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25.人口惑星

 バーナード恒星から0.1AU離れた所でレッドフラックスの人工惑星基地を造り始めて5年が経過している。

「メタルが足りないって話の途中だったよね、バラバラにした惑星のカケラ組成にも無いの?」

 イノマンの居室でリラが言う。

「ああ無いんだ、小さな惑星だったからね無くても仕方がないと諦めるのも早いさ」

「どこにも無い事はないのよね」

「ああ、レアメタル類はバーナード恒星にはあるのだけどね人工惑星の核を作るためにもう何回も採取してるからこれ以上負荷を掛けると分裂するかも知れないので慎重にならざるを得ないね」

「この辺のスペースデプリも回収尽くしたのでしょう、後はカシオペアの宇宙船を2、3隻バラすしかないわね、もう既に長期滞在してるのだから輸送艦は特に必要ないと思うよ」

「そういうわけにもいかんでしょう、何と言って説得する気なのですか」

「えっ、説得なんかしないよ……例えばさエネルギー炉が暴走して爆発したとか」

 リラが再び手にした人工惑星の模型を撫でながら全く悪気なさそうに言う。

挿絵(By みてみん)

「そんな恐ろしい事を何のためらいもなく言うのは冗談でもやめて下さいね、それに彼らはここでの作業が終わったら……」

(ああそうだった、全員は帰らないって決まってたんだったな)

「作業が終わったら何よ、最後まではっきり言わないとストレスが溜まるよ」

(ヤバイ)

 イノマンは誤魔化すのをやめた。

「一部の人は本星へ帰ると言ってました」

「ほうら全員が帰るわけないと思っていたのよね、それでどれくらいの人数が残るの」

「8千人ってとこかな、最初は1万人以上いたんだけど地球出身者に友好的な人達だけに絞らせてもらったんだって、それでも居住区を2層に別けて日常的な接触は回避するようにしたんだよ」

「全員カシオペアの人達だったのよね」

「そうだけどそうでもないんだ」

「どっちなのよ」

「ほら、後から合流したとかげ座リザード星の人達も入居申請したんだけど最初から却下されてたよ、彼等は人種差別だって騒いだらしいけど入居者はヒューマノイドタイプに限るって条文があったんだ」

「そうね、エイリアンの体型毎に居住施設を作ってたんじゃ遊園地みたいになってしまうわね」

「まあね、個別制作するには時間も材料も足りないからね今回は納得してもらったんだけど今後のことを考えてこれから着手する住居は全てスケルトン住宅にするんだってさ」

「当初の計画ではコンドミニアムだったわよね」

 リラが人工惑星の模型を縦半分に分解して言う。

 そこは中心核から同心円状に4等分した隔壁で仕切られた空間があるだけだった。

 1つの空間高さは隔壁を含めて2Kmとなっていたのでレッドフラックス人工惑星は直径8Kmの球体となっている。

「そうなんだけど、これからは多種多様な星人が入居してくるだろうって話しになってね、レジスタンスの事を考えるとコンドミニアムでは危険要素が多過ぎるんじゃないかって結論に至ったって」

「個別住宅にしたら1件当たりの占有面積が広くなり過ぎるでしょうギチギチになるよ」

 リラがおにぎりを握る手付きをして言う。

 何故におにぎりを握る記憶があるのか、それは地球出身者のイノマンが持つDNAに刻まれた記憶がまだ受け継がれていたからに違いない。

「大丈夫、それでもまだ余裕はあるんだコンドミニアム計画の時は森林も作ろうって話だったんだよ、個別住宅に変更したって4LDK2階建て住宅1戸当りの敷地面積が300㎡建ぺい率50%だからゆとりはあるよね、それも公園とかショッピングセンターを含んだ公共施設を建てた上でだよ」

(森林は無くなるけどね)

 イノマンが弁解がましく説明した。

「第3層の表面積はだいたい28K㎡だったはず、それを2層にしたのだから約50K㎡に2万戸の住宅と公共施設を建てて5万人を住まわそうって考えね、それだったらまあまあね」

 リラは理解しましたって表情になる。

「そうだよ2層に分けた1階部分にレッドフラックスを含めた5千人分の住宅と公共施設、2階にそれ以外の住人を居住させる計画に変更されたんだ」

(エイリアンの中でもイカトス人とかの温厚な種族は何とか住めないかお願いしてる最中だけどね)

「それでも今の段階での現実は1万人位が生活するのよね、だったら5万人ってのはどこから出てきた数値なの」

 一定の理解は示したものの彼女の中にはまだ多くの疑問が残っていた。

「人工惑星の大きさがね問題なんだよ、引力を持たせるための中心核の大きさとか遠心力による重力を発生させるための自転速度とか色々な条件を加味していくと、どんなに小さくしてもこれが最小なんだ」

「それが直径8Kmってことなんだ」

 リラは2つに割った模型を弄んでいる

「そうだよ、そこから収容人数を逆算すると5万人になるんだ」

「そういうことかあー、でもまだ議論の余地はありそうだけど今更あーだこーだと言っても後の祭りってもんだもんね」

「分かってもらえて有り難いよ」

 イノマンはフゥーっと吐息を漏らす。

 その様子をリラは横目で睨んでいた。

「話を戻すよ、結局カシオペアの人達が8千人残るんだったらその人が乗っていた船を分解して資材にするって言いなさいよ」

「わかったよ、でも僕には製作委員会に提案するところまでしかできないからね」

 イノマンは渋々といった表情をして頷く。

「でも、表層に何を作るつもりで材料が足りないって言ってるの」

「防御設備だよ、人工惑星基地の電磁バリアを透過した物理攻撃に耐えるだけの特殊弾性コーティングを施すのと電子攻撃装置とか他に色々考えてるんだ」

「あら、当初はステルス防衛機能に重点を置くので攻撃手段は戦艦のみにするって計画だったでしょう」

「連盟の地球防衛基地がそうだったからね、でもここでは戦艦の保有数からして無理があると思って計画の見直しをしてもらったんだ、そしたら今のステルス機能でこの人工惑星を隠す事はできないだろうってなって、だったら最初からここの存在を公にしようってなったんだよ全部製作委員会の決定だからね、それで表層の直ぐ下の第1層を飲食・歓楽施設にカジノを併設して有志がバーナード星域でカジノを開いたって地下情報を流すことになったのさ」

「話しに付いていけなくなったのだけど誰がそんなことを考えたの、まさかとは思うけどお兄様ではないよね」

「製作委員会で検討に検討を重ねた結果だよ、カジノとは言わずに娯楽・遊技場と表現を改めようとするかも知れないけどね」

(最初に僕が人工惑星の存在を隠すのは無理があるからやめようって提案したのが発展してこうなったのだけどね)

 イノマンは額にかいた冷や汗をそれとなく拭う。

(そうよねわざわざカジノって言わないで娯楽施設とだけ言っとけば良かったのよ、でもまあ後から私が知った時の事を考えると怖かったのかもね)

 リラはイノマンの表情から無関係なはずがないと踏んだけど何も言わないで続きを催促した。

「第2層は軍事施設を含めた管理施設が出来上がっているんだ、だから入居も順次始まったって訳だよ」

「そうね入居は始まったばかりだってのは聞いている、何でも工事関係者を優先して入居させて工事を進めていくって計画じゃない」

「これも製作委員会の決定で効率重視を図った結果なんだって」

「何でもかんでも委員会が噛んでるのね」

「そのための製作委員会だからね」

「今度メンバーを紹介しなさいね私もイノマンクローンの一員なんだよ」

「わかったよ」

(なんか『わかったよ』しか言ってないような気がしてきたよ)

 だから余計なことまで言ってしまう。

「ここに僕たちも居住して地下に秘密基地を作ってイノマンクローン第2の故郷にしようって考えてるんだ」

「何を考えてるって……そんなこと初めて聞いたわそれとも私の耳がおかしくなったのかな」

 リラの表情が険しくなって手にしてる模型を投げつけられるのではないかとイノマンは危惧する。

「ごめんよ、まだ誰にも言ってないんだ」

「そう1人で妄想してるだけなら許してあげてもいいかな」

 イノマンは冗談とも本気とも取れるリラの発言癖をどうにかしないと将来取り返しがつかない事が起きるのではないかと危惧する。

 彼女は顔色が青ざめていく兄を見て罪悪感を覚えたのかもしれない。

「誰かに盗み聞きされていたら『冗談でした』では済ませてくれないからね」

 リラが弁解みたいなことを言い始めた。

「冗談だったんだよね良かったよ」

「そうよ兄さんは自分1人で何もかも詰め込み過ぎてるのよ、この人工惑星建造だけではなくて他にも何か企んでいるでしょう、さあ白状なさい」

「いやはやシンクロしたわけでもないのによく分かったね、ほら来る時はカシオペア艦のスリット航法を使ったでしょう、その原理をどうしても教えてくれないのですよ」

「ああ、あれね私もサロメ姉様に聞いたことがあるのだけどあれはカフ星の国家秘密らしくて教えてもらえなかったって言うの、あれを戦闘で使われたりしたら私たちでも勝ち目はないと思いませんか」

「だからそれに対抗出来る移動手段が別にないかなと考えていてね、それと僕達専用の宇宙艇も欲しいよね」

「そうよ、そういうのを含めて私たちを頼ってもらいたいの同じイノマンのきょうだいなんでしょう」

 リラは腰に手を当てて怖い顔をする。

「わかったからそんなに怒らないで下さいよ」

「怒ってなんかしてないし、これからは私たちの意見もちゃんと聞くようにしてくれるよね」

「ああ、そうするよ」

 イノマンは逆らわない事にした。

(これまでもそうだったけど感情的になったリラには絶体勝てないのだから、そうなる前に手の平を返しておかないとこっちが不利になってしまうものな)

「それじゃあ君とポンドの意見を交えながら話すとなるとビデオ通話が必要だよね、用意するからちょっと待ってね」

「ポンドには帰ってから伝えるからいいのビデオ通話なんて必要ないわ」

 リラの表情が更に険しくなっていく。

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