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18.サロメの居室

 宇宙戦艦建造は冥王星氷層に建設された巨大な3つのドームによって囲まれた中庭みたいになってる場所で行われている。

 ドームはそれぞれサロメの居室がある八角柱をした40階建てのメインタワーとそれと同じ高さのT字形をした工作棟の屋上とシルバーシップを係留させた軌道エレベータの地上400メートルから透明被膜シールドを半円状に展開させて出来ていた。

 宇宙戦艦は既に殆ど出来上がり状態で、後は主砲を組み込めば完成みたいになっている。

 その姿を眼下に見下ろしながらサロメを先頭にしてイノマンのクローン5人が歩く。

「サロメ姉さんのお部屋はまだ遠いのですか」

 サロメの直ぐ後ろを歩くリラが話し掛けている。

 リラの後ろでドールとペニーが横並びで手を繋いで外の景色を見ながら『高いね』と言っては笑いながら歩く。

 最後尾で十太郎が更に後ろを振り返りながらついていってる。

(銭太郎兄さん、本当に迷子なんじゃないだろうな…無事だといいんだけど)

 まあ、大丈夫だろうと思う事にした。

「実は私も初めて来たのだよ、あの正面に見える建物のエレベータに乗って38階に行けば分かるらしいよ」

 先頭ではサロメがリラに優しい声で返事をしてる。

 東域宇宙和平維持連盟地球防衛基地からシルバーシップで5年の航海中サロメはイノマンクローン達のことを弟妹のように可愛がったし、教育係もしてた。

 クローン達も可愛がられるままに逆らわず『お姉さん』と呼んで仲良しになり雑多な知識を深めていってる。

 ただ銭太郎は初対面時からイノマンとして挨拶してるので今さら姉さんとは呼べない。

 十太郎はこの中で一番年上の筈なのに培養槽を出た時から年齢が17歳のままで固定されて三男あたりに見られているのではないかと思い、他のクローン達と区別してもらいたくて姉さんと言わないでいる。

 一同が八角形をしたメインタワーに入って中央エレベーターホールまで来た時に十太郎がサロメに告げた。

「サロメさん、銭太郎兄さんが付いてきてないのですよ、迷子になったと思いますので探してきますから先に行っててもらえますか」

「いや、下手に探しに行くと君まで迷子になるかも知れないよ、ここの職員には私が客人を連れて来てると知らせているから大丈夫だから、上に行って皆で待っていよう」

 サロメがそう言うものだから客人扱いされた十太郎としては従うしかない。

 来た方向を目を凝らして見てみるけど気配すら感じられないので諦めてドアが開いたエレベーターに乗り込む。

 その頃の銭太郎は十太郎の期待通りに迷子になっていた。

 すれ違う人に尋ね歩いている内に今まで得られなかった貴重な情報を聞くことができた。

(これは、迷子の振りしてもう少し情報集めした方が良いかも知れないな『転んでもただでは起きない』とはこういう時に使うのだよな)

 銭太郎がサロメの居室にたどり着いたのは、夕食が済んでもう寝る時間が迫ってきてた頃。

「兄さん遅すぎるよ、みんな心配してたんだからね」

 十太郎が心配というよりは少し怒った風にしてる。

「その割には顔色が良さそうだけど、艶々してるよ」

「そんな筈はないよー、お風呂には入ったけどね」

「お風呂に入ったんだ」

「探しに行こうとしてたんだから」

「お風呂に入ってからかい?」

「もう、2人とも止めようよ」

 一番年下のリラが泣き出しそうな顔をして言う。

 既にパジャマに着替えていて寝る前のトイレに行こうとしていたところ。

「どうしてこんなに遅くなったのですか」

 ドールがリラの側へ行き頭を撫でながら聞く。

「いや、道を尋ねていたら雑談に花が咲いてね

 それが色々と貴重な話を聞けたからさ、皆が集まる場所に行けばもっと話が聞けるかなと思って食堂に行ってきたんだよ、理性的にね」

「理性的って言ってもね、食堂という名前の酒場でしょう…匂うよ、それに兄さんお金はどうしたの?持ってないでしょう」

 十太郎が会話の主導権を取り戻す。

「うん、持ってなかったよ」

「まさかとは思うけど、暗示を使ったんじゃないよね」

「イヤだなあ、たった今言ったばかりじゃないか『理性的』って、ツケにしてもらったんだよ」

「ツケって…兄さんここに来るの初めてだよね、それでツケが利くってイノマンの名前がそんなに売れてたんだね」

「いやイノマンの名前を知ってる人は居なかったんだ、だからサロメさんの名前を出したのさ」

「サロメさんは知ってるんだろうね」

「いやまだ知らないと思うよ、でもここの人達はイノマンの名前は知らなくてもサロメさんが戦艦の仕上げに欠かせない客人を連れてくるってのは知ってたからね、私がその人だって言ったら大歓迎が始まったんだよ、だから皆の分もツケにしてもらったんだ」

「え~っ、僕今からサロメさんの所へ行ってくるから、兄さんは風呂に入っててね」

「だったら私が行くよ」

「お酒の匂いをプンプンさせて行ったらダメだよ、それに酔った勢いでケンカにでもなったら大変だし、大人しくお風呂に浸かってて」

「わかった、でもお酒は飲んでないからね、お酒を含んだ珍しい料理は沢山食べたけどさ」

 十太郎は銭太郎の言葉を最後まで聞かずに出ていく。

 サロメの居室は隣になっている。

 厳密にいうと奥に直接行き来できる扉があって続き部屋になっているのだけど、お詫びに行くのだから玄関へ回ることにした。

 玄関備え付けのインターホンを鳴らす。

(やっぱり明日にすれば良かったかな)

 少し落ち着いてくると、今はかなり遅い時間になってるのに気付く。

 でも、既に室内へ通じてる気配がする。

 引き返したい気持ちを誤魔化すように話す。

「夜分にすみません。隣の十太郎です」

 声が少し震えるのは仕方ないと思う。

 今になってサロメが女性だったことを思い出したから。

「要件は何だ」

 サロメの声ではない。

 十太郎は焦った。

(まさか、部屋を間違えた?)

「すみません。サロメさんのお部屋はこちらで宜しかったでしょうか」

 間違えたかも知れないとの思いから逆に落ち着いて話し出す。

「この部屋は俺のだ、それよりこの星が俺の城と言った方が正解だ」

「はあ?すみません間違えました。ごめんなさい失礼します」

 慌てず騒がず落ち着いて退避しようとする。

「サロメなら奥にいるが、会わなくていいのか」

 ズコッ…ドン

 十太郎は回れ右の途中で体勢を崩してドアに体当たりした。

 そして扉が開く。

「乱暴な奴だな、だが強者は嫌いじゃない」

 開いたドアの向こうには上半身裸で鋭い目付きをした優男が立っている。


挿絵(By みてみん)


 十太郎は直ぐに思い立つ。

(情事の最中!)

 顔 が上気してゆく。

「すみませんごめんなさい。改めて出直します」

 両手を降って詫びる。

「ジベル?誰か来てるの」

 サロメがタオルドライしながら顔を覗かす。

「あれ…十太郎さんでいいのよね」

 少し間が空き確認するように聞いてくる。

「何だ知り合いか、ならば入ってもらえ次は俺がシャワーを浴びてくる番だからな」

 サロメは顔立ちが似ているイノマンクローン達を雰囲気で識別してた。

 銭太郎が名乗ってるイノマンは年相応のおっさん臭さを醸し出している。

 十太郎は若さ故の見くびられたくないとの思いが強いのだろう、おっさん臭さを無理やり醸し出そうとしてるみたい。

 ドールはポンドより少し大きく年齢も2番目に高いのだけどいつも一歩引いたところにいて大人しそうに見える。

 分かりづらいのは女の子2人で年上だけど幼く見える方がペニーとしていた。

「はい、十太郎です。だけどまた明日にします。あっ、要件だけお伝えしときますね・・」

 要件を伝えると微妙な顔になる。

(やっぱり怒るよな)

 十太郎が何と言って詫びようかと考えを巡らす。

 困った表情の十太郎を見てサロメがクスリと笑う。

「勝手に出歩くなとは言わなかったけど、まさかこのタイミングで情報収集して回るとは流石のイノマンと感服するよ」

「迷子になったのを情報収集と言われるのですね」

「そうだろうよ、わざわざ酒場まで行って皆に俺の名前を出して酒を奢ってるんだからな、安心させてお祭り騒ぎをする、そして口が軽くなったところで知りたい情報を聞き出す。スパイの常套手段じゃないか」

「す、スパイだなんてイヤだなあ、僕たちをそんな目でみてたんですか」

「まさか、スパイ活動が日常茶飯時的に行われているから、お前も気を付けろってことだよ」

「そう言うことなら分かりました。僕たちは喩えカツ丼を目の前に出されたとしても何も喋りませんよ」

「カツ丼って何だ?」

「例え話なので気にしないで下さい」

「それにしてもイノマンはどこまで知ってしまったのか、明日聞いてみるしかないな」

「そうですねそれでは失礼します。お休みなさい」

「十太郎君はこっちに泊まっていくといい」

 サロメが悪戯っぽく笑う。

(不味いな、僕が銭太郎兄さんに入れ知恵するんじゃないかと思って軟禁されるのか)

「いえいえ、泊まっていくなんて直ぐ隣ですし、銭…イ、イノマン兄さんも心配するでしょうから帰ります」

「やっぱりイノマンというのは通り名なんだな、本当の名前はセンと言うのか、お前達クローンの中から選ぶのか」

(しまった。今日まで誤魔化せたのに、銭太郎兄さんが余計なことをするから見逃してもらえなくなったじゃないか)

「すみません、その話も明日一緒にさせてもらえませんか」

「いいだろう、別に取って食おうって訳じゃないんだから、そんなに悲しい顔をしなくてもいいだろう」

「帰らせて下さい」

(ここで居残ったりしたら今度はジルベさんだったか、彼に殺される様な気がするよ。

「イノマンに余計なことをを言うんじゃないよ」

(良かった、ちゃんと今まで通りイノマンって言ってくれるんだ)

「かなり酔っぱらってましたからもう寝てると思いますし、今話しても明日の朝には忘れてますから大丈夫ですよ」

(こんな話を信じてくれるといいんだけどな)

「じゃあ明日だな…丁度シャワーも終ったみたいだしおやすみ」

 サロメは挨拶代わりに手を振って十太郎をドアの外へ追い出し閉めた。

 そう、今まで玄関に居座っての立ち話をしてる。

(あれ?サロメさん最初から僕を中に入れる気はなかったみたい)

 十太郎は呆然としながらも安心の吐息をして自分達に宛がわれた部屋へ戻る。

(全ては明日の事だよな…もう早く寝よう…)

 自分はゆっくり休むのだけどサロメ達はこれから激しい運動をするのだろうかと思って顔が赤らんでいく十太郎だった。

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