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21.バーナード星域

 バーナード星へはポンドとリラがイノマンを名乗っている銭太郎と共に向かうことになった。

 ポンドとリラは初めてサロメにあった時から彼女のお気に入りになっている。

 それからは何かしら事ある毎にこの2人を伴って一緒に行動しているのがその理由。

 サロメが片時も離さないからだ。

 だから当然この2人はサロメが艦長を務めるシルバーシップに乗船することになる。

 レッドフラックス代表のジベルが冥王星で新造された戦艦ネプチューンの艦長になりイノマンが補佐として乗船した。

 シェダル艦長が指揮するカシオペア戦艦が先導して太陽系の外れまで来た所でスリット航法を行いバーナード星域まで一気に移動する。

 バーナード星が選ばれた理由はケンタウルス座アルファ星に次いで太陽系に近い事と数個の小さい惑星を伴っているのでそれを利用した人工惑星が建造しやすいことだった。

 バーナード星に人工惑星を建造してレッドフラックスの本拠地にするのはイノマンが提案してる。

 サロメが建造した冥王星基地は連盟に押収されるだろうって事は簡単に想像が付いていた。

 あとは十太郎が上手く立ち回って被害を最小限に留めることを期待したい。

 レッドフラックスが掲げる『地球人類の解放』を行うにも移民を実施しているケンタウルス座アルファ星Cに建造された人工惑星を監視する必要があると考えた結果でもある。

 バーナード星域へ向かう船団は戦艦シルバーシップ、戦艦ネプチューン、個別名称が無いカシオペア戦艦は艦長の名前で戦艦シェダルと呼ぶ。

 物資輸送艦と燃料補給艦は1隻づつしかないのでそのままの役割名で呼んでいるのを継続する。

 中央連邦テレム評議員の船がリザード星人の小型戦艦に襲われた事のお詫びと保証に来たとかげ座リザード星人ケイマン艦長とその随伴艦12隻はカシオペア座シェダル艦長の要請を受けて冥王星基地建設現場に入っていたので彼らもバーナード星域まで同行する事になった。

 レッドフラックスと北方星域の混合艦隊18隻が2万人の乗員と共にバーナード星域に姿を見せたのはイノマンがサロメの要請を受けて地球防衛基地を出発してから8年が経過してのこと。

 冥王星を出航してからだと2年が経過していた。

「やっと着いたね」

 シルバーシップの艦橋でリラがポンドに言う。

 リラとポンドは10年前にイノマン研究所のクローン培養槽から出る時、成長停止剤を投与してるのでその姿は15歳と16歳のまま変わっていない。

「2年なんてあっという間じゃないか」

「あらそんなことを言ってついこの前まで『暇だ退屈だあ』を連発してたじゃない、ここに居るみなさんも聞いてる筈よ」

 リラが艦橋で仕事に集中している人達を指差しながら控えめに言う。

 シルバーシップの乗組員は目的の宇宙域に到着したことで旗艦としての役割を全うするため久し振りに神経を張り詰めていた。

 冥王星にあるサロメの居城を出発して1au離れた深宇宙まで25日で行ってカシオペア艦が発動したスリットを全艦で通過してからの2年間は殆んど何も無い宙域を航行してきている。

「スリットを出てからの距離が遠いよ、もっと目的地の近くに出るようにすれば良かったんじゃないの」

 リラがサロメに聞く。

「スリットに入る時より出る時のほうが危険たからね、本当に何も無い宙域を選び抜かないといけないね、だから距離が長くなるのは仕方がないことなのさ」

「改善の余地がありそうだね」

 外部モニターで周辺宙域を見回っていたポンドが口を挟む。

「ここにくるのは初めてだからだよ、一度行ったことがある場所なら星域海図があるから随分と近くに出られるんだけどね」

「サーチを掛ければ良かったのではないですか」

 これもポンドによる質問。

「6光年先をかい、そんなの絶対無理だよ今の技術では3光分先までサーチするのが限界なんだからね、敵に光圧縮弾を撃たれたとしても3分あったら十分対処できるからそうなったらしいのだけどね」

 サロメが現状を優しく説明する。

「3光分というと5千4百万Kmかあ~、と言うと大体どのくらいの距離なんだ…」

 ポンドが言いながらリラを見た。

「兄さん太陽系の火星が地球に一番近づいた時が5千6百万Kmよ、そのくらいなんじゃないの」

 リラの返事だ。

 リラとポンドは心の中で『ふ~んそんなものなのか』と思ってお互いの顔を見る。

(イメージマッピングはまだ僕達しか知らないみたいだね)

 イメージマッピングとは頭の中で目的地を確立させそこまでの正確な距離を測り1本の直線を描く。

 そのままの状態で精神を集中させ1本の線を2本に分けて左右に広げていくと中央に空間ができて道の様になる。

 そこを歩くようにイメージすると障害物が見えてくるのでその場所をマッピングするという技のこと。

 いわゆる千里眼みたいなものだけど誰にでも出来るものでもない。

 でもやってみると意外と多くの人ができた。

 2人はサロメに向かって頷き同時に口を開く。

「分かりました全周囲3光分ですね、結構広いですね」

 事前打ち合わせなんかしてないのにポンドとリラが息を合わせたように同じことを言う。

「それよりサロメ姉さん、後ろを振り向いて話し出したりしてはダメだっていつも言ってるけどちゃんと聞いてましたか、艦長なんだからしっかり前を見てオペレーターの人達との意志疎通を図っていなければいけませんよ」

 リラが当たり前なことをさも重大事のように言ってる。

「そうだそうだ、わき見運転事故の元だよ」

 ポンドが追い打ちをかけた。

(どこでそんな言葉を覚えてくるんだ)

 サロメは不思議がったけど、それより2人しての苦言に少しばかり落ち込んだ。

「少しきつく言い過ぎたかな」

 ポンドがこそっとリラに話す。

「このくらいで落ち込んでちゃこの先やってられないよ」

 リラは大丈夫なんじゃないといった感じで親指を立てる。

(後ろでこそこそ話をされると気が散るんだけど)

 サロメはリラとポンドの席を自分の前に置くべきだったと後悔してる。

 2人は艦長のサロメが立つ指揮卓の後方に備え付けられたモニタリングチェアに座っていたから。

 まだ成年にもなってないけどイノマンの頭脳を持っていることには間違いない。

 だからシルバーシップの乗組員に限らず北方星域船団の人達からも一目置かれていた。

「サロメ艦長、周囲の状況は把握されましたか」

 ポンドが少し声を大きくして聞く。

 サロメと3人だけの時とかこそこそ話はお互い名前で呼びあっているけど仕事中はそんなことはできないのできちんとした役職名で呼ぶ。

「ああ、索敵範囲内には他の艦船とか脅威となる様な隕石群は無いよ」

 ポンドとリラは他の乗組員に対してきちんと仕事をしてるんだよとアピールしとかないとただのお飾りと思われてしまうのではないかと危惧している。

「それは良かったです」

 ポンドが胸を撫で下ろすジェスチャーを交えながら返事をした。

「海賊船や小惑星くらいあったほうが良かったんじゃない」

 リラがからかう様な目付きをしてる。

(ここで止めとかないとヤバイかもな)

 ポンドは退屈しのぎでリラが余計なことを言い出す前に口止めすることにした。

「物騒なことを言うけど試射の事を考えてるんだよね」

「そうよ、より積極的になったほうが良いんじゃない」

「トライアングルウエーブキャノンだったね、百聞は一見に如かずとか言ってまだ詳しく教えてもらえてなかったんだけど、そろそろ良いんじゃないか」

 サロメも退屈だったのだろうリラのやろうとしてる事を予測してそれに賛同しようとしてる。

「そうだね、この宙域なら大丈夫だと思うけど先にやることがあるんじゃないかな」

 真っ向からは反対せずに話の方向性を変えることにした。

「お兄様は他に何か考慮しなければいけないことがあるとでも考えているの、ここへ来た目的は新兵器の試射だった筈よ、だったらまず先に撃つのが当然だと思うよ」

 リラが少し苛立ち始めている。

「それもそうだけどさあー、まずは拠点となる場所を探さないかい、長旅で皆も疲れてると思うよ、だから宴会でも催して一度落ち着こうと考えてるのだけどね甘いスイーツも用意するから機嫌を直さないかい」

 ポンドがリラを宥めるようにして言う。

(今のリラには甘い食べ物の話をして話をそらす必要があるよな)

「スイーツですかお兄ちゃんにしては意外な提案だけど、そうねドミノ倒しみたいに立て続けに事を進めるよりは間を置いて脳をリフレッシュさせてから行動したほうが良いかもしれないね、でもですよ別に私の好物で釣らなくてもお兄ちゃんの考えを伝えてくれたら私は反対しなかったよ」

 ポンドは何か理不尽な思いに駆られたけど何も言わずにグッと堪えた。

 リラがボンドに『ニィ』って感じの微笑みを投げ掛けてから立ち上がり後ろからサロメに近づいて行く。

「サロメお姉さんはポンドお兄様の提案に賛成してくれるかしら」

 ポンドの時とは打って変わって甘えた声で囁くように言う。

「宴会が酒宴にならなければ良いのだけどね」

 サロメも賛成みたい。

挿絵(By みてみん)

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