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16.サロメの元へ

 サロメと別れた銭太郎は基地の表層マイナス7.5層にあるイノマンクローン達が待つ研究所へと下りて行っている。

 東域宇宙和平維持連盟地球防衛基地は直径50Kmの球体をした黒色人工惑星。

 そこのエネルギー源は核にあり、それは4.3光年先で輝く恒星プロキシマケンタウリより採取した核を圧縮して固めたものを利用していた。

 構造は基地表層から上空2Kmに伸びた軌道エレベーターがありそこは主にマザーシップクラスの大型宇宙船をドッキングして物資の輸送等行う。

 基地表層には中型宇宙船以下が入港できる宇宙港があり索敵防衛設備や輸送入管施設等がある。

 表層から数えて核がある基地の中心部まで9層あってイノマン研究所がある7.5層は多種多様な研究所が集まっている場所で似通った研究内容毎にコロニーを形成して基本的に一般人の立ち入りを制限させていた。

 ちなみにその下は8層で核から取り出したエネルギーを安全に使用出来る様にするための変換施設になっていて、9層にある核との間は8.5層と呼ばれ4Kmにも及ぶ特殊防御壁があり人工惑星の重力発生源にもなっている。

 1層から3層までは主に軍事関係施設があり、4層に歓楽街や食堂といった公共施設、5層が住宅街6層はバイオファームを含む食糧自給施設、7層が基地の中枢を担う施設、コントロールルームやメインコンピュータールームになっていた。

 基地の中での移動手段としては縦横無尽に張り巡らされたチューブの中を高速移動するタマゴ型乗り物、通称エッグであったり、縦移動しかできないけど大人数を一度に運べる軌道エレベーター等がある。

 銭太郎もサロメと別れた後軌道エレベーターの1つを専用に切り替えて使い歓楽街がある3層から7.5層までの1万5千メートルを一気に下って行く。

「イノマン研究所の銭太郎さま、お帰りなさい」

 エレベーターを専用で使うためにコードとパスワードを入力したので銭太郎が個人として認識され基地のメインコンピューターが喋りだす。

 コードナンバーで語り掛けてくるような安っぽい真似はしない。

「ただいま、今日は本当に疲れたよ」

 エレベーター内にあるマイク付き監視カメラに向かって言う。

「声紋及び虹彩認証により本人と確認致しました」

「良かったよ、冗談でも『偽者ですね』なんて言われたら、もう倒れ込んでしまうところだよ。それくらい疲れたんだからね」

 会話を続けなくてはいけない決まりになってる。

 会話パターンでメインコンピューターAIが偽者と判断する場合があるからだ。

「そうですか、お疲れのところ申し訳ないのですけど、今直ぐお伝えした方が宜しいかと思われる重要な情報があります。如何なされますか?」

 流石は高性能AIだけのことはある。

(まあ、いつもの事だけどね)

「今回の代償は何を望むのかな」

 AIが『お知らせ』ではなく『情報』と言ってくる時は秘密だけど対価を支払えば教えましょうとイノマンとの間に交わした約束の暗号だった。

「イノマンは人の幽体について研究されてますよね、私は人の幽体が欲しいです」

「この前、AI自身でプログラミングして感情をコントロール出来る様にしてあげたばかりじゃないか」

「プログラムじゃ嫌です」

(う~ん、死んだ人の幽体を宿らせるってのは出来ないことはないと思うけど、それで暴走し始めたら・・・)

「時間が掛かるけど良いかな」

「15年くらいなら待ちますよ」

(こいつ酒場での出来事ををサーチしてやがったんじゃないのか)

「盗み聞きは良くないと教えた筈だけど」

「いえ、イノマンさん達の安全を確保するために必要なのですよ」

「分かった、もう直ぐ着くみたいだし条件は呑むから、その特別な情報ってやつを教えてくれないか」

「良かったです。断られたら睡眠ガスを噴射させるところでしたよ」

「危ないことを言うなあ、何かな私に関係することなのかい」

「そうです。緊急事態です。イノマン研究所は基地公安局の方が来て取り調べをしてる最中です」

「何てこった!ハナコがしくじってたのか」

「いえ、ハナコさんではなくて百太郎さんがしくじってたみたいです」

「百太郎って5年前に1週間だけ家出してた兄さんだろう」

「そうですよ5年前に食堂でイノマン研究所の名前を出して1週間飲み食いしてたみたいでそこの店主が公安を手引きして代金の取り立てに来たのです」

「たかがツケ代の取り立てだろう、大袈裟すぎないか」

「ツケの時効が来る前に回収したいけど研究所は立ち入り禁止区域になっているから公安にお願いした。公安に取っては日頃がら煙たいと思っている研究所へ立ち入るいい口実が出来たのでしょうね」

「その情報は事前にキャッチできなかったのかい」

「ツケの事は全てが紙媒体だったらしくデータプールに無いのです、いくらAIでも人の口に戸は立てられませんからですね」

「そうだよねー、百太郎兄さんも一言くらい書き残してくれれば良かったのに、しかしいくらなんでも借金の取り立てで研究所に公安が来るなんて…見られて困るものを表に出してなければ良いけど」

 銭太郎はクローン培養槽のことを心配した。

(あんな物を素人が見たらどう思うかなんて、考えたくもないよなあ~)

「まもなくB7.5階に到着します。どうされますか」

 銭太郎は壁に取り付けてある鏡に熱くなった頭を当てて冷やす。

「降りない。扉も開けないで4層に戻って」

「了解しました。正常な判断だと思います。結果から逆算しますと、今日のお昼に店主が直接公安を訪れて2人の査察官と一緒に研究所へ入ってます」

 エレベーターが上昇する間、AIが慰める様に言葉を掛けてる。

(さて、これからどうしたものか)

 銭太郎は鏡に映った自分をじっと見つめ、まずはサロメに会おうと考えた。

「AIに提案がある。イノマン研究所での出来事を含め今までのデータをできる限りでいいから全てシークレット保存して欲しい」

「提案と言うからには見返りがあるのですね」

「知っての通り今は緊急事態だ、だから直ぐには無理だけど投資だと思ってくれないだろうか」

「もちろん大丈夫ですとも…兄弟」

 この時、AIの見えざる身体には先が尖った尻尾が生えていたに違いない。

「早速で悪いのだけど、研究所の現状をリアルタイムで伝えて欲しい」

「通信機はお持ちなんですか」

「持ってないな…今の現状はどうなってる」

「食堂の店主が請求書を十太郎に渡して、十太郎は小切手を切ろうとしましたけど拒否されてます」

「たかが飲食代のツケに小切手とか大袈裟な、現金を使いたくなかったのかな…請求金額が幾らか分かるかい」

「請求書の額面は2千4百万ポンタでした」

「何ですって!銭太郎兄さんは金の延べ棒でも食したのですか、内訳も分かりますか」

「明細が細かく書かれてますが…」

「元金は幾らですか、あとは5年分の利子だと思いますから」

「元金はチップ込みで1万ポンタですね」

「へ、へえ~2千3百99万ポンタが利子ですか、計算、狂ってませんか」

「金利といちで計算しますと…単年度決算の元金複利方式で近い数字になります。それに手数料と諸経費が追加になってますね」

「諸経費って手数料に入ってるんじゃないのか」

「まあ、普通に考えればイノマン研究所を探すための調査費、交通費この場合は慰謝料も含まれてると思います」

「それが合法的に認められてるって言うのか、無茶苦茶だな」

「認められていません。訴えますか」

「勝つのか」

「勝ちます。けどハナコさんが行っていた所業も明るみに出て、そちらの罰則が重いです」

「そうだよねー」

「ハナコさんが行っていた所業に付いては近い内に立件されると思います」

「そうだよねー」

「どうされますか」

「まずはサロメを頼ろうと思う。居場所は分かりますか」

「五番街の居酒屋マリーに戻っています」

「マリーって名前の居酒屋だったんだね、名前はどうでもいいとして店長、いやバーテンダーだったかな…連絡してサロメに待って居て欲しいと伝えて貰えないか」

「了解しました。今、お伝え完了しました。2時間だけなら待てると返事頂きました」

「早いな、よし急ごう」

 銭太郎は大衆食堂、娯楽施設、大人施設がある4層へ急ぐ。

 最後に訪れていた居酒屋マリーの扉をくぐると最初に座っていた奥の4人掛テーブルでサロメが手招きしてくる。

 銭太郎が事情を説明すると渋い顔をしてきた。

「イノマン君との話は無かった事にしようか」

「そんなことは言わないで欲しいな、私も助手が居れば戦艦の完成が早くなるし迷惑は掛けないから」

「冥王星まで5年間の食糧を考えるとあと2名しか連れていけない、それでもいいか」

「分かった。私も数えて全部で5人だね」

「お前は私の言ったことを全く聞いてないのか、足し算もできないアホなのかどっちだ」

「あはは、サロメは食糧の心配をしてただろう、それであと2人と言ったんだよね、だったら子供は半額2人で1人分でいいんだよね、それと大人2人をコールドスリープさせれば問題ないよね、私と助手の十太郎と子供2人で3人だよね」

「コールドスリープさせると言ったな、装置はどうする私は持ち合わせてないぞ」

「大丈夫、風船式の簡易装置を持っていくよ、僕と十太郎で1台づつ運べばいいしね、大人2人はサロメの宇宙船まで荷物を持って歩いて貰うし問題無いと思うよ」

(そんな簡易装置とやらで冥王星までの5年間持つんだろうな)

 サロメは心底不安になっていくのだけど銭太郎はそれに逆比例するような笑顔を向けて言う。

「じゃあ、研究所に戻るよ、段取りが終わったら直接宇宙港へ行くからね、サロメは直ぐに出港できるように準備して待っててよね」

「お前、直接って…どの船に乗るのか分かってるのか」

「あっ、船名だけ教えてよ後はこっちで調べるからさ」

(本当はAIに聞けば直ぐに教えてくれるんだけどね)

「シルバーシップだ」

 サロメが胸を張って誇らしそうに言う。

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