23.カイトス星のイカトス人
北方星域のカフ星人シェダル艦長が率いる艦隊に附随する輸送艦では親睦会という名の宴会がまだ続いていた。
今日は2日目、全員参加を目指すために7日間を開催期間として各艦が持っている人荷用移送艇パージで人員を忙しく往復させている。
ここで久しぶりに兄に会ったポンドとリラはシェダル艦長との挨拶もそこそこに切り上げ、別の席へ移って行ったサロメの後をイノマンを名乗ってる兄の手を取って追ってた。
サロメは会場の中心部を通り過ぎた辺りのテーブルで酒を飲んでいる。
(多分レッドフラックスの人達だろう、会ったことはなかった筈だけどサロメが紹介してくれるといいんだけどな)
イノマンの振りを完全に自分のものにした銭太郎はそう思う。
10人程がテーブルを囲んでいて大きな笑い声と話し声が断片的にイノマンのところまで聞こえてきた。
「サロメさん、さっきは話の途中で浮気してしまいすみません」
イノマンが冗談交じりに弁解しながらサロメの横へ割り込んでゆく。
「私こそ黙って離れて悪かった、仲間達と今日ここで落ち合う約束をしてたのを思い出したんだよ」
サロメは気にしてない様子を見せる。
「お初にお目にかかります、皆さんはレッドフラックスの方々ですよね」
イノマンがお辞儀をしながら言う。
「ああそうだよお互い直接会うのが初めてだったかな」
サロメがイノマンの両肩に手を掛けて後ろに回り込む。
「こちらが冥王星で戦艦ネプチューンを完成させるのに助力を頂いたイノマン君だ、弟のポンド君と妹のリラ君のことは今更紹介する必要はないな」
お姉さん風を吹かせている。
「これからも宜しくお願いします」
イノマンがお辞儀をするとレッドフラックスの面々が飲みかけていたグラスを掲げた。
イノマンは初めて会う人達ばかりだけどポンドとリラはサロメと一緒に行動してたのだから面識がない人は1人も居ない。
「イノマン君は手ぶらじゃないか、ほらこれを飲むと良い」
サロメがテーブル上に取り置きしてたジョッキを手渡し、自分も飲みかけていた酒を手にしてイノマンの前へ差し出す。
「乾杯、これからも宜しく頼むよ」
お互いのジョッキを軽く合わせて口に運ぶ。
「皆を1人づつ紹介したいところだけど…そんな堅苦しいことはせず気楽に話をしてくれないかな、これから先は無礼講で気軽にやろうや」
サロメは面倒なのと早く酒が飲みたいのでそう宣言した。
「わかったそうしよう」
イノマンはそう言ってまず面識があったサイトウの方へと向かう。
彼は戦艦ネプチューンの艦橋で砲撃を担当しているので何回か会って話をしたことがあった。
搭載した新兵器に付いての説明なんかもしたのだけど今のところまだ実際に撃った事はない。
ポンドとリラは顔を見合せて頷き付いていかないことにする。
あまりイノマンクローンのあれこれを根掘り葉掘り聞かれたくないからだ。
(もう十分すぎるほどサロメ姉さんやレッドフラックスの人達には知られてしまってるものな、あとは噂で広まってくれれば丁度いいや)
ポンドはそう思ってジュースを飲む。
サロメがイノマンにジョッキを渡したタイミングでその横に居たくじら座カイトス星のイカトス人からポンドとリラはジュースを受け取っていた。
お互い自己紹介はしなかったのだけど4本の足で立ち2本の触手で探り4本の手を自在に扱う三角頭の人間はイカトス人の他にいない。
シルバーシップの機械室とか通路で数度見かけて挨拶程度はしている。
今回も『ありがとう』だけ言って受け取っていた。
シルバーシップに乗船してるのはレッドフラックスの人達しか居ない。
今のところシルバーシップが唯一の拠り所になっているのだから仕方がないのだろう。
だからシルバーシップに乗船してるのは定員180名に対してレッドフラックス隊員200人が詰め込まれている。
その殆どが地球出身者かヒューマノイドタイプの人間なのだけどその中の25人は太陽系外星系のエイリアンだった。
イカトス人は全部で3人居たのだけど今は1人しか見えないので3人が交代で参加してるみたい。
「お姉さんはカイトス星の出身ですか」
失礼とは思ったけど聞いてしまった。
(イカトス人には間違いないのだろうけど出身母星から他星へ移民してそこを出身星として名乗っている人が多いからなあ)
「はい、私たちは全てカイトス星の出身になります。カイトスは96光年と意外に近いのです。だから移民者は殆ど居ませんの」
イカトス人が持つ2本の触手は相手の思考をある程度なら読み取ることができる。
だからつい先走った返事をしてしまうことが多い。
過去にそれを誤解され迫害を受けることが数多くあった。
「殆どと言うことは移民する人も居るのですね」
他の異星人と話すよりはレアなエイリアンと仲良くなりたいなとポンドは思う。
(触手で相手の思考を読み取るって、凄く微弱な思念波をキャッチしてるのだよな、仕組みを解明できれば絶対役立つこと間違いないんだけどなあ)
「わざわざ母船デネブ・カイトスを出身地として名乗っている人がいます。実際に母船で生まれた人も含めてですけど」
「じゃあイカトス人は全員カイトスの出身になりますね」
「そうなります。だから注意して欲しいのです。カイトスを名乗らない、違う地名を告げるイカトス人が居たらその人はカイトスを追放された重犯罪者ですから関わっては駄目です」
「ありがとう注意します、だけど本人がカイトス出身だと嘘をついたら分からないですね」
「それはないです。重罪人は強い精神操作によってカイトスという単語でストレスを受けるようになってます。自らがその単語を使うと頭の傘から白い煙の様な蒸気が出てきますので判断がつくでしょう」
「わかりました」
(へえ~あの頭って冷却機能が備わってるのかあ…便利なのか?もしかしたら嘘がつけない人種なのかも知れないな)
ポンドはイカトス人と話してる最中にリラが横槍を入れて来ないのを不思議に思う。
「リラ?」
思わず声を掛けるけど返事がないしさっきまで横にいて食べ物を物色していた気配すらない。
「リラ!」
周囲を見渡そうとしてまず会話の最中だったイカトス人と目が合った。
「すみません、妹が居なくなったので捜しに行きますね」
ポンドが申し訳なさそうに言う。
「お連れの方なら、ほらあそこに…」
イカトス人が指し示す方を見ると小皿を持ったリラが大男の間に立ちテーブルから食材を摘まみ取っているのが見えた。
「教えていただきありがとうございます。お話し楽しかったですまた聞かせて下さいね、では失礼いたします」
シェダル艦長と別れる時には言わなかった言葉に気付き申し訳ない気分になってくる。
(リラの奴いつの間にあんな遠くまで行ったんだテレポートしたとしか思えないんだけど)
グチグチと考えながら歩くと直ぐにリラの横に並んでいた。
「リラ、1人で行動しちゃ駄目じゃないか」
「あら、お兄様が楽しそうに女性の方とお話しなさってたのでご遠慮致しましたのよ」
(こいつは何か…焼きもちでも焼いてるのか、それとも『不潔よ』とか言い出すんじゃないだろうな)
「いや、貴重な情報収集だったんだよ、イカトス人って相手の思考をある程度読めるみたいなんだ、これは研究の価値があるなって思ったんだよ」
(別に弁解がましく言ってないよな)
「あら大変、私たちの機密情報を盗まれたりしてないでしょうね」
リラが薄笑いを浮かべているから冗談で言っていることとは分かるでも、返事は難しい。
「脳の表層に出た分だけだとは思うけど、次に会った時に確認してみるよ、それより話の主旨を反らしてもダメだからね」
「美味しそうな食べ物を求めて渡り歩いてただけなのよ、少し離れすぎたのなら謝るね」
言葉の割に悪びれた表情を見せないので反省なんかしてないのが読み取れる。
「リラが食べ物として回りの男共に物色されたら困るんだよ」
「あらここにガルメニ人が居るとでも言うのですか」
「もう、人喰のことではないくらい分かってるんだよね」
「そうね、可愛すぎるのが罪なのよね」
「誰のことを言ってるのかな」
「私とお兄様の事ですよ、双子みたいに似てるのだから私が狙われるとしたら兄さんも一緒よ」
「わかった気をつけるよ」
(あれれこんなんで良かったのかな、リラには口で勝てた試しがないなあ)
「でもあのイカトス人は女性だったからね、そんな心配はいらなかったと思うけど」
「女性用の制服を着てただけでしょう、案外女装してただけかも知れないですよ、イカトス人は最初から体外受精の種族なので体型から男女を区別することが凄く難しいのは知ってますか」
「知ってるよ、でもそこまでする必要はここにはないでしょう」
「鼻の下を長くしたお兄様に近づくのが目的だったらどうするのよ」
「リラはそう思ってて僕を見捨てたのかな」
「私が居たら警戒するだろうから少し離れて様子を見てた…見ようと考えたの」
(そして料理の虜になったんだね、良くわかったよ)
ポンドは大体の状況が把握できた。
「ここには僕らに危害を加えようと考えてる人は居ないと思うよ」
「そうだったらいいね、じゃあ私たちも暫く別々に自由行動しましょう」
(食べ歩きするのに僕が邪魔なんだね、分かったよ)
「食べ過ぎないでよ、後からお腹が痛いって泣いても知らないからね」
イノマンはレッドフラックスの人達に囲まれて楽しそうに飲んでいる。
リラはこれからあちこちのテーブルを巡って美味しい料理に出会うことを楽しみにしてるみたい。
ポンドはもう帰りたいという気持ちを抑えるために手にしていたコップを口に運び初めて空になってることに気付く。
宴会はまだ終わる気配すら見せずに続いてる。




