22.宴会
バーナード星域での親睦会は補給艦と輸送艦をドッキングさせた輸送艦の空きスペースを3千人収容出来るホールに改装して7日間に渡って開催される。
平等に参加できるようにするにはどうしたら良いか考えた末の措置。
全員が同時に親睦会に出席する事はできないので日替わりの交代制にした。
お酒を出さない訳にはいかないだろうという話もあったから。
1日目はチーフ以上の役職者だけで宴会という名目の秘密会議を行い2日目以降は上司と呼ばれる人は出席しない無礼講の親睦会になってる。
2日目の開催挨拶を名誉挽回の意味を持たせる意味合いからリザード星人のタイカがしたのだけど、自分達が太陽系星域まで出てくる発端になった中央連邦評議会テレム議員襲撃事件のお詫びと経緯を時系列に喋りだしたので皆からブーイングを受ける。
話を中断されたタイカがコップを持ったままおろおろし始めたので数人のカフ星人とアイン星人が壇上に駆け上がりこれを引きずり下ろす。
アイン星人バランがタイカが持つコップを取り上げて大きく上に掲げ「乾杯」と一言だけ言って宴会を開始した。
「イノマン兄さん久し振り」
ポンドがリラを伴ってイノマンの元へ歩み寄り言う。
声を少し大きめにしてアクセントも強調し、周囲の人達にイノマンの関係者がここに居るぞとアピールしてる。
何でわざわざそんなことをしてるのかというとチーフ以上の人間はイノマン達のことをよく知っていたし話もするけど一般クラスの人は名前は知っていても話をすることは滅多になかったから一見しただけでは普通のヒューマノイドタイプの宇宙人として認識されかねないから。
今回はイノマンとしても自分達の人なりを知ってもらう良い機会だと考えていた。
特に北方星域の人たちとは、今回是非とも親密になりその高度な技術力と知識を得るためのきっかけを作りたいと考えている。
「やあ、お前達も元気そうで何よりだ」
イノマンは近寄ってきたポンドとリラの頭を交互に撫でながら近くのテーブルに導く。
(もう子供じゃないんだから、そんなに気安く頭を撫でないで欲しいな)
ポンドがそんな風に思っていると見知った顔が視界に入ってくる。
「わあ、サロメ姉さんじゃないですか、姉さんは昨日も参加してたんじゃないですか」
ポンドが思わず口走ってしまう。
「別に問題はないだろう、シェダル艦長も連チャンで来てることだしな」
サロメが酒が入ったコップを持つ手でそちらを差しそのままイノマンに向かって乾杯のジェスチャーをする。
「それはそうですけどよく入場できましたね」
ポンドがそう疑問に思うのは大人数を収容する宴会場の扉では係員が出入りする者をチェックしてるからだ。
手ぶらのイノマンはテーブルの上に酒が入ったコップがないか探している。
「入場できない理由がないからだろう、収容人数にはかなり余裕があったみたいだからね」
サロメはイノマンを待つことなくコップ酒を口にする。
「そうですよね、かなり人数が少ないですね」
ポンドが周囲を見渡すようにして言う。
(あの扉でチェックしているのってもしかしたらここの料理や酒をお土産として持ち出さないか見張ってるのだろうか)
テーブルの上に載ってないといけない料理や酒の量が意外と少ない。
(別の所でグループを作って飲んでるのかな)
ポンドはそんなこともあるだろうと納得した。
「どうもアルコール類は自分で取りに行くか、テーブルキーパーが回ってくるのを待つしかないみたいだな」
イノマンはそう呟くと空のコップにウォーターピッチャーの水を注いでサロメに向かって掲げてから飲み干す。
(これで返杯を果たしたことにしてもいいよな)
義理堅いというよりは結構小心者のイノマンの姿が垣間見えた。
「今日は幹部連中の出勤率が悪いんじゃないか、だからその人手不足を一般隊員で補っているのだと思うよ」
(サロメ姉さんも幹部なんだから、シルバーシップの艦長でしょう、もう…)
「そういう事なんでしょうね」
ポンドはサロメが酔っぱらってしまうと自分に絡んでくるんじゃないかと不安になり早々に立ち去る決心をした。
だから余計なことなど言わず同意の言葉だけを発した後、軽く会釈をしてその場をさりげなく離れる様にして歩き出す。
その時、イノマンの腕を引っ張って一緒に連れて行く。
リラは少し離れた所でオードブルを食べていたけどポンドが歩き出すと直ぐに後ろを付いてきた。
目的の場所はさっきサロメが指し示したシェダル艦長が居るテーブル。
「シェダル艦長お久しぶりです、その後主砲の調子は如何でしょうか」
「ああイノマン君…いや君は確かポンド君だったかな、あの時はありがとうだな、こちらもまだテスト射撃はやってないのだよ」
シェダル艦長はイノマンが手ぶらなのを見て取るとテーブルの上から酒の入ったグラスを取って手渡す。
「まだ撃ってないのですか、シェダル艦長の戦艦に搭載したのは、敵を物理的に絡め取る粘着弾ですから周囲の状況に関係なく使用出来るのですけどね」
イノマンがグラスを受け取ってから言う。
(自分が撃った粘着弾に突っ込みさえしなければいいのだけどね、まあ取扱説明書はしっかり読んでるよな)
「スパルタ砲だったかな、やはり試射は開発者が行うべきだと言う声が多くてなイノマン君に会う機会を待ってたんだよ」
シェダル艦長が自分の酒が入ったグラスを差し出してきたのでイノマンは今手渡されたグラスを軽く接触させてから口に運ぶ。
「あのー、新兵器の名前ですけどスパルタ砲ではなくてスパイダーシルキーキャノンですよ、わざと間違えたでしょう、名前を変えたいのならお好きにどうぞ」
ポンドがイノマンの後ろに隠れて口を尖らせながら言う。
そこまで黙って後ろを付いて来て話を聞いていたサロメだったけど、ふと何かを思い出したような素振りを見せて離れていく。
サロメがつま先立ちしながら辺りを伺う。
(今日、ここで会う約束をしたと思ったんだけどな)
そして遠くに部下のタケダと他の仲間達の姿を見いだし向かっていく。
(ここまで付いて来たのならシェダル艦長に挨拶してから行くべきではないのか)
イノマンは歩きさって行くサロメの背中に声なき声を掛けた。
サロメにしてみればイノマンやシェダル艦長は自分の部下でもなんでもないので意見を求められる前に逃げ出したかったみたい。
「イノマン君もそれで良いかな」
シェダル艦長に声を掛けられて我に返り会話の続きに戻る。
「私は別に構わない、たとえ呼び名が変わっても効果は変わらないからな」
「ありがとう、では新兵器の名称はスパルタ砲とさせてもらうよ」
(どっちの名称にしてもピンとこないな、いっそ粘着の言葉そのままにアドヒーシブキャノンにでもすれば良かったのにと思うぞ)
「ああ、いい名だ」
イノマンは威厳を保ちながらの社交辞令に徹した。
「それと今までの恩返しと言っては大袈裟になるのだけど私が個人的に贈り物をしたいので別れる前にもう一度会ってもらうことは叶うかな」
「帰る前にと言われるのは、かさばるほど大きなお土産なのですか」
イノマンの横でリラが瞳を輝かせる。
聞き間違いによる勘違いなのだろうけど、それについては誰も訂正を入れようとはしなかった。
リラはサロメが立ち去っていく時に一緒に付いて行きたい衝動を抑えて残っている。
今こそ皿に盛った料理を口に運ぼうとしていたこともあるのだけどイノマンの仲間としてこの場を離れる訳にはいかないとの思いの方が強かったからだ。
「いや、ハーフボトルワイン程の大きさなんだけど、その何だ…人の生気が詰まってるんだよ」
「人の精気ですか、その人ってのは地球人のことを指していて、生命誕生に由来するものと考えて良いのでしょうか」
リラが持ってたお皿を取り上げてテーブルに戻したポンドが聞いてくる。
「いや違う、地球人に由来するものには間違いがないのだけど、生命誕生とかには関係しないのだよ、生気は人の生命エネルキーの中でも陽の部分だけを濃縮したものなんだ、大変貴重でトップシークレット扱いになっているけどイノマンならその辺の事情は汲んでくれるだろうし何より興味があるのではないかと思ってね」
「そんな貴重品を只で頂いて良いのですか」
「タダではないさ新兵器のお礼と言っただろう、それに今後もよしなに付き合ってもらいたいしな、まあ本音を言わせて貰うとお前に恩着せがましく胸を張って渡せるものが他に無いのだよ」
「そういうことなら喜んで頂こうかな、人の生気とは一体どのようなものなのか興味が沸きますね」
イノマンがお辞儀をする。
生身の人間で生活していた時に身に付いた教養基礎の部分は幽体に付随しているのでそう簡単には忘れない。
「ただ注意事項が1つあって、ビンの蓋を開けるとその一瞬でお仕舞い…終りになるらしいんだ。だから開けるタイミングを間違わないようにしないといけないと説明書に書いてあった」
「それは重要なことじゃないですか、少しだけサンプルを取って分析することができないのなら…いろいろ考えないといけなくなりますね」
「生気って言うくらいなんだから生物だよね、外部から下手にX線とかの放射線をかけられないね」
そう言った後、リラはテーブルに置かれた別の皿から骨付き肉を直接手に取り微笑んでいる。
「そうだよね、そういうことも踏まえて研究を重ねながら模索していくのが一番いいやり方だよね」
ポンドがリラを横睨みしながら言う。
「まあ、現物を頂いてからあれこれ考えるのが妥当だろうな、捕らぬ狸の皮算用をしても仕方がないだろうしな」
イノマンが話の終わりを告げるように軽く手を叩く。
シェダル艦長と次に会う日時を約束してイノマン、ポンド、リラの3人はサロメが去って行った方へ歩き出す。
サロメが離れていった時からその動向は目で追っていたので今の居場所は分かっている。




