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17.サロメの居城

 冥王星行き組になった銭太郎と十太郎それに9歳のドールと5歳のペニー、コールドスリープでの乗船を予定していた16歳のポンドと15歳のリラたち6人はサロメが遣り繰りして用意したシルバーシップの4人用個室で寛いでいる。

 寛ぐと言っても戦艦のゲストルームだからそんなに広いスペースではない。

 しかし体格の大きい宇宙人を基準にして作られたベッドは銭太郎達にとっては十分な広さがあるので各々がそれぞれのベッドに座って休んでいる状態だ。

 2段ベッドが両向かいの壁にはめ込まれる様にあって上段に銭太郎、向かいの上段には十太郎が階段に足を投げ出して座っている。

 銭太郎の下段にポンドとドールが並んで座り十太郎の下段でリラとペニーが一緒になって遊んでいた。

 名は体を表すと言われるようにリラとペニーは女性としての幽体が強くなっている。

 イノマンのクローンは生殖器が無いのだけど中性という事でもなかった。

 ポンドとリラがコールドスリープしなかった理由は、シルバーシップに乗船してから直ぐに銭太郎と十太郎で風船型コールドスリープ装置の準備を倉庫で行っているところにサロメが様子を見に遣って来て誰が入るのか不思議そうな顔をする。

「大人を2名コールドスリープさせると言ってたよな、ここには子供しか居ない様に見えるのだけどお前達2人が入るのか」

 サロメが銭太郎と一太郎以外の子供達に目配せしながら聞いてきた。

「いいえ、私達は入りませんよ」

 銭太郎が答えるとサロメの表情が険しいものへと変化していく。

「僕が入ります。僕は16歳もう十分に大人です」

 ポンドが丁寧にお辞儀しながら言う。

「私も15歳、だから入りますわ」

 リラが可愛らしく膝を曲げてお辞儀する。

 それを見たサロメは更に顔色を変えて銭太郎の腕を取り乱暴に隅っこへ引っ張って行く。

「どういう事だ。お前達はあんな子供を大人だと言うのか」

「普通だけど?何か問題でもあるのですか」

 銭太郎にはサロメが言ってることの意味が分からない。

「ダメだダメだ、こんなに可愛い子供をコールドスリープさせるなんてレッドフラックスの行動理念に反しているし…それ以前に私が許さない」

 サロメは言った後からレッドフラックスの行動理念は何だったかなと思う。

「食糧とかの問題があるのだろう、2人には説明済みだし本人達も理解した上で了承してるさ」

「食糧問題は再度考え直してみる。どっちにしろコールドスリープが必要と判断した場合は私の部下から選ぶことにする」

 そう言いながらサロメは戻って子供みたいなポンドとリラ2人の頭に手を添えて引き寄せている。

「お名前は何て言うのかなあ」

 まるで保育園の先生みたいな口調で聞く。

 2人は顔を見合わせて頷き銭太郎を見て自己紹介を始めたのだった。

 その後、その時の経緯を知ったシルバーシップ正規乗組員達は自分がコールドスリープの対象になったら堪らないとの思いから必要以上に節約を行ったので、食糧等の消耗が計画よりかなり少なく推移して誰もコールドスリープすることなく5年の年月を経て冥王星に到着してる。

 銭太郎達6人は5年間の航行期間で多方面での知識を深めていて冥王星の現状に付いても理解していた。

 いや、理解しているつもりだったのかも知れない。

 シルバーシップが建設予定地から上へ伸びる1本の軌道エレベーターに接続されると銭太郎たちを含めた乗組員や運搬してきた資材が下ろされていく。

「思ってたよりスゴいね」

 透明な特殊樹脂で出来たシャフトを下りながらペニーが言う。

「圧巻だね」

 ドールがそれに同調した。

 エレベーターから見える下方には3つの巨大なドームが3角形を描くように配置されその中心に出来た広場で戦艦が建造されている。

「造り始めていますとは聞いていましたけど、これ程進んでいるとは思いませんでした」

 十太郎がサロメに聞く。

「まあ、そうだな思っていたよりかなり早いかな」

(次からはライブ映像で報告させよう。うん、そうしよう)

 サロメも言葉だけでの情報伝達ではお互いの認識誤差によるものが大きいと思った。

 かなり曖昧な返事をしたサロメだったけど、それでもイノマンの若いクローン達にとっては先生であるには違いない。

 何しろ生きてる年数が違うのだから。

 実のところサロメ達長命種族は自分の年齢を把握していない。

 銭太郎がサロメに聞いたら『女性に歳を聞くものではないと教わらなかったのか』と言いながらも『まだ200歳にはなってなかったかな』と言っていた。

『どうしても正確な年齢が必要な時は放射性炭素年代測定装置にかからなくてはならないな』と教えてくれる。

「これならあと5年も掛からないね」

 最年少のリラが言う。

 イノマン研究所のクローン培養槽から成長停止剤を投与せずに出されたドールとペニーはこの5年間、成長促進剤を調整しながら飲んでいたので20歳と16歳になってる。

 リラは培養槽から出された時に規定通り成長停止剤を投与されていて歳をとっていないので15歳のまま、最年少になってしまった。

 だから年齢順に並んだら銭太郎30歳、ドール20歳、十太郎17歳、ポンド16歳、ペニー16歳、リラ15歳になる。

 この時、特筆すべき事柄があって、それは9歳で培養槽を出たドールが20歳に成長するまでの5年間で目覚ましい進化を遂げたことだろう。

 進化というと大袈裟かもしれないが、頭脳や身体能力が常人を遥かに上回り、幾つかの超能力まで身に付けている。

 もはや超人と言っても過言ではない。

 銭太郎と十太郎は2人だけの秘密としてドールだけ進化した事に付いて調査を始めている。

「そうだな、材料の調達がスムーズにいけば1年もあれば私たちの役目は終わるかもな」

 銭太郎がリラの質問に答え終わると同時に軌道エレベーターが地上300メートルに到着して扉が開く。

 サロメを先頭にして長いパイプ通路を歩き出すと十太郎が最後尾に居た銭太郎の手を取って立ち止まってしまう。

「どうした、何か不安材料でも見付けたのか」

(パイプ通路が半透明で下が見えて怖いとか言い出すんじゃないだろうな)

「銭太郎兄さんは新しいクローン体に移らないといけないです。もう限界なのでしょう」

 そう、銭太郎が水槽から出てかれこれ10年の月日が過ぎてる。

「心配するな、あと1年くらい何とかなるだろう」

 できるだけ優しい声を出す。

「僕に時間を下さい」

「何をする気だ」

「銭太郎兄さんが入るためのクローンを生成します」

 十太郎はクローン造りに専念したいから別行動させて欲しいと言ってるのだった。

(そうだな、戦艦の方は指示を出すだけだし私1人でも十分だろう、だったらここは経験を積ませた方が良いかも知れないな)

「よし分かった。十太郎が思うようにすれば良い、但し条件がある」

「ありがとうございます。それでその条件は何でしょうか」

「まず、お前だけではなくてドールとリラを連れて行って一緒に研究すること、教育係だな。定時連絡をドールとリラからさせること。私の命令には従うことだ。この条件を呑めるのなら認めよう」

「ありがとうございます。それでは行って参ります」

(いきなり行くとか言い出してこいつ本当に大丈夫なのか)

 銭太郎は認めた端から不安になっていく。

「行くってどこに…行く宛でもあるのか」

(私に隠れてサロメと準備してた訳ではないだろうな)

 少し怒りが沸いて来ようとしだす。

「サロメさんにもちゃんと説明しとかないといけないでしょう。ここはサロメさんのお城でしょうから」

 そう、サロメの施設だから彼女に自分専用の研究所を用意してもらえないか、十太郎はお願いしようと考えていた。

「そうだったな、それが筋か、でもこんな所で歩きながらする話しじゃないと思うぞ」

「分かりました。後からやっぱりダメだとか絶対に言わないで下さいよ」

「ああ、約束する」

(不安だらけだけどな)

 十太郎はそれで安心した様子でかなり前を行く弟妹達に追い付こうと小走りになってる。

 銭太郎は同じペースで歩きながら考え込む。

(ここで私達6人が集団で行動すると目立つだろうし、下手をすると指導者サロメを洗脳して基地を乗っ取ろうとする悪人扱いされるかも知れない、一度失った信頼を回復するのは難しいだろうからな、そうならないようにしないといけない)

 銭太郎がそんなことを歩きながら考えるものだから前との距離が随分開いてしまう。

 十太郎は前を行くドールの後ろに追い付き、振り返って見ると銭太郎がかなりの後方をてくてくと歩いている姿に呆れた。

(もう少し急がないとはぐれてしまうよ、と言っても聞こえないんだろうな、考えだすと周りが見えなくなる癖は何とかしてもらいたいよ、いっそ迷子にでもなれば良いんだ。そしたら『サロメの居室への行き方を教えて欲しい』って誰かに聞くだろうから『こんな間抜けがイノマンクローンなのか』と思ってくれて親近感を持ってくれるかも知れないのだけどな)

 十太郎も十太郎でここでの生活を快適にするための工作をあれこれと考えてる。

(まあ、クローン生成の話をして銭太郎兄さんが何も言わなかったら僕から助手が欲しいと言ってたけどさ、ドール1人でも良かったんだけどね、ここでは2人づつの3グループに分かれた方が周囲の人達も安心するだろと思うし効率も良いんじゃないかな、でもそうすると僕たちの身が危険に晒される可能性が高くなるのかな)

 十太郎は銭太郎のクローンを生成するという言い訳を作り分離することで、一蓮托生のグループではないことを周囲に示したかったのだった。

「十太郎兄さん、ぶつぶつ言いながら歩くと頭が悪い人に思われるから止めようよ」

 前を歩いていたドールが振り向いて言う。

「ごめんごめん、口に出してたかな気を付けるよ」

 年上の弟に謝りながらリラを見るけど、その横顔はキョトンとして2人の会話が通じてないみたい。

(ドールの奴、もしかしたら無意識でテレパシーを使って僕の思考を読み取ったのかも知れないな)

 十太郎は喜ぶべきか注意した方がいいのか悩みながら先頭を歩くサロメを視線で追う。

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