を確認しに行くってのをジベル艦長から許可をもらわないといけないな、その時はついでに住宅の下見もしようか」
口に入れられたクッキーを顔をしかめながら食べて言う。
(甘いものが苦手だとはとても言えないからな、くわばらくわばら)
「あらイノマンったらそう言いながらそのまま住宅に住むつもりでなくて……見え見えよね」
「ゴホン」
イノマンは咳払いで誤魔化した。
「だったら私達もサロメ姉さんに許可をもらうよ」
「それは明日だねジベル艦長が一緒に行くって言い出さなければいいんだけど」
「恋人に会いに行くって言うの……そんなの艦長なんだから絶体無理って分かってる筈よそれよりサロメ姉さんが問題ね私たちが基地の住宅に住むってなったらそれこそ自分も一緒に住むって言い出すよ」
「サロメさんもシルバーシップの艦長なんだから無理じゃないかなあ」
「シルバーシップはレッドフラックスの旗艦で旗印なんだからレッドフラックスの基地になった人工惑星に駐留するのは当たり前だとか理由づけするに決まってる」
イノマンとリラは顔を見合った。
「工事の最中だから早朝から朝礼とラジオ体操に参加しないといけないよって言ってみようか」
イノマンが言う。
「それは妙案、サロメ姉さんは朝が遅いし人前で目立つことをするのも嫌がってるから」
「そうと決まれば急ごうか」
「そうね善は急げって言うし」
笑顔のままのリラがイノマンの手を引いて部屋から出ていく。
そしてレッドフラックス代表で新造戦艦ネプチューンの艦長を務めるジベルの所へ行きイノマン3人組の拠点を人工惑星の居住区画へ移し研究に専念することを報告する。
ネプチューン主砲の試射は既に何回か行っていてあとは砲手の熟練度を高めるだけ。
そういった諸々の事も含め説明して許可を得た。
当然のことながら地下に研究施設を作ってるなんてことは言ってはいない。




